女子会
──午後3時30分・テント内──
中に入ってみると、何というか想像通りな感じで、本当に「簡素」を体現したような内装だった。かろうじてベッドとソファは家具だったが、それ以外は自然丸出しである。例えばこのテーブルと椅子かな?これただ森林の木を切って形を整えた感じで何だか不安定だ。それに床がない。要するに地面がむき出しになっているのだ。
「あ、飲み物出すね!確かここら辺に麦茶が……あった」
そう言いつつ彼女はコップ二つに麦茶を注いでソファの前のテーブルに置いた。コップは……プラスチックっぽいかな?
「とりあえず一緒に座ろうよ!休みながら色々話そう?」
催促されるがまま、初めての光景に困惑している私を彼女が隣に座らせてくれた。座った瞬間にこれまで溜まりに溜まり続けていた旅の疲れが足からじわじわと剥がれていくように感じた。お世辞にもふかふか……とは言えないが、地面に寝そべるよりも全然マシである。
「ふぅ……」
「長旅お疲れ様。……あ、ごめんなさい。ちょっとはしゃぎすぎちゃった。久々にお兄ちゃんが帰ってきたことが嬉しくて嬉しくて……」
へへっと笑顔を作った彼女を今一度よく観察してみる。真っ赤で長い髪がところどころほつれている。あまり髪を切っていないのかボリューム感があったが、前髪だけはしっかりと切られていて豊かで常に上げている口角と珍しい黄色の瞳、そしてその笑顔が余すことなく見える。そして、やっぱり小さい。身長は多分、130センチ代だろうか?どちらにせよ子供だった。
そうやって進めていっていた考察は次の発言によって一時的にだが吹き飛ぶこととなる。
「まず自己紹介から始めようかな。俺の名前はハナビ。10歳。お兄ちゃん──ヒバナの妹だよ!」
「そっか。私は星崎ミサキで16────俺?」
「?ダメなの?」
「いや、別にそうじゃないんだけど……」
何で「俺」?うっそぉ、この子結構可愛いと思ってたんだけども……僕っ子は聞いたことあるけど俺!?いやもしかしたらこの子が男だったり……さっき思いっきり妹って言ってたわ。
多様性、かぁ。
「ま、まあ気を取り直して……私は星崎ミサキ、日本区からここに見学をしにきたの」
「見学?何の?」
「広い社会を知るって事だよ。ほら、日本区って結構小さいからさ」
「ふぅーん。あそうだ、お兄ちゃん、旅の途中に悪いことしてなかったよね?」
「悪いこと?特に変なことはしてなかったと思うけれど」
「ふぅーん……ならいっか」
危ない危ない。あらかじめヒバナさんに言われてなかったら普通に言ってた。ほら、今でもなんか心なしか怪しまれてる気がするし……待って!?何その目は。何を言いたいの?あれか?あれだな?日本区や周辺の放浪者に代々受け継がれてきたというジャパニーズ空気読みってやつだな!?
……話題を変えよう。
「そういえばこの集落ってどのくらいの大きさなの?」
「あー、実はここ仮拠点なんだ。だから人の出入りで規模が変わりやすいの。今は結構小さいけど、大きい時は今の三倍くらいはあるよ」
「そんなに!?他の放浪者に見つかったりしないの?」
「いや、もう見つかってるって言うか、そういう話じゃないの。一応ここは日本区に行く時によく使われる場所だからいつ来ても誰かしらはいるの。だからここは世界の中でも結構危険な場所だよ?まあ今くらい繁盛してたら多分大丈夫だけどね」
「そうなんだ……クリスタルの有無でここまで生活が変わるなんて……」
「俺たちは常に安定の基盤がない状態で生きてるんだ──お兄ちゃん、結構いいこと言うから結構覚えたりしてるんだ」
……ハナビちゃんはすごくいい子だった。一人称俺は少し抵抗があったにせよ意外とすぐに慣れることになったし、私の話を聞いて鈴を転がすように笑ってくれる。笑顔でいることがすごく多くて、私の悩みなんて薄くなっていってしまうようだった。その後も好きな遊びや好きな食べ物、今日ハナビちゃんがしたことなどを話しているうちに、こんな話題になっていった。
「そういえばミサキ……ちゃん?はどうしてわざわざこんなところまで来たの?」
「ミサキでいいよ。それでここに来た理由は……ちょっと思い悩んでいることがあって、リフレッシュと社会見学のために来たって感じなんだ」
「そうなんだ……ちなみに悩みってなあに?もしかしたら力になれるかも」
「えぇっと……実は友達とちょっとね」
「喧嘩しちゃったの?」
「んー……そういうわけじゃないんだけど、ちょっと私が間違えちゃって友達を悪い気持ちにさせちゃったんだよね」
「え、そんなことでここまで来たの!?」
「うん……私にとって理想の友達でいることはすごく大切なことだったし、結構気が滅入っちゃったからね。今は大分マシになったからいつか謝らないとなって」
「そう?それならよかった。でも夢、夢かぁ」
「ハナビちゃんの夢って何?」
「俺はねぇ……お兄ちゃんともっと一緒にいたいかな。お兄ちゃん、いっつもどこかに働きに行かなきゃだから今日みたいな日は結構珍しいんだよ」
「へぇ……いい夢だと思う」
「そう?へへ、ありがとっ」
そのとき、テントの入り口が少し動いたことに気付いた。……やっぱり図星、ヒバナさんが帰ってきてた。
「おい、話してるとこ悪いがちょっと来い。二人共だ」
「あ、終わりだね。楽しかったよ、ありがとう」
「うん。こちらこそありがとう。──ハナビちゃんはすごく明るくていいよね」
「そうかな?」
「うん。話してて楽しいっていうのはすごくいいことだと思う」
「そっか……はやく行こう?お兄ちゃんと過ごす時間がなくなっちゃう!」




