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能力教室の号哭  作者: たるたるそーす
星を追う飛魚編
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次の目的地と魔臓不全

作者、発 熱

まだそんなに日は経っていないけれど、もうなんだか色んなことがどうでも良くなってきた。どうして私はあんなにも後悔をしていたのだろう。チハヤだって分かってくれていたはずだ。彼女が私の理想なんだとしたら、彼女から得られることは多いと思う。


ねえ先生、私、謝ることにする。それでもう一回学校に行こうと思う。家にも帰るし、今よりも努力して、みんなで笑い合えるようにしたい。そんなことを思えるようになったのは先生のおかげだ。ありがとうございます。



……大抵の感情は時間によって希釈される。例外はない。感情に限らずとも、たとえそれが形あるものだとしても、少なくとも私はそう確信している。しかしそれでもう一度ミサキが前を向けるならそれで良いと思うよ。──でももうちょっとだけ、社会見学は続くよ。これでミサキが少しでも成長できるように……


そんな都合の良い夢を見ながら、私は眠りから覚める。


……私の心は凪いでいた。自分の能力を一瞬でも忘れてしまうくらい。



 ──9月24日 午前4時30分・仮拠点集落──



テントに設置されていたベッドを貸してもらって、私たちは9時ごろにはもう眠りについていた。元々ダブルベッドだったため私の隣ではハナビちゃんが寝ることになった。ヒバナさんに申し訳ないが、「自分のこと心配できるくらい余裕あんのか?」と言われたためなんともいうこともできなかったのだ。


「おい、静かに起きろ。ハナビを起こすなよ」


寝ていた私を起こしたのは、そんな目覚ましとは言い難いほど小さなヒバナさんの声だった。なんだろうと思いつつも起きると、ヒバナさんは入り口を親指で指した後テントを出て行ったため、私もそれについていくように忍び足でテントを出る。


その後ヒバナさんは「ついてこい」とだけ言って歩き始めた。行く場所も、ハナビちゃんを起こさなかった理由も、何一つ教えてはくれなかったが、それでも私はついていくしかなかった。



──午前5時・???──



てくてくてくと、道と坂を30分ほど歩いたあと、ようやくヒバナさんは止まったため、それに合わせて私も歩を止める。


「ここに連れてきたかったんだ」


そう言われて、私は初めて辺りを見回す。気付けば日は私たちの背後で登り始めていて、空も青色に戻りつつあった。決して高くはないが私たちは周りを見下ろしている状態になることもわかった。私の前にあったのはまず森、その後にちょっとした荒野が広がっている。地平線には大きな山があった。


「ここって……崖ですか?」


「ああ。お前には早めに次の目的地について話しておこうと思ってな──あの一番高い山が見えるか?」


「……はい。あの頂上が白い青色の山ですか?」


「それだ。あの山はな、ここら一帯の中で一番高い山で……富士山と呼ばれている。そこには実は別の集落がある。それもこことは違う大集落だ」


「じゃあそこが……」


「ああ、そこに三人で行って、ハナビを送り届ける(・・・・・)


「?どういうことですか?」


「その前に、一つ説明しなきゃいけないことがある。実はハナビは──能力が使えないんだ」


「……え?それってもしかして、魔臓不全(まぞうふぜん)ですか?」


「……そうだ。よく知ってるな」


魔臓不全……その名の通り生まれつき魔臓が体内に無い病気。つまりは生まれつき能力、ひいては魔力すら使えないということだ。遺伝的な要素が大きく、感染はしないので日本区では自然に撲滅された、謂わば「過去の病気」であったはず。なのに一体なぜまだ存在しているのだろう?


「あいつはな……いや、俺もそうだが……元は捨て子だった。俺がまだガキだった頃に道端に捨てられていたハナビを拾って、親と一緒に育てていたんだ」


そこでヒバナさんは呼吸を挟んだ。わざとらしいと思えるほどの、大きなため息だった。彼の目はいつの間にか富士山よりも遠くを見ているようでありながら、私ですら見えていないような、何かを見ているとも言えないような目であることにしばらくしてから気付いた。


「能力を持っていないあいつは否が応でも過酷な人生を歩まなければいけなくなった。きっと今も心のどこかでは苦しんでいるだろう。それ(能力が使えない)だけで俺らのアイデンティティの半分は消えるわけだしな」


「そうなんですか?こう、私にはそうは見えませんでしたよ?」


「そうか………あいつがなんでわざわざ一人称「俺」にしてると思う?……ハナビは元々自分が半分だった。なら残りの半分は周りから貰ったり作ったりするしか無かったんだ」


「それってもしかして……………」


「あぁ、あいつのそばにずっといて、一番関わりが深いのが()だ。きっと俺を見習ってこうなったんだろうな──あいつは元々もっと俺に似た話し方だったが今はそこは無くなった……が、どうしても一人称だけは変えなかったんだ」


「依存しているってことですか?」


「そんなもんだな。少しでも深い関係を俺と結んでいたままでいたかったのかも知れねえ」


「じゃあ尚更なぜ「送り届ける」なんて言うんですか」


「………そろそろ巣立ちの時間ってことだ。帰るぞ」


私の横を過ぎ去って集落に戻ろうとするヒバナさんの感情をなんとなく調べてみる。ただ好奇心というか、使命感というか、よく考えもせずに行動に移すのは久しぶりだった。


(───。………!)


そうか……でも、だとしたら私は一体どうすれば良いのだろうか。


疑問は心に留めておく。それを言葉にしたって良いことはない。


「どうした?」


「いえ、何も……」


そう言いつつ、私は彼の後ろについて行った。


目の前の太陽が眩しすぎて何も見えない。

魔臓はどこにあるかって?ミズキならわかるんじゃない?

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