捜索への条件
──9月24日 午後6時・ミズキ特別教室──
「なんですか?私だけ呼び止めて……もしかして何か悪いことしましたか?」
八人、いや、ミサキがいないから今は七人の特別教室では何かが変わるかもしれないと思っていたけれど、結局は何も変わらずにまた一日が終わった。今日もまた、何も進捗がないように感じる。いつものように能力を無意識的に使いまくり、ヘトヘトになっていた。
そんな変わったようで変わらない日の後は変わらないものだと思っていた……が、そうでもなかったらしい。現に今私は、みんな帰った後に一人呼び止められて何度目かもわからない一対一の対談をしている状態だ。
「いや別悪いことしたわけじゃないけどさ、ちょっと話したいことがあって──ミサキが心配?」
……バレたか。やっぱ先生、私たちのことちゃんと見てくれてるんだな。もうバレたから隠すつもりももうないけれど、逆にそんな気持ちに対してわざわざ時間を使ってくれたので申し訳ない気持ちが出てきた。でもどうしてそんなことを言うんだよ。私たちのことを考えてくれて……わかる、けど、それでも彼女と関わっていたいっていう私のエゴだったなあ。合理性とエゴ、どっちを優先するかなんて簡単なことだった……のかなぁ?
「……やっぱり先生には隠し通せないってことですか……逆に心配にならないわけないじゃないですしね」
「うん。そうだね。だから改めて言わせてもらうね。『あなたにできることはない』って──」
「わかってますよそんなこと!私たちがそんな何回も言わないと物事を理解できないような馬鹿だと思ってるんですか!?」
「まあ話は最後まで聞こうよ……私が言いたいのは、チハヤにもできることはあるかも?ってことなの」
「どういうことですか?」
「まずは謝らせて。あの時はきっとチハヤ自身だってこんなことは思ってなかったかもだけど……きっと心の底ではミサキに関わりたいって、ミサキを助けたいって、そう思ってたんでしょ?それなのにそういう気持ちを汲み取れなかった。先生としての気配りが足りてなかった。ごめん」
「え、えぇ?」
突然の謝罪に驚いたっていうのもそうだけれど、それ以上にミズキ先生が謝ったということ自体がもう驚きの対象だった。いやだってあのミズキ先生だよ!?常に何に対してかもわからない笑みを浮かべて「うへへ」とか笑ってるあのミズキ先生だよ!??
「おーい、今迷惑なこと考えたよねー??」
「いや、特にっ」
「まあいいや。それで、このまま待ち続けるのも嫌だろうし、折角だからミサキの場所を教えようかなって。もちろん条件はあるけどね?」
「ほんとですか!?」
「マジもマジ、そりゃあもう大マジよ?」
「やらせてください!お願いします!」
私はもうよく考えずに発言していると言っても過言ではなかった。それくらい魅力的だったということだった。
「まあそういうことだね。わかった。じゃあチハヤにはこれから『魔力強化』を習得してもらうよ。期限はミサキが帰ってくるまで。できるようになったら私のところに来て。みんなと協力するのもありだし、一人で集中してやるのもあり。私に聞くのだってなんでもありだから、とりあえず『魔力強化』に集中して習得して欲しいんだ」
「わかりました!……けど、私たちは五ヶ月間ずっと訓練してきたのに、全くできる気がしないんですけれども……」
「ここだけの話、まずマオは無意識的にもうほぼ出来てるし、みんなに当てはまること言えばもう基盤は出来たから後は一度掴んでしまえばなんとかなるんだよね」
「じゃあすぐに取り掛かります!」
「いいけど……あまり思い詰めないでね。感覚的にはそうだなぁ……自転車に乗れるようになる感じ?これさえ乗り越えれば後は上手くできるようになるからそれまで頑張れ。あと適度に休んでね。この話はこれでおしまいかな?暗くなってきたし気をつけて帰ってね」
「わかりました、ありがとうございます」
それで私の話は終わった。まだ教壇の前で紙を見ているミズキ先生を横に帰る準備をしつつ、今後について考えてみる。
魔力強化……ずっと前から存在は知っているのに、その境地に辿り着いた生徒は一人もいない。本当に私なんかができるのだろうか?そもそも……いや、そんなこと考えるんだったら頑張ろう。とりあえず当分の課題が決まったわけだし、帰ったら早速考えてみようかな。
「先生」
「なあに?」
「早く覚えたいので……明日また聞きますね?」
「ふふふ、是非そうすると良いよ。きっと時間はまだまだあるから」
「それはつまり……いえ、なんでもないです。ありがとうございました。失礼します」
そうして私は帰路についた。廊下は電気がついていなくて暗かったし、まだまだ暑いとはいえもう九月、日没が早まってきている。
本で読んだ話では、こういう日没直後の時間帯を「黄昏時」っていうんだっけ?急に辺りが暗くなるから周りの人の顔がわからなくて、「あなたは誰ですか?」と問いかけるから、「誰そ彼時」が語源なのだとか。きっとだからなのだろう。学校の部外者である男がすれ違うのを何の不思議にも思わなかったことは。
もし彼の顔、ひいては姿形を覚えていたら、私だってもっと早くに真実に気づけたのかもしれない。この隠れた『計画』の上で、私たちは未だ踊らされている。
時間はまだまだある=ミサキやヒバナの物語が長くなる。
がんばります




