おやすみ、また明日
──午後6時・回転寿司店──
あれからしばらくして私たちは回転寿司に来た。富士山と海はそれなりに遠いはずなのに海鮮が出てくるのは少し変な感じがするけれど、テイラーさん曰く輸送に長けている能力者が店長をしているとのことだった。確かにそれなら鮮度を保ったままここまでものを運んでこれるし、何なら輸出輸入において強すぎる気がする。もし日本区とものの輸送ができるならこの店長はすごく重宝されるだろう。
「好きなだけ食べて。私の奢りだから」
「んじゃ、お言葉に甘えてあんたの財布を軽くしてやろう。いくぞハナビ!」
「その前に手を洗う!でもこのお店便利だね。座りながら手が洗えちゃう」
「それお茶用のお湯!火傷するよ!」
「ヒェッ」
そんな事を言いつつ三人はパクパクと食べていく。しかし私としては遠慮なくたらふく食べることは出来ないと思った。
昨日と今日で私たちは信じられないほど距離を縮めたと確信して言える。本当に、人というのはこんなにも簡単に打ち解け合えるのかと驚いたほどだ。だが、私と三人は根本的に関係が違うのだ。
三人の家族という関係に対して私はただの部外者。多少なりとも関係はあるとはいえ、それはヒバナさんとだけだ。少なくとも貴重なお金をわざわざ使わせて私の腹を膨らませるのはテイラーさんも嫌かもしれない。
「うまーー!!!!」
「………」
それでもやっぱりこの純粋無垢は守り通したい。汚したくない。そう思っているのは私たち全員だろう。ハナビちゃんはそうやって守りたいと思わせるような女の子だ。
「どうしたの?ミサキちゃんは食べないの?」
「……すみません、あまりお腹空いてなくて──」
できることならこうやって嘘をついていたかった。そうしていた方が良いと思ったからだ。しかし、そんな嘘は自分の腹からの轟音によりすぐに瓦解することとなった。
「あっ、」
「ふふ、何だ、お腹空いてるじゃん。ほら、遠慮はいらないからさ」
「いえ大丈夫です本当に!寧ろここまでしてもらってるだけでも有り難すぎるのに……」
「えー?でも私としてはいっぱい食べて満たされて、嬉しそうな顔をしてもらう方が好きだなぁ。お金の心配はいらないから好きなの食べちゃってよ!」
「いや、でも……」
「おいミサキ、こっち見ろ」
「は、はい、なんです───むぐっ!!」
痺れを切らしたのか、苛ついたようなヒバナさの声を聞いて恐れながらも振り返ったが、その瞬間に私の口の中には寿司が突っ込んできた。ヒバナさんが無理やり私の口に入れたのだ。
「食え」
「む、んむ、むん」
そんな事を言われたので、私はこの寿司を口の中に入れる。赤い刺身が口からはみ出ていたのでそんな音を出しながら数回のトライを経てようやく全てが口内に収まった。
「どうだ?」
「……美味しいです。すごく」
「ほらねー!!ここ、私のお気に入りだからよく来てたんだよね〜。いっつも一人で来てたけど、こうやってみんなで来れてよかったよ!ほらほら、みんなまだ食い足りないんじゃないの?時間は無限!皿も無限!貪り尽くすぞー!!!」
流れてくる寿司を眺めると日本区のことを思い出す。日本区でも特別な日は寿司を食べによく回転寿司に来ていた。昔っから私はエビが好きで、来るたびにめいっぱい注文してたっけ……
(やっぱりあった、エビだ)
少しまだ躊躇いはあったが、結局私はそのエビの皿をちょんと掴んで持ってくる。そのまま醤油をつけて、尻尾を外しつつ食べた。
(あぁ、そういえばこんな味だったな。他の何にも例えられない、私が好きな味)
母の理想になれなくなって、成長して自分の気持ちをあまり伝えられなくなって、気付けばここ数年お皿を手元に引き寄せる感覚を忘れていた。『好き』を爆発させて好きなだけ食べたり動いたりすることも減っている。きっとこのままじゃいつか無くなってしまうかもしれなかったけど、もう今はそう思わない。
私の能力は「糸」という形であれど、他人、そして自身の感情を感じ取りそれに干渉することができる。他人の感情がわかるならば自分のものはより鮮明にわかっているはずなんだ。ならそれを出すことができないのはどうして?みんなも私も、必死に隠そうと努力することになるのはなぜ?これじゃあ私はただのエレキギターだ。でもきっと、アンプまでないと意味がない、きっとそんな感じだ。
「気は晴れたか?」
「はい。たくさん食べさせてもらいます」
「そうしてそうして」
あれ?みんなはすごく楽しそうだな。心の中は……やっぱり楽しそう。こんな気持ちだったのは私だけだけか。それなら雰囲気を悪くしてしまって申し訳ない気が──いや、そんなこと考えるよりもいっぱい食べよう!きっとそれが今私に望まれていることだ。
──テイラー視点──
食べて欲しい。どうか、幸せをあるがままに取り込むように、全ての感情を出し切るように、明日のことを考えないくらいに……きっとヒバナはそれを理解しているからこそ三人、それもヒバナ自身もが大食いしたくなるようなムードを作ってこの喜楽を作っている。
最後の晩餐、まさしくそれだ。私が一番好きだった寿司で締める。明日死んでしまうかもしれない。いつも考えていたこれがいざ現実になろうとすると、どうにもまだ非現実的なことであると感じてしまう。そう思い込んでしまう。
だからこそ私も今から三人のように食べまくる。明日を忘れて最高潮を残す。でもその前にまだ考えたいことがある────いや、このことはみんなに伝えた方がいいのかもな。なら────
食べよう。今はそんなことを考えない方がいいし考えたくない。
(いただきます)
噴火まで、あと18時間
次回、ようやくです。




