焔風の支配者・五
作者はサンタさんもお年玉も冬休みも来るような歳なのでこのシーズンは最高なんですね。
──午前11時50分・公園──
「……まさか、5分も持たないとは……」
音はなかった。激突の音じゃない、風壁が限界を迎え、濁流が入り込む音だ。この位置からは見えないが感覚的にそう感じる、それだけで確信を持つには十分である。
知ってはいたんだ、知識としては。ただそれが現実になっただけ。そう、なっただけのはずなのに──こうも想定外が多いという事もまた想定外。もうじき山肌付近の一部の町は物理的に消えるだろう。
私の失態であるとしても、それを「仕方ない」で終わらせてしまうのは私自身が納得できない。山の怒り、世界を変えるような天変地異に個人が太刀打ちをしようという時点でもう傲慢であるということかもしれないが、一抹の後悔は頭の中を巡り続ける。
(風壁の範囲を狭める?いや、そんな事はしない。実際これでも何もしないよりかは被害を抑えられてはいる……はず。最低で今の範囲、それをキープだ)
脱力感が体を襲って、それに抗うことはなく車椅子により一層体を沈ませる。この呼吸がただの呼吸なのか深呼吸なのか、はたまたため息なのかはわからない。はぁ。
(頼むよみんな、私たちがすることはひたすら耐えるだけ。耐えてさえいればいつかは終わる。その後はきっとそれぞれで生きていけるから……)
目を閉じると、どこか浮遊感を感じる。私もみんなと同じ、ただの風。その風が誰かを涼ませるのか、凍えさせるのか、吹き飛ばすのか。そんなことは私には決められない。それでも今ここに集ってくれた風たちは、この町を守る事を名誉に思ってくれるかな。
──同時刻・町中──
「おい!まだまだ落ちてきてるぞ!全員建物の中に入れ!」
「建物も危険だ!地下シェルターとか無いのか!?」
「嫌ぁぁあぁあ!!!うちの子が、うちの子がぁ!」
「ダメだ!火の出どころが多すぎて消化できない!早く避難するぞ!!」
「おかあさぁぁあん!!おとおさぁぁぁあん!!!うわあああああん!!」
町の混乱は思っていたよりも大きく、至る所からこのような叫びが聞こえてくる。視界に映る人々は皆、私たちとは違う表情をしていた。その言葉を表すならそう、「目の前で知り合いが死んだ」かのような絶望と恐怖でグチャグチャになっている。私たちは走り続ける。
至る所から出てきている炎がこの町全てを熱しているかのようで暑い。汗が止まらないのはヒバナさんもハナビちゃんも同じだ。私は止まるわけにはいかない。止まったら逸れてしまうから。一生懸命、文字通り死ぬ気で走る。
──二人とも速い。息切れをし続けている私と相反するように二人はハイスピードを維持したまま走り続ける。クッ、やっぱり基礎体力が足りてなさすぎるな。こんな事ならもっと走り込みとかしておくべきだった。後悔先に立たず、それよりもこの状況に集中せねば。
もう一度空を見上げると、すぐ近くに小さめな岩が落ちてきているのを見て私は咄嗟に目を瞑る──と同時に、爆音と衝撃波、そして新たな火の元が現れる。それにより更に人々の叫びは増す。その繰り返しでもう人の声が聞こえなくなりそうだ。能力は発動できない。そんな事をしたら感情の音で逆に私が気絶するだろう。
それでも私は耳を澄ませる。こんな時こそ冷静になれば、人々の叫びこそが最速の情報であると感じたからだ。
嗚呼、聞こえるよ。後悔、憎悪、絶望、脱力、失望、葛藤、嗚咽から吐血まで、埋め尽くし、撒き散らし、終わることの無い底知れぬ恐怖、恐怖、恐怖。でもその中にきっと希望はある。
「ダメだ……もう、みんな死んじゃう……」
「これは神の怒りなのだ!我々は今まさに、裁きを受けているのだ!今からでも、神を信じよ!!」
「例え世界が滅びようと、僕は君と一緒にいたい……」
「でも、怖い!」
「富士山側の町が山に呑まれたらしいぞ!この町にもう安全な場所は無い!」
「皆さん落ち着いて!屋根のある頑丈な建物の中に避難してください!」
「うわぁ!なんで地面が割れて……」
「足元に気をつけながら走れよ!」「怖いよぉ、誰かぁ、助けてよぉ……」「俺の友達が瓦礫の下敷きに!」「皆さん!!落ち着いてください!!」「暑いよぉ……もう、歩けない……」「水道も電気ももう止まっちまった……」「ミサキ!!」「誰でも良い!カネならあるから、私を助けろ!!」「俺がこの災害を止めて……うわああ!」
……有益な情報はあまり無いのかも──いや待てよ?今何か変なことが聞こえて……私の名前あった?いやでもあの声は……聞いた事あるかも……
ちらりとその声が聞こえた方向、私の後ろを見る。そうして私は──いや、私たちは再会を果たす。
本当に久しぶりな顔だ。離れていた時間は一週間だけのはずなのになぁ。
いつの間にか私は足を止めていた。
あーあ、なんて声かければいいかわからないな。チハヤ。
立ち位置的にはチハヤがミサキを見つけた瞬間にミズキを追い抜いてダッシュしている感じ。




