君の音色、歪んだ旋律をのせて・五
──午前10時55分・グラウンド──
意識が読めたのはほんの数瞬。断片的な情報だったけれど、全てを悟るには十分すぎた。私は手加減されていたんだ。それも普通にやったら私が負けることを予想されていたから……
何が全力でやろうだ。そっちが手を抜いてたら意味ないじゃん。私を騙してたの?
「何それ……どうして?」
問いただすことしかできない。そうじゃないとやってられない。
どうして意識が読めたのかはわからない。能力が進化したわけでもないだろうし、ミサキの能力でもないだろう。
「…………」
初めて見るミサキの顔。多分私も同じ顔をしてる。青ざめて、目を見開いて、絶望している。
「答えてよ!!」
「…………ごめん」
「ごめんじゃない!何か言って!」
「………私のせいだよ。一人で勝手にチハヤを勝たせようとしてさ。嘘ついて、傷つけて、騙して騙して……全部私の独りよがり」
「それって!……それって……私の……ためなの?」
「……そうだと、思ってたんだけどな……本当はきっと私自身のためなんだと思う。私がチハヤに善いことをしたいから。そうやってでもこの………関係を……保ちたかったから……私がチハヤの一番の友達でいたかったから……」
何も、言い返せない。実際の話、意識を共有された時点で私は既に「なんで?」という問いに対しては答えを得ているはずだった。それでも彼女の言葉で言わせたかったのはきっと私のエゴなんだと思う。
……エゴか。私も。
「そりゃあ……私だって一番の友達でいたいよ……」
私だってミサキに勝つためにいろんなことをしてきた。ナイフの特訓はミズキ先生に秘密裏にしてもらっていたし、予選だって他人の能力を利用している点を見れば、一人で生き残ったミサキよりもよっぽど私の方が有利だった。
嫌だ。言いたくない。認めたくない。目を背けていたい。けど、そうしなきゃいけない。そんな覚悟を決めなきゃ停滞は消えない。
『私はミサキよりも劣っている』
そんな事実すら飲み込めずに未だ迷っている人間が優れている人間に勝るはずがないだろう?
自分に鞭を打て。現実を見ろ。これはミサキのせいじゃないんだ。私のせいで、ミサキは悪くないんだ。それなら私は成長しなくちゃいけないんじゃないか?
憤りが段々と悔しさに溢れた穏やかさに変わっていった。冷静な思考が戻る。今することはミサキに憤ることではなく、しっかりと話し合うことだと思った。
「……私だって、自分のためだけのエゴで動いてる」
「そんなことない!チハヤは──っ!」
「……否定してくれるなんて、やっぱりミサキは優しいんだね」
「っ!」
不思議と私は穏やかで、全てを許せるような感覚にあった。ミサキのように、焦りと後悔で見開いた目とは対照的で、脱力感でいっぱいだった。だからこそ、私はこの時微笑を浮かべられていた。全てを許せるような。暖かい目をできたと思う。
「わかってるよ、もうとっくにさ。私が足りてなかった。もし私がもっとナイフに長けていたら、もっとたくさん笑えるような明るさがあったら、もっと……強くあったら。きっとこんなことは起きなかった。全部私のせいだったんだよ。ミサキが謝る必要はなかったの。ごめん」
「……っ!それでも!私がそうしたのはチハヤを勝手にどうこうしたいって考えた私の行動で──」
「うん。ミサキにも責任はあったかもだけど私にある責任の方が大きい」
「なら、少しでも責任があるんだったら償うよ!私の責任を帳消しにさせてよ!」
「………私たちって、馬鹿だと思わない?無責任で、自己中で、後先考えずに目の前の幸せだけ考えて……」
「そう、だね。私も……チハヤも馬鹿だね」
「うん……そんな馬鹿な私から一つ提案があるの」
「……私にできることならなんでも言って」
「じゃあ……本気で戦おう。今度は忖度とか全く無しで」
「うん。わかった。それでチハヤがいいならいいよ」
「ありがと。ほら、はやく泣き止んで?はやくしないと帰る時間、遅くなっちゃうよ?」
「……チハヤ、ありがとう。ちゃんと私も全部出し切るね」
「うん。お願いね」
私はミサキを許せる立場にない。これは許すなんて行為がおこがましいほど私が全面的に悪いからっていうのは自分でも自覚できてる。それでもミサキが私を上にしたいなら、持ち上げていたいなら、私は敢えてこういう動きを取る。それで私たちが進めるならそれで良いなと思う。
きっと憤りから変化していた穏やかさはそんなにも良いものじゃなくて、ただ全てを諦めてどうでもよくなっただけだったのかな。
もう勝っても負けてもどっちでも良い。それでも私は決着のため、しっかりとぶつかるために、覚悟を決める。私たちは親友なんだから。
ありがとう。いくよ。チハヤ
次回 記憶話。




