豚の後日談
章の初めに書いていたプロット見返してみたらその通りに書いてたの半分くらいまででした……
本当はチハヤが失踪するつもりだったんですけれどね?
書いているうちに気は変わるものです。諦めましょう。
──9月22日 午前9時・観客席──
『…………第10試合、星崎ミサキは棄権となります。よって水谷エレンの不戦勝!』
「なんで!?」
周りの人のことなんて考えることもなく、私は声を発して立ち上がった。
昨日学校で別れた後、もうミサキを見ることはなかった。朝来た時にミサキを見かけなかった時点で少し不安にはなっていた。昨日あんなことがあって、それが私とミサキを一緒に傷つけて行った。もしかしたら何か起きるかもしれないとは思っていたけれども、そんな変化は私の想像を遥かに超えている。
「ミサキ……?風邪でもひいた……わけない。何か事情があるはず……」
「えー?でもそんなことがピンポイントであるか?案外本当に風邪とかで来れなかったり……」
「そうだよ。流石にこんなピンポイントで問題が起きるはずないと思う」
「ショウ、アオイ……それなら聞くけど、なんで主催者側はそれを言わないの?普通なら「◯◯さんは体調不良によって棄権となります」とかいうでしょ。それにさっきから電話もしたけど全然繋がらない。着信拒否とかじゃなくて、繋がらないんだよ!」
ここまで話してようやくみんなもことの重大さに気付いてきたようだ。そう。これは重大な事案だ。
電話が繋がらないということはつまり、スマホの電源が切れているか、電波の届かないところにミサキがいるかのどちらか。もし何事もなく、家とかにいるんだったらスマホの電池は充分にあるはずだし、いつでも充電できるわけだから無くなることはまずない。となれば考えられるのは後者の場合だが……それはつまりミサキが電波の届かないところ、例えるなら地下室や区域外にいたり、誰かが意図的に電波の受信を拒否しているということだ。そんなことをする理由なんて一つしかない。
「ミサキはきっと誘拐されたんだよ」
どこに?だれが?どうして?数多の疑問が未だ残り続けるが、それは明確な結論として出た。出てきてしまった。
「だとしてもどうするの?」
「決まってる。探しに行くんだよ!」
「どこに?」
「分からない!」
「じゃあダメじゃん!」
「それでもやるの!みんなで手分けすればきっと……!」
「あーチハヤ、それは無理だよ。頭冷やした方がいい」
話し合いに夢中になっていた私たちに割り込んできたのはやっぱり先生だ。
「先生……!やる前から諦めてどうするんですか!」
「じゃあ聞くけど、どこを探すの?」
「それは……どこか探せば……」
「日本区内で探すだけならまだしも今回の捜索範囲は違う。そんな広大な範囲からたった一人を見つけ出すなんて無理だよ。せめてでもあたりをつけなきゃ」
「じゃあどうすればいいんですか!ミサキについて何もしないなんて私は嫌だ!」
「そうだねぇ。チハヤはそういう人だからねぇ……残念だけどそもそもチハヤは何もしないのが正解だよ」
「どういう、ことですか?友達の危機に対して指を咥えて待っていれるわけない!」
「今回ミサキは自分の意思でこうなっているからね」
「それは……どういう?」
そこで私は昨日の夜の出来事を知った。ミサキはどうしようもなく悲しんで苦しんで、思い悩み続けていたことがやっとわかった。わかっていたことが現実になっていった。心の中では信じていたけれど、どこか別の部分で信じ切れていなかった事実を今初めて飲み込んだ。
ミサキだって私のために頑張ってくれてたんだなぁ。善意の有無がってことでもない。結果として残るのは行いだから善行が現実になればそれで万々歳のはずだ。でもそれでもミサキが、他でもないミサキ自身がそうやって後ろめたく感じてしまっているのなら、一回でも死にたい、消えたいって思うくらいに張り詰めてしまうなら、私はきっと今は干渉しない方がいいんだろうな。一回全部忘れてもらってまた苦しむ時の準備をするために、私は我慢することにしよう。だってそれが親友なんでしょう?
「ごめん前言撤回。チハヤにもできることあるよ」
「え、今結構感動してたんですけど」
「ミサキが帰ってきた時には、ミサキよりも強くなってるといいよね?」
なんだ、そんなことか。
「言われなくてもそのつもりですよ、先生」
私たちは止まるわけにはいかない。成長途中の私たちが止まっちゃったら、もう動けなくなっちゃうから。きっとミサキも、成長するための判断だったんだ。私たちにそれを止める権利はなかった。それだけで納得できると思わない?みんな。
──────────
姑息な奴は嫌いだ。正々堂々としない奴は、生きている価値がないとさえ感じている。作戦の内?頭脳戦?それらの言葉がただ強くなるためだけに多くを捨てた血の滲む努力を踏み躙る理由になんてなるはずがない。少なくともその無念を俺は知っている。
騙すことが許されるはずがない。不当だからだ。ろくに努力もしていないお前が努力し続けてきた俺らから奪うことを正当化されるはずがない。だから俺は漁夫の利という言葉を何よりも嫌う。
身分の違いはあってはならない。身分が、思想が、住む場所が!……人の価値として測られて良いはずがない。そういった違いが悪だというのなら、この世の全ての個性がなくなってしまった方が幸せなんじゃないかとも考えていたほどだ。
……どうしてだろうなぁ。そういう俺が何よりも嫌ってきた高い立ち位置の人間の話を聞こうとしているのは、もはや自分の意思ではないのではないかとも考えてしまう。
俺が一番強かったから、一番サバイバルスキルが高かったからから、一番頼りになったから……突き詰めればそれだけになってしまうが、言い換えればそれだけが俺の全てだ。
星崎ミサキ……お前は一体何にそんなに悩んでいる?なぜそこまで悩む?
お前の……本当の理想はなんだ?
第三章 飛べない豚編 完
次回設定集②の予定です。




