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能力教室の号哭  作者: たるたるそーす
星を追う飛魚編
75/100

保護者会

 ──午後1時35分・空き部屋──



緊張感が漂う中、最初に口を開いたのはヒバナの方だった。


「あいつの一人称を知ってるか?」


「「私」、じゃないの?」


「いや、「俺」だ。あいつが魔臓不全ってのは知ってるよな。そうやって肩身狭い思いで生きてきたあいつは俺を真似るしかなかった。初めはひどいもんだったよ。一人称も、口調も、性格も、歩き方さえも全部俺と瓜二つだった。あいつは俺だけを見て育った結果、それ以外を見ずに偏って育っちまったんだ」


「だから私に別の生き方を教えてほしい、と。言い分はわかるけどそんなんじゃ私は動かない。もしヒバナと一緒に旅を続けるのなら確かにハナビはヒバナのようになるだろうね。でもそれは未来の話でしょう?今死ぬかもしれないリスクを取る訳にはいかない」


「んなもん放浪してたって同じだろ……いつだって俺たちは死と隣り合わせだ。それは例え俺といたってあんたといたって変わらない。ならハナビにできる最善はあんたに託すことだろ?」


「最善?はぁ……ヒバナ、お前は何もわかってないね。本当にそれが最も良いなんて断定できる?まだ試していないだけでもっといい案なんてのはそこら中に転がっているものさ……そんなことを言っているからヒバナはハナビを育てられないんだよ」


「……だから俺が育てていろと?」


「まぁここに来た以上私がヒバナに色々教えてあげたいけど……それをハナビに伝えるのはヒバナの役割だよ」


「そうか」


重い空気がのしかかる。本当は私だってこの里帰りは嬉しい。何か困ったことはないかとか、楽しく毎日暮らせているかとか、聞きたいことは色々ある。何せ私こそが彼らの親なのだから。それ故に私がここで引き下がることはできない。ハナビの面倒はヒバナが見るべきであるし、何よりも……絶望を味わって欲しくない。


私が死ぬ時はおそらく老衰かフォボスだろう。もし前者の場合、ハナビやヒバナが感じるのは喪失感や空虚さ、悲痛感……その中に絶望感は入っていない。しかし後者の場合、感じるのは絶望感ただ一つだろう。


もし自分の目の前で親が殺されたら、信頼できる人物の前にとんでもなく強大な力が現れたらどうなるだろうか。そのまま絶望の中で諸共に殺されるかもしれない。仮に生き延びたとしても復讐に燃える人生に変わってしまうかもしれない。それらはどれも私たちが望んだものではない。


「ヒバナ、お前はまだハナビを現実に……絶望に引き摺り込むべきじゃないんだよ。大きな望みを──理想を掴むのは、その時でいい」


10歳の少女はまだ平和の中で過ごすべきなんだ。それが仮初であろうとも、どんなに貧しいものであろうともそれでいい。現実の闇はどこまでも深く、醜いのだから。少しでも距離を置いておかねばならない。いつ、どこで、どんなふうに、絶望が足首を掴んでこちら側に引き摺り込んでくるかわからない。


「理想、ねえ」


「そう、理想。それを叶えることがどれだけ大変なものなのか、ヒバナだってよく知っているでしょう?」


「そいつは俺の、大嫌いな言葉だよ」


「そう、どうして?」


「理想ってのはな、人それぞれで違うことはあんたも知ってるだろ?俺にとっての理想はハナビがあんたと暮らすことだが、あんたにとっての理想はそうじゃない。更に言えば理想に惑わされて自分すらも見失った奴だっている。なんでかわかるか?──理想がデカ過ぎるからだ。今日あいつは初めて生姜焼きというものを食べたが、それと同時に「もっと美味しい物を食べたい」という願望が生まれちまったんだ」


「欲を持つことは悪いことではないでしょう?」


「だといいんだがな……知ってるか?一部の宗教では、欲を持つこと自体が罪になるらしいぞ。ま、俺が知っててあんたが知らないなんてことはまずないだろうな」


そこでヒバナは一呼吸おいて、はっきりと私の目を見ながら宣言した。


「あぁ、認めるよ。俺はハナビをわざと狭い世界に拘束し続けてきた。ただな、あんたと同じなんだ。俺だってハナビを絶望に染め上げたくなんかないし、それだけは避けなきゃいけない」


「なら尚更……」


「あいつはもう巣立ちの時だ。7年間、俺があいつの側にいてやれない時、あいつは一人で生きられていた。留守番のような状態だったとしても、あいつにはもう俺という水槽は狭過ぎる」


「そう……正直、少し舐めてたよ。初めはただの育児放棄だと思ってたのだけれど」


「んなこと俺がする訳ねえだろ?」


「……少しだけね。ほんと、頭の中の角部屋のタンスのすみっこくらいに置いとく」


「あぁ、それでいい」


成長したな、ヒバナ。それでいて肝心なところは全く変わっていない。


不安を感じるところはある。私のことはどうでもいい。死んだらその後のことは考えなくていいんだから楽だ。それでも残される者から見たらそれはただの過程であり絶望を与えるきっかけとなってしまう。そこだけが、ほんのちょっとだけ不安なだけだ。


話も長くなってしまったし、もうハナビ達のもとに戻ることにした。

裏話: こういう口論系の話は作りたくなるけれど矛盾とかしそうで大変ではある。もしここ変じゃね?という点があってもお話全体の流れを崩したくないのでご了承ください。

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