期待の一年生
今回は部外者からみたマオの話なので、あまり全体の話には影響しませんが、今のマオの異質さを感じて貰えばと思います。
──9月21日 午前8時30分・グラウンド──
『それでは第一試合、鏡月マオ対新妻かるた、スタート!!』
これが私の見たかった世界なのかと、自分がそこに立つことで改めてそれを実感する。手を伸ばしても届かなかった。敗北という結末に抗うために、私は死に物狂いで努力した。一年という短い期間かもしれないが、それでもずっと頑張ってきたんだ。その結果がこれだ。
正直言えば私──新島かるたは出場を目標にしていたので、この時点である程度は満足している。そりゃあ優勝できるものならばしたいが、それを達成するためには期間がまだ足りなかったと自負している。しかし、二年生である私が三年生の中で選ばれた、ということは素晴らしい栄誉あることだと思っていた。とあることを知るまでは。
今回の能力祭のメンバー、そのうちの三人が一年生だったのだ。実際に経験したからわかる。一年生から二年生、二年生から三年生では実力が明らかに違う。だからこそ、サバイバルゲームという明らかに二年生が一番有利なゲームが予選であるにも関わらず、普段は大多数が三年生だったのだ。
一年生の頃から既に三年生と同格の力を持つ。これを一言で表すならば、「超天才」である。しかし今回はそれが三人……全体の約18パーセントが一年生なのだ。
そんな一年生であるこの目の前の少女、鏡月マオはサバイバルゲームの前での独自の調査では、これほどまで強くはなかった。だからこそ、あまり関心を示してはいなかった。私は今それを猛烈に後悔している。
私の能力、「温度干渉」は、その名の通り物の温度を上げ下げする物だ。物が燃えるためには何が必要か、それは酸素と燃える物、そして十分な温度だ。予め用意しておいている油を染み込ませた燃えやすい木球を投げた後に一瞬で温度を上げるとあら不思議。ただの木球が火球になったではありませんか。そんなものである。
何かと応用が効く私の能力は様々なことに応用ができるため、まだ見せていない技術がたくさんある。例えば水の応用だけでも、凍らせたり、一気に加熱して爆発を起こしたり、思いつくだけでももう三つは思いつく。環境を利用した応用を使いこなすのが、私の戦闘スタイルだった。
だから信じられなかったのだ。一年生。いや、そんなことはもうどうでもいいんだけど、大事なのは私が放った攻撃を避けるその姿に一切無駄がなく、そして………流麗。
それが導き出す答えとは、彼女が私よりも戦闘に優れているということだった。技術が、というのもあるが、それよりも戦闘慣れしていると言わざるを得ないこの臨機応変さ。これが厄介であるということを思い知った。開始1分の出来事である。
私が武器として持ち込んだのは燃えやすい木球と、薄いビニールで覆われた水球である。これらをそれぞれ火球と氷球にして投げてもいるが、それのどれもが避ける、蹴る、斬るで対応されてしまう。
(遠くから球を飛ばしてるだけじゃ埒が開かない。なら、至近距離でダメージを与える!)
左手で水球を破裂させて濡れた手を握る形にして凍らせる。少し冷たいが一時的なので我慢する。この状態では左手の形は動かせないが、その分硬くなり、単純な攻撃力が増す。
彼女が接近してきたところを左の氷の拳で叩く──避けられた。想定内だ。元々の攻撃が全部避けられてたのに、この攻撃だけ当たるなんてことはない。しかしこれはただのブラフ。本命は握られている右拳?違う。正解はこっちだ。
左手の温度を上げて氷を溶かす。左の手からは氷がバラバラになって重力に従い落ちる、が、私は予め準備しておいたのだ。左手の中に予め入れておいた水球を握りつぶす。すると水が一気に飛び散る。さっき彼女は拳を避けた。そう。いつも通り最小限の動きでギリギリで避けたのだ。ならば私の左手と彼女の体が近くにあるのは当然のことだ。
彼女の右腕あたりに水が付着する。そして能力を発動。彼女の右腕の水が一気に氷として固まる!!
「これで終わりだ!!」
氷は強い。固い。そのためその部位は動かせなくなってしまう。動かせない部位は的だ。弱点だ。そこを狙えば大ダメージだ。私の左手は飛び散った水が既に氷へと変わっている。そしてこの一瞬の体の変化に初見の彼女は追いつけるはずがない。必ず戸惑いが生まれるはずだ!
いける。勝った────
「ごめんけど、氷の扱いには慣れてるんだよね」
パキン
それは他でもない。彼女の体についた氷がバラバラになった音だった。
何をしたんだ?氷がいきなりバラバラになるなんて……もしかして、そんな能力なの?しかし一体……?
絞り出した希望の光が途絶えて、向けられたナイフの先端を見て、これまでの彼女の技量を見て、不本意の中、敗北を悟った。
私の能力は外部の環境を利用するものであり、一対一には向いていない。そんなことを言っても、負けは負けだ。
「もう無理。降参しまーす」
そこで、私は手を上げて降参をした。これ以上やっても勝てるビジョンが思い浮かばない。
『勝者、鏡月マオ!!!』
私を打ち負かした対戦相手はというと──汗一つもかいていないし、息も上がっていない。速い段階で勝負を切り上げたからというのもあるが、この際はっきり言おう。彼女は強すぎる。私の中では優勝候補に入るくらいには強いと、認識を改める。
ワァァァ!!と上がる歓声は、私に向けられたものではない。それでも「悔しい!」とか、「一年のくせに!」とか、そんなことを考えることはなかった。考えることはできなかった。
やはり自分はどこかすでに満足している。それが良いことなのか悪いことなのかはわからない。向上心がないと言われればそうだし、人生謳歌してて良いと言われればそうだ。
(はぁ……今年の一年生はすごいなぁ。私ももっと頑張らないと)
現状に笑みを浮かべながら、私も彼女──鏡月マオの勝利を讃えるのであった。
マオのやったことは、氷の中に氷を無理矢理創造することで内側から破壊したということです。
もうね。開会式とかも見せ場ないので、ぬるっと始まりました能力祭です。とはいっても次回から長編タイトルです。




