片道バイクで3時間
──9月25日 午前6時・仮拠点付近──
「行くぞ」
もう辺りは明るくなってきている。が、全てを片付けてテントを──テントがあった場所を離れた私たちがここに戻ってくることは暫くはないのかもしれない。相変わらず太陽は後ろからである。遥か西に聳え立つ富士山に私たちは目を向けて、その千里の一歩目を踏み出────
ブロロロロロロロロ
「………」
「………」
「zzz」
荒野の中、砂埃と騒音を舞い散らしながら等速直線運動をする物体が一つ、人数にして三人…….
「バイクなんてあったんですね……」
「富士山なんて普通に行ってたら軽く10日はかかるからな」
「zzz」
私たちが乗っているバイクは二人乗りのアレだ。世紀末系の漫画とかによく出てくる隣に小さい席があるあのバイク。本体にヒバナさん、小さい方には私と、私の膝の上でハナビちゃんが眠っている。
「なんか拍子抜けです。今までずっと徒歩だったのに突然バイクなんて」
「これまではそもそも距離が短かったし森林内じゃこんなん使えねえだろ。こっからは一応道があるから使えるってだけだ」
「あとどのくらいで着きますか?」
「だいたい3時間もあれば着くだろ」
「……。ますます拍子抜けですね……」
「アスファルトとかコンクリートとかで固められてるわけでもねえが、道ってのはあるだけでだいぶ便利なもんだな」
「確かに揺れも少ない……気がするだけですねきっと。ちなみに今何キロですか?」
「120」
「法律なんてないんですね、はい」
「やることねえだろ。寝とけ」
「わかりましたよ、どうせ私は体力無いんですから」
「わかってんじゃねえか」
──3時間後・富士山麓町──
ブロロロロロ、ロロロ、ロ、ロ───
睡眠状態と覚醒状態の狭間、完全に寝てるのに耳だけは起きてるみたいな、こたつで寝落ちした時みたいな、そう言う状況である。あれだけやかましいと当初は感じていたはずも30分で何も聞こえなくなったはずのあのエンジン音が消えた。
「おーい、着いたぞー」
………ん?あれ?人間の慣れって怖いね。エンジン音が消えたことにも揺れが収まった事にも全然気付かなかったんだもん。
眠い。乗り物に乗りつつ暖かーい空気の中でうたた寝をしたこの状況が気持ち良くないわけないな。ちょーっと直射日光が暑かった記憶もあるけどぬるくても圧倒的120kmの風力がどうにか相殺もしてくれてたし、本当に結構リラックスできたんだけど──
「着いた!?ホント!!?」
はい、目、覚めました。おはようございます。ドッキリか何かかなぁ。ちょーっとうるさい……ダメダメ、元気あることはいい事なのにそんなこと言っちゃうのは流石に良くない。
「はい、起きました」
「じゃあとっとと行くぞ」
歩き始めた私たちの前に文字通り聳え立つのは、頂上なんてずっと遠くにある真下から見る富士山と文字通り「繁栄」している麓町……特別居住区ではないとは信じられない。クリスタルはないはずだが一体どうやってこの町の治安を保っているのだろうか。
人気がある。決して日本区のように「テクノロージア」って感じではないが、それでも多くの人々が平和に笑って暮らしている。戦闘員なのか、超ガタイのいい兵士みたいな人がいろんなところにいるが
「おい、お前ら待て、どこの者だ?」
強面だなぁ。そうか、治安維持のためにはこうやって武力を誇示して外敵を鎮圧するしかないんだ。やっぱり強そうだなぁ。ちょっと声かけられたくないかもしれない──今声かけられてるのでは?いやいやそんなまさか、そーんな出オチみたいなことが……
「そこの三人組だ」
あ、これ私たちだ。
「あ゛、何の用だ?」
「見ない顔だな、身分証明書は持っているか?」
「いや、ないな」
「ほぅ……」
この兵士、めちゃめちゃ視線が怖い……というかちょっと待って、何でヒバナさんはそんなに睨み合ってるの?やめて?戦いに発展させたくないんですけど?というかまずい、そもそも部外者を入れるほどこの町は平和なわけない!もしかしたらこの町に入れないどころじゃなくなるし……
「………」
「………」
(あぁ……睨み合いで火花が散ってる……?何でこんな怖い気持ちをしなきゃいけないんだろ……)
「ここに来たのは初めてだろう?この道をまっすぐ行ったところにある役所に立ち寄るといい。変な経歴が無ければ身分証明書を発行してもらえるはずだ」
「そうだな、助かる。二人とも、まずはそこに行くぞ」
「ぁ、はい」
「おう、楽しんでけよー!」
…………………
…………
……
「怖かったぁ……」
「最低でもあのくらい強くなきゃ治安維持なんて無理だからな。慣れてけ」
「んー、でもなんでその身分証明書?がいるの?」
「この町の施設だのなんだの、使えるもんは使える方がいいだろ」
「私もそうして大丈夫なんですかね?一応区内出身なんですけど」
「向こうとしてはどうでもいいことだろ」
どうでもいいって……まあ確かにどうでもいいだろうけど……まあいいや、役所ってこの町にもあるもんなんだ。それに兵士──兵隊とか軍隊があるかは怪しいけど、ある程度は町として独立して機能できている。それはそれほど大きな町であるという裏付けであり、そういう社会的なシステムが確立、安定するくらいには存続し続けてきているということだ。
楽しみではあるけど、そうでもないな。私がこれからするのはただの傍観だ。二人の感情は絶対に対立する、というかしている。これだけは私の能力で確定しているからだ。
新しい町に来たら急に警察官に職質された感じの威圧感。普通に嫌。




