焔風の支配者・一
なぜか予約投稿できなかったので今投稿します
やーーっとここまで来れました。
とは言っても今回は明確な敵がいない分バトルが無い可能性があります。
荒野の中で一人きり、私は立っていた。空が紅くて暗く、所々に雷が見える。風はいつにも増して重苦しかった。目の前に聳え立つ山脈の中、際立って高い山がまるで立ちはだかるように存在感を放っている。まさにアポカリプスを体現しているようだ。
(これは……夢だな)
あるはずの車椅子が無く、妙にふんわりとしている感じがこの光景にどこか距離感を感じさせるが、それでも久しぶりに見る悪夢、少なくとも恐怖は感じる。幸先が悪い。
今から目覚めるのもいいが、なんとなく自然に目覚めるまで待つことにした。
山々から漏れ出るような真紅はまるで燃え盛る炎のようであるが、それが進歩ではなく破滅の炎であることは見るまでもない。気付けばあたり一面が雲で覆われていた。
紅く照らされた黒雲の雷が一筋、目の前の一番高い山の頂上に落ちる。と同時に、世界が割れ、荒野は散り散りになり、私はその中に埋もれていった。硬い瓦礫の中、私は動けない。苦痛は感じなかった。感じたのはやはり底知れぬ絶望だけだった。
──9月28日 噴火10分前・公園──
「いい?二人とも噴火したらヒバナから離れないでね」
土曜日の昼だというのに公園にほとんど人がいないのは単なる偶然だ。でも今はそれが好都合、力を思いっきり使える。
「噴火って何?ねぇ、みんな……そんな真剣に……?」
「……ヒバナさんは知ってたんですか?」
「知ったのはこっちについてからだ。俺からは何も言えねえ」
やはりと言うかなんと言うか、困惑している二人を見て申し訳なく感じる。もし「今から巨大地震が起きるよ」なんて言われたら、対策する事は出来るかもしれない。それでもこの心の奥底から滲み出る本能的な恐怖、そして絶望からは逃れられない。
「……みんな、本当にごめんね。結局私はみんなに…そう、何よりも感じさせたくなかった絶望を感じさせている。でもお願い、これがきっと最善の判断なの。だから、さ、頑張ろう」
「……」
みんなからの返答はない。まあそもそも実感できていないのかも知れない。私だってできてないのに、他のみんなに口頭での説明だけで理解しろって言うのは無理があるだろうし仕方がない。だからこそ、他でもない私が先頭に立つ必要がある。
「もう一度言うね。まず何があってもこの街からは出ない事。岩石が降ってくるかもだから頭上に気をつけるのと同時に溶岩にも気をつけて……とにかく生き残ることだけを考えるんだ」
「あのなあ、俺らがそんな貧弱に見えるか?これでも俺らは自力で生きてきたんだぞ?」
「でも……いや、そうだね。そう信じることにする────来るよ」
突如として鳴り響いた音は明らかに異常を示す物だった。ゴゴゴと鳴り響くものが地鳴りであると気付くのにすら時間がかかる。その後に感じたのが揺れ。よって多くの人々は安堵する。なんだ、ただの地震か、と。
しかしその安堵を、いや、安堵のみならず全ての感情や人自体、街自体を飲み込んでぐちゃぐちゃにするように────富士山から、大きな煙と溶岩が噴き出した。
ドガァァァン!!!という轟音が鳴り響いているはずなのに音が聞こえない。世界が一瞬で黒く、赤く、血の色に染まっていく。
一部は世界の終わりだと嘆き、一部は神の制裁であると叫び、一部は静かに涙を流す。そんな一部の中で、彼らだけはそれを真っ直ぐ見て、見て、見続けた。これが現実であると、見せしめるように。
9月28日午前11時46分30秒 富士山 噴火
───────
「さて、やろうか。私は──『我らには……起源などいらない、終焉も知らない!それでも尚吹き荒れる放浪の風だ!』」
「さぁ、応えてくれよ?……『我を捧げる、故に願う。風よ、嵐よ、大いなる大地を駆け巡る血よ!……私に従え』」
詠唱を終えた後、私は車椅子から立ち上がる。──いや、本当は立っているわけではなく、浮いているのだ。私が操る風によって。
「よし、これが出来るならまず成功かな……」
「今、何したんだ?」
「能力を存分に使えるようにした。刀を鞘から抜いた感じかなっ────!!」
私が念じ込むことにより、風は私の意のままに動く。目的は壁だ。噴火から身を守るための防護壁。範囲は……日本区全体を覆うような円型。
この街にはクリスタルはない。よって真ん中には何もおく必要がなく、守る装備も何もいらない。重要な施設は富士山付近に建てれば自然の壁ができる。私がわざわざこの公園に来た理由は他でもない、ここが富士山町の物理的な中心だからだ。
ミズキに感謝だな。噴火で起きる影響は様々あるが、その中でも特に注意すべき事が何か事前に知る事ができている。それは何か……「火砕流」だ。
火山の噴火でガスと灰、そして岩石が混じって時速100キロの速さで流れてくる。どれも温度は最大1000度にもなる、超高温だ。触れたら死、近くにいても死、そんな状況が一瞬でくるのだからまず逃げられない。
それに何よりも時速100キロの高温の岩石、そんなものが町に当たったらどうなるだろうか。とてもじゃないが耐えられる気がしない。この町は放浪者によって最重要と言っていいほどの巨大都市だ。それに被害が出る時点でかなりまずいのだ。更に言えばさっき言ったように重要な施設は山の付近に、つまり噴火の影響を受けやすいというのもある。
だからこその風壁、これしかなかったからこその妥協案がこれだったという事だ。
「さて、果たして風は山に勝てるかな?」
遠くの山肌で、何かが蠢いている。
火砕流の話は現実と同じです。本当に時速100キロで迫ってきますし、温度は1000度にまでなります。




