焔風の支配者・三
タイピングが遅いのかシナリオ作りが遅いのか。
──噴火3分前・富士山町──
(あー、もう無理。もう止められないわこの子)
いやー失態失態。人の執着って怖いね!今回改めて実感することになるとはまず思わなかったけど本当にやっばいわ。
私は頑張った!精一杯遅延行為に励んだ!わざわざ仮拠点集落の観光にまで持ち込めたのは良かったけどそれじゃあ1時間も止めれなかったわ。というか多分初動でミスったなこれ。最初からゆっくり行けば移動である程度時間稼げたけどもうチハヤは私が早く行けるって知っちゃってるしなんなら私から言っちゃってるし……
あれ、もしかして全部私のせい?私が勝手にいろいろ仕組んで苦労して悩んでるだけ?うわぁ。
(だがしかし!もう私の勝ちはほぼ確定しているのだ!ミサキたちは今中央の公園にいるが私たちは富士山の山肌付近、そしてここから私は助けない。つまりはもうチハヤはミサキのことを見つけられないのだ!)
絆強化の範囲もあれど富士山町は意外と広い。というかなんなら絆強化が作用するかも怪しい。もうすぐ噴火のはずだし、あとはゆっくり待たせてもらおう──
「うっ、くっ……ミサキ、一体どこに……?」
「……」
「早く、謝らないと、ミサキ……もう一度……早く……」
「……」
「……早く、早く……!本当に、どこ……?」
まるで迷子になった息子を探すかのように必死なチハヤを見るとやはり申し訳なくなってしまう。きっとあの頬を伝っている汗さえも、焦燥感から来る冷や汗なのだろう。
……本当にこれで良いのか?この感情は、チハヤのこの感情は本当に必要なものなのか?
この焦燥感は気持ち悪かろう。罪悪感で常に誰かから見られているような気分で嫌だろう。一時の感情であれど、その時の感情は「嫌」一択だろう。私がそんなことをしていいのか?私が?何よりも、誰よりもそれを嫌ってきた私が!?
……意思を曲げるな天城ミズキ、これは私からの教育?いや、これは試練だ。学校という世界しか知らない、日本区という檻の中しか知らない彼女らをもう一度大空に飛び立てるようにする、必要な経過点のはずなんだ。
何度でも謝ろう。すまない、チハヤ、そしてミサキ。分かっているんだ、本当は。
友達と、それ以上に他人との関係は人生に大きく影響する。それが良いものになれども、悪いものになれども、関係が、友情が、それらはきっと大切なことだ。放っておけないし、いつかそれが切れてしまうかもしれないと常日頃から怯え続けている。私だってそうなんだから、他がそうじゃない道理がない。
ずっと前に決めたじゃないか。これは計画の一部だ。そしてその中では、生徒たちは私の駒だ。感情を殺すつもりはない。ただ私は、その機会を作る、提供する。それだけだ。
(それでも、今回は失敗だった。それも久々の大失態。でももう仕方がない。このまま、強行する!)
この一年──特別教室を作ってから自分の間違いが増えてきているのがよく感じ取れた。
(私にも、まだ未熟なところはあるんだな。やはり完璧なんて────来た)
「な、何…!?」
時計はきっかり11時46分と、30秒を指し示していた。
初めに聞いたのはゴゴゴという唸るような低重音と共に大きな揺れを感じる。そうしてその後に十分全てを貯めたかのように揺れは収まり……一息に爆発した。
富士山が、噴火した。
「何!?え!?こ、何で、先生!?!?」
「落ち着いて、パニックになっちゃうのが一番ダメ。ほら、大きく、ゆっくり息を吸って、吐いて、大丈夫、何があっても私がいる」
「でも、せんせ、あ、あれ!?嘘、はぁ!?!!」
「大丈夫、チハヤは強いから大丈夫。今のは噴火って言ってね、山が爆発して溶けた岩とか灰や岩石が降ってくるっていう自然災害の一種なんだ。大丈夫だよ、地震とそんなに変わらない、ただの噴火だ。……ほらね?」
「ぁ、あ、ぁ、」
口ではそう言っているが、少しずつ落ち着いていってくれているのか、涙目ながら心拍数の上昇は止まった。
「なん、でも、こんな……?そうだ、そう、ミサキ、ミサキは!?」
「ミサキ、ね。ミサキならきっと大丈夫だよ」
「きっとじゃダメに決まってる!どこにいるか今からでも探して……」
「……チハヤ?」
「もう、嫌だって、友達なのに、仲間なのに、私以外で、そんな、ミサキ……ミサキィ!!!」
「落ち着け!……ミサキは絶対大丈夫!他の誰でもない私が保証する!」
しまった、この感じ、追い詰めすぎた!このままじゃチハヤは………待て、この感じ、既視感がある。
「……あれ?なんか……」
あぁ、そういえばいつもそうだった。私だって何度も何度も見てきた光景だし、実際に自分がこうなったことだって何度もある。
人が成長するきっかけの一つは、他でもない激情だった。
私だからわかる。魔力の流れを、能力の変異を、そしてチハヤ本人の変化を。
(能力の進化……なんてタイミングだ)
能力の進化には色々な方向がある。既存の能力が更に強化されたり、それを元にした全く新しい能力に分化したりと、つまるところ私ですらチハヤがこれからどんな能力を得るのか予測できない。
私が固唾を飲み込む中でも、チハヤは体に突如として訪れた変化に疑問を抱いているようだった。しばらくチハヤの動きが止まっている間、風による防壁が私たちのすぐ近くを覆った。そうしてまたしばらく経って、そしてチハヤは──
「──なんだか……ミサキの場所が分かる気がする……でもなんで?何か変な……あっちだ!」
そう言って魔力強化全開で走り出した。向かう先は恐らく町の中心部だろう。
(!もうバレたのか!?なるほど、これがチハヤの進化後の能力か)
しかし私はチハヤを止めなければ……止めなければ……ん?待てよ。そこまでする必要はあるか?
そこまで考えて私は一人足を止める。チハヤはそれに気付いていないようで減速など一切せずに走り続けているが関係ない。
(冷静になれ……私は馬鹿か?)
いや、ここで断言しよう、私は馬鹿だ。
私は教師だぞ?生徒を導き、先を生き、未来を託す。それが私なんだ。そんな者がどうして生徒の成長を悪く思う?
クソ、一瞬でも「まずい」とか「ヤバい」とか考えていた自分を殴りたい。そんな奴は教師失格だろ。
生徒を思って?先の事を思って?やっぱ馬鹿だろ私。そんなの私の自己満だろ!生徒を──チハヤを思うのなら、まずチハヤを信じてみろよ!!
私は一瞬にしてチハヤの横に行き、伝える。
「チハヤ、今でもまだミサキに会いたい?」
チハヤの顔はもう汗で歪んでいた。全速力で走っているのだろう。むしろここまで走り続けていることが奇跡だ。だがそんな私の言葉に彼女は
「もちろんです!」
しっかりと、はっきりとそう返した。
「それで会ったら……どうしたい?」
「もう一度、仲間として歩めるように、この絆を掴みたいです!」
「そっか、やっぱり私の早とちり、か。……じゃあ私についてきて。抜け道を教えてあげるよ」
私はまだ移動する速さを変えていなかった、というか変えれなかった。チハヤは未だに全速力をキープしていた。
ミズキに関してはミズキ自身が最強なせいでこうやって自分の間違いには自分で気付かないといけないという感じです。
全世界でミズキにとやかく言えるのは実はレンとフォボス、テイラーくらい。




