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能力教室の号哭  作者: たるたるそーす
飛べない豚編
55/101

君の音色、歪んだ旋律をのせて・三

これ、五までに収まるかな……

 ──午前10時45分・グラウンド──



一気に能力を全開で発動する。私とミサキは仲間、それも親友なんだ。それはお互いが認識していることだし、今は違うにせよ、いつも一緒に行動してきた。


私の能力、「絆強化」は、発動した時点で私を中心とした円形にいる、私との絆がある人を対象に身体能力を強化する。ミサキは対象を視界に入れることが条件だったが、私はただ範囲内であれば良い。勝負を決しに来たミサキは超至近距離。範囲に入っていないはずがない。


そして何度でも言おう。私とミサキは親友だ。周りよりも、彼女との絆はより一層深い。そのため、能力での強化もより強くなる。


みんな誰しもが経験したことがあるだろう。エスカレーターに乗り降りする瞬間に体が少しだけ動いてバランスを崩しかけるあの感覚を。あれと似たような感覚だ。しかし今回はそれ以上だけども。


能力を一気に解放することで、ミサキはとてつもなく強化される。一瞬にしてだ。そんな状態でいつも通りの踏み込みをしたらどうなるだろうか?答えはこれだ。


何とか回避行動をとった私のすぐ横をナイフとミサキが通り過ぎていく。ナイフは少しだけ私の脇腹を切っていくがこの際それはどうでもいい。大事なのはミサキの状況だ。思ったよりも速度が出たのだろう。バランスを崩し、それでもなお前への推進力を持ったミサキが一直線に壁に突っ込んで行く。ここで私は能力を解除する。何の強化もない生身の状態で、彼女はドゴン!!!という鈍い音を立ててぶつかった。


(……倒した……?)


見た限りでは、頭から壁に突っ込んでいった。クレーターを作るほどではないが、わずかに壁にヒビが入っていることがわかる。常人ならばもしかしたら頭が割れて、最悪死んでいるような勢いだ。少なくとも与えたダメージは無視できるような規模には収まるはずがない。


それでも、嗚呼それでもだ。望みというものはどこか心の奥底では否定的な考えが浮かんでしまうからこそなのだ。となれば表現の仕方として適切なのは、案の定、だろう。私の望みは叶わなかった。


そんな恐怖と共に冷静になってきた私の頭にやってきたのは、どうしようもない後悔と罪の念だった。


「ごめん!やりすぎだった!!本当にごめん……ごめんなさい!!」


こっちを向いた彼女の頭からは血が垂れていた。口からも血の筋があるし、鼻血だって両鼻から出ている。それでも彼女は全くダメージが入っていない。いや、実際には入っているのだが、それを感じさせないほどの決意と強固な力を持っていることを感じられる。


戦闘とはいえ、流石にやりすぎだ。ボロボロになるのとは訳が違う。一歩違えば命を落とすような、今でさえ命が溢れ落ちそうな痛々しい姿。


「ぅ………っくぅ…………はぁ……はぁ……今のは……予想外だったし…………すごい痛かったよ……流石だね」


「………なんで……まだ、立ってられるの?」


「私も、負けられないから。ここで倒れたら……絶対にダメだから……っぐっ!!」


頭を抱えて悶える彼女を見て、一つの結論に至る。脳震盪だ。


きっと痛いだろう。苦しいだろう。頭が揺れて、気分が最悪だろう。私は、彼女の能力が切れていることにすら気づかずに、ただ私の罪を直視するしかなかった。


後悔、責任、大罪、最悪、罰、痛み、悶え、苦しみ、悲しみ、そして…………無力感。


やっちゃったな。あぁ、本当に、死ねよ。私。


「…………棄権しま──」


「それだけはダメ!!!」


!!!


「これまで……何のために戦ってきたのか……わからなくなっちゃうじゃん………」


「でも、私のせいでミサキは──」


「それの何が悪いの?」


「……………え?」


「戦闘、つまりは突き詰めれば殺し合い。そんな中で相手の心配なんて愚の骨頂だよ!!ほら、どうしたの!?私はまだ棄権もしないし、諦めてもいないし、痛みももうおさまってきた!チハヤがどう思ってたって、私は切り刻むよ!!」


「それでもやりすぎだよ。ミサキのことを考えてなかった」


「ううん。むしろ逆。これでいいんだよ。全力でやり合って、最後に笑おう。チハヤだって、ただ勝ちたいからってわけじゃないでしょ?」


「それは……」


「これは先生の言葉だけど──『勝利っていうのは一種の結果として最後に残るもの。大事なのはそこまでした理由とその行動力だよ』──やろう?」


「………」


切り替えよう。そうだよ。これは戦闘。私と、彼女の、真剣勝負。これは最善策だった。ミサキだってそれを望んでた。私とのこの戦いを、ぶつかり合いを、望んでいたんだ。きっと、きっと───


そう考えないと………どうにかなりそうだよ……


「うん。それでいいよ。それでこそチハヤだよ」


「全力でやろう。私が……勝つ!!」


「ふふふ。その目になってくれて嬉しいよ。でも勝つのは私だよ」


この瞬間、私たち二人の目は尚迷いだらけだった。それでも決意は固まっていて、目と目が重なって対立する。改めて見たミサキ(チハヤ)の目は、とても澄んでいた。

ミサキ(チハヤ)がそうであるなら、私もそうでなくちゃ。じゃないと理想は夢のまた夢。

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