焔風の支配者・六
──正午・町中──
「……ミサキ?」
俺がミサキがいないことに気付いたのは、家まで後もう500mくらいのところだった。もうすぐ家に着くため立ち回りを確認するために振り返った矢先、そこについてきていたのはハナビ一人だった。それを見て、ふと足を止める。
「はぁ、はぁ、──いたっ、ごめんなさい、前見てなく──お兄ちゃん?」
「まずこっち優先だな。ハナビ、走りながら話す……要はミサキが消えた」
「えぇ!?じゃあどうするの?」
「バテたりしてるんだったら声くらい出してるはずだ。誘拐とか、そういうことは今の状況的に無いだろ。恐らくミサキは自身の意思で止まったんだろうな──ハナビは家で待ってろ。俺としてはミサキを探すっつう仕事が増えただけだ」
「そう……」
急ごう。俺だけなら安全に動ける。こんなものに直撃するほど俺は弱くないんだ。ただハナビは──ハナビには能力がない、魔力すらも使えない、よってもう動けないはずなんだ。昔からハナビは確かに体力が人一倍あった。少なくとも魔力強化を使って走り回る俺について来れるくらいには。ただそれは運動神経が良かっただけなのだろう。正直言ってしまうとハナビは……足手纏い。
あぁ、わかってるさ。絶対にそんなこと、死んでも口には出さねえ。それだけはハナビを殺しちまう。
そうして俺たちは走って、走って、走り続けて──
「──よく頑張ったハナビ。ここにいれば安全だ」
玄関のドアを開けながら話す。静かに、ゆっくり、息が上がっていることを悟られないように。
「……うん」
背後から聞こえるハナビの返事はいつもより遅いのに加え、弱々しい声だった。
「いいか?これが終わるまでこの家からは出るな。そしてミサキ以外はこの家に入れるな。一人で寂しいかもしれねえが、ミサキが来るまでの辛抱だ」
「うん……わかっ…た」
「じゃあハナビ──また後で」
「……」
そう言って俺は扉の外に出て扉を閉める。鍵をかけようとしたところで家の鍵を持っていないことに気付いた。
深呼吸?息を整える?要らねぇよそんな事。
植えられている木々を爆破して炎が燃え広がるのを防ぐ。結局のところ火というのは燃えるものが無ければ存在しないのだから、俺ができることはこういう事だけだ。
「まずはそうだな……俺らの父のとこでも行くか」
俺がこうやってまだ活動している理由、それは簡単な理由だ。ただ俺が動ける、それだけで俺たちの生存率は大きく上がるからだ。事前の発言から町を完璧に守れる可能性が低い事はわかっている。
(なら、息子が応援してやらねえとなぁ!)
絶望の連鎖の中、俺だけは笑顔を浮かべ続けられる。どんな逆境でもやってやんよ、それが本来の──能力祭を襲撃した、戦鬪狂のヒバナという存在だ。やるからには全力ダッシュ。手加減も何も要らないさ!
こうして俺は走り出す。向かい風を突っ切って──
「──────!」
そんな言葉はもう、俺の耳には聞こえなかった。
──再会直後・ミサキ視点──
「チハヤ……どうしてここに……?」
「会いにきた!」
チハヤの顔は真っ赤だ。汗でびしょびしょになってより一層赤くなっているチハヤの顔に、目と体を逸らさないようにしっかりと向ける。
「私、に?」
「そう!それで、謝りたくって……前のこと」
「そう……ありがとう。私、びっくりだよ、こんな息切れするまで走って、そんな……ことで…………。ねえ、どうしてこんな所に来たの?ここは危ないよ……私が戻ってくるまで待ってれば良かったじゃん」
「……危険なのはミサキの方もでしょ!?それに、あんなこと放置してたら夜も眠れなくって……あはは、おかしな話だよね……」
「うん……」
「……」
「……」
「「あの!」」
「……そっちから良いよ」
私がそう言う前に言われたので話し始める。
「じゃあ私から……ごめん。私はチハヤについて何も理解できてなかった。それで、えっと、きっとチハヤは──」
「待って、危ない!」
チハヤが話を遮った刹那、近くの建物に岩が落ちてきたのか、大量の瓦礫が私たちに降ってきた。まずい、量が多すぎて避けられな──
「私に任せておいて、二人は話してれば良いよ」
瞬時に飛び出し、全ての瓦礫を異空間に送ったミズキ先生は余裕そうに親指を上に突き出してウインクをする。
「あ、ありがとうございます先生──そうだ、前やったみたいに同時に能力を使わない?もしかしたら前みたいに出来るかもよ」
「え、えぇ?あれかぁ」
「一番手っ取り早いし、どうかな?」
正直あの方法はあまりしたく無い。あれが無ければこんなことにはならなかった。あれさえ無ければ私たちの友情にヒビは入らなかった。絆は──途切れずに済んだ。それでももう一度やり直せるなら、途切れた絆をもう一度結びなおせるなら──
「……わかった」
「よし、じゃあせーのでやろう?」
そう言ってチハヤは私の両手を取る。いつもならそう言うことはびっくりするし距離が近すぎるためあまりしたく無いのだが、今回だけはそうはいかなかった。不快感どころか、幸福感でいっぱいになるのを確かに感じられた。
「「せーのっ!」」
(正直もう、なんであんなに思い詰めていたのかすらも忘れちゃったな)
(それでももう一度二人で笑えて良かった)
場所も状況も全く違う今、私たちは再び、望まれた共鳴を始めるのだった。
次、記憶(雑すぎる省略)
正直今記憶話入れるかは悩んだのですが、一番すっきりするなということでこのパターンを採用。




