いつもの
『私はもう長くないから、あなたはハナビちゃん、ちゃんと守ってくれる?』
俺の物語が始まったのは、そんな儚くて、苦しくて、悲しくて……悲惨な問いに「うん」と答えた瞬間からだろう。その時なにを考えていたのかなんて覚えているはずがない。
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この世界が地獄だとしても、それが現実なんだから俺は生きるしかない。それが何の成果も得られないものだとわかっていてもなぜか明日、また明日と求めてしまう。
失敗だった。
こんなことしなければよかったと気付いた時にはもう遅い。一度知ってしまった快感からはもう逃げられない。呪いのように付き纏い続け、ふとした時にいつも頭を埋め尽くしてしまう。
煩い黙れ。こんな煩悩、欲しくて得たわけじゃない。これが正しいんだ。………よし。
──午後4時30分・仮拠点集落──
「ついてこい」と言われてついていった先で誰かと会うのかと思ったが、そういうわけでもなくついたのは開けた場所だった。周りは日本山よりも密度の高い森だったからか、より一層「何もない」が強調される。
「もしかして、お兄ちゃんがご飯作ってくれるの!?」
「あぁ、てかそうしねえとお前納得しないだろ」
「あ、バレてた?」
「えっと……ここって……」
「火おこし場だよ。ここ以外で火を起こしたら大変なことになっちゃうからね。みんな火を使う時はここに集まるんだ」
「道中火を使わなかったのもそういうことだ。お前らとっとと薪拾ってこい」
「はーい。行こっか」
「うん。あ、でもそんなに離れないでね?道わかんなくなっちゃう」
「だいじょぶだいじょぶ。ほら行こ?」
近場でハナビちゃんと使えそうな木の枝を拾ったり折ったりしてそれを見せて選別する。二人はずっとこういう場所で生きているからこのくらいのことは軽々とやれるらしい。私には区別がつかないが、燃えやすい燃えにくいなど、色々考えることはあるようだ。
ヒバナさんみたいに強い人でも他の人と協力したりすることに少し驚きつつも私たちはスープを完成させてそれを夕飯にした。時間的にはもう5時くらいかな?もうすぐ日が沈む。スープの味は薄かったし、なんか変な草みたいな匂いがしたし、何ならあまりおいしくもなかったけれど、ハナビちゃんは「おいしいおいしい」と連呼していたし多分これが普通なんだろうな。私が贅沢なだけか。
「お前疲れただろ。明日も活動するしはやく寝ろよ途中でへばられたらたまったもんじゃねえ」
「わかりました、ありがとうございます。──ご馳走様でした」
「おいしかったでしょ?俺、お兄ちゃんのスープお気に入りなんだ」
「そう、だね。おいしかったよ」
ごめんなさい。本当に申し訳ないと思うけれどあんまりおいしくなかった。だって変な味がするんだもん!不味いってわけではないんだけど、ひたすらに変。そこらへんの雑草少し混じってる気がする。
慣れれば大丈夫か。今日から暫くこれなんだし、我慢我慢………それより何だか空気が澄んでいる気がするな。人が吐いた息じゃなくて、自然の中で生まれたような感覚で、初めて味わうのに何だか安心するような感覚。
「……星?」
「え?星がどうしたの?」
「綺麗……」
「そんなに?いつものことじゃないの?」
「日本区ではこんなに星は見えなかったからちょっと貴重に思えて」
「へー。ねえお兄ちゃん、なんで日本区では星が見えないの?おんなじ空を見てるのに」
「周りの明かりが眩しすぎて明るい星しか見えないんだ。昼に星は見えないだろ?」
?そんなこと……そっか。ハナビちゃんは私がこの星空を見たことがなかったように日本区を知らないんだ。それにまだ10歳で幼い。こうやって聞くのも無理はない。
こうやって彼らは過ごしてきたんだろうな。協力して、話題を共有して、共に笑い合う。スマホ依存の日本人よりもよっぽど偉いように感じる。
なら私も、今だけは、いや、これからは偉くいたい。
──同時刻・進路相談室3──
よし、みんな帰ったね。さて、忘れないうちに指導日誌を……いや、もう書かなくていいか。自分で覚えていられるし、こっちの方がアドリブが効く。
張っていた気を緩めるように息を吐きながら指導日誌を異空間に落とす。それと一緒に別の異空間からメロンパンを取り出してそのまま頬張る。味は悪くない。食感もふわふわしてて……うわ、歯の裏にくっつくタイプだこれ。やっぱパン屋行かないといいのは買えないなあ。
「……誰かな?」
「…………」
「この教室の前で留まるってことは何か用があるんでしょう?」
「……私、音出しましたっけ」
「ううん。気配もちゃんと消せてるし、ほぼ完璧。ただ私に気付かれないためにはもう一歩欲しいね」
「そうですか……あ、扉越しに話すのも難ですし失礼しますね。私、2年1組の新妻かるたっていいます」




