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能力教室の号哭  作者: たるたるそーす
飛べない豚編
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「魔力強化」と「昇化」

 ──9月18日・ミズキ特別教室──




サバイバルゲームが終わったところで日常生活で何か特段変わるわけではない。まぁ出場した3人はすごい周りを囲まれたって聞いたけれど、今日も休まずみんな特別教室に来てくれた。


「はいお疲れ様ー」


「ふぅ……ふぅ……すみません……遅くなってしまって……」


「ううん。大丈夫だよ全然。──記録は1時間12分32秒で38km210mだね。すぐにこれ飲んで休んどきなね。みんな呼ぶから」


「はい………」


マオに経口補水液(私特製のよく効くやつ)のペットボトルを手渡す。同時に他の生徒たちを呼び戻す──『みんなー。マオ戻ってきたからキリのいいとこで帰ってきてー。超大切な話するからメモ取る人は用意すること!』──よし、これでいいだろう。


マオは震える手でそれを手に取ろうとしていたが、腕がうまく持ち上がらないようだ。仕方ないのでマオを座らせて、ペットボトルを少しずつ口につけながら傾ける。何度かに分けて飲ませていき、ボトルが空になった所で全員が部屋に揃った。


「無理はしないでね。今さっきまで無理してた状態なんだから」


「…はい。だいぶ楽になりましたし、多分大丈夫です」


さてと、この教壇で座学を教えるのは久しぶりかもしれないな。毎日連絡としてはここに立ってはいたけれど、このケースは本当に珍しい。


一度誰にも気付かれないように浅い深呼吸をする。目をしっかりと閉じて、しっかりと開けてみんなを見る。目があっても、今は手を振らない。


「それじゃあ久しぶりの座学だよ。内容は──『昇化』と『魔力強化』について」




◇◇


「えーっとねえ。この話をする前に、まずはみんなに訂正をしなきゃいけないんだ。それは、『昇化(・・)()昇化(・・)じゃない(・・・・)っていうこと」


「ん?それってどういうことですか?」


最初に声をあげたのはショウだった。いつものように、誰もが感じる一番基礎部分のもはや前提知識である一番簡単な質問をする。今回も同じだったから、マオ含めミズキーズは別に驚きはしないし、なんなら自分たちが知っている情報が答えとして出てくると思っていた。


「これまでみんなに教えていた『昇化』っていうは、実は『魔力強化』のことで、『昇化』っていうものは別にあるんだ。みんな、騙しててごめんね?」


前言撤回。話の本質だったわこれ。




なるほど。話をまとめるならばこうだ。


先生が『昇化』として教えていたこと、つまりは魔力を使わずに体を強化するということは、本当は『魔力強化』という技術だった。じゃあ昇化とは一体何かというと、ざっくり言えば人が別の種に進化するのと似ていること………あーわかりづらい。ゲームでいうアクティブスキルとパッシブスキル、そんな感じらしい。


なぜそんな回りくどい教えかたをしたのだと聞くと、


「まあはっきり言っちゃうとみんながめげないようにだね」


とのこと。


いやだとしてもよって気持ちにもなったけれども、そこで掘り下げていくことができなかったのはやはり先生への信頼からだろうか。


そういうことを言う私といえば、別に納得したわけではなかったし、今でも疑問に残っているが、誰も何も言わなかったから何も言わなかった。そういうとこ、直したほうがいい。自分でもそう思うわ。






 ──午後7時・記録データより──



「……《顕現・P-03》」


天城ミズキがそう言うと、ドサッという何かが倒れる音がした。地下室だからか、ミズキ以外に誰もいなかったからか、あるいはその両方か……やけに静かなその広い会議室は、明るいのにどこか孤独感に満ちていた。


「…………あ、そういえば自爆したんだった。えーと回復薬回復薬……あった」


何か──それはまさしく日本山の四割の自然と三人の生徒、そして自分自身を無差別に攻撃し、最後には跡形もなく消えて無くなった……と世間一般的にされている一人の男だった。


「………あ゛?」


「おはよう。とりあえず水でも飲んで落ち着きな」


差し出された水を、男はしばらく睨んだ後、それを受け取らずにふらふらと立ち上がる。その目にあるのは警戒と、疑問と、困惑。


「くっ、ぁあ。思い出してきた。あのクソ野郎はどこだ?」


「とりあえず座りなよ。そんなに手を握ってたらいつか開かなくなっちゃうよ?」


「あいつは死んだか?」


「あいつじゃない。マオだよ」


「どうでもいいな。クソ野郎の名前を覚える必要なんて微塵も感じねえ。で、あいつは?」


「生きてるよ。むしろ君の自爆で意識すらも飛ばなかったし」


「……クッソ、死ねばよかったのに」


回復薬は外傷を癒すことができても疲労回復はできないようで、言葉の鋭さに反して男の声と動きはか細いものだった。


「なんでそこまで殺意が芽生えたの?あの子と君は初めて会ったはずだけど」


「……関係ねえよ。お前にはな」


「そっか。じゃあ君は何を望む?」


「……どういうことだ?」


「君はなぜ、あんなことをしたんだい?」


「……教えねえよ」


「どうせ誰かに雇われでもしたんじゃないの?」


「……!」


「やっぱりね。私ならその雇い主よりも良い報酬を出せるけども?」


「……….」


「沈黙かぁ……じゃあ喋り続けるね。私は君について何も知らない。だからこそ、どうしてあそこにいたのかとか、どうして急激にマオへの殺意が芽生えたのかとかはよくわからない。ただ、それは決して自分の意思ではない。じゃないとあんなリスキーな行動には移らない」


「………………」


「鋭い目だね……それにその服装。日本区に住んでないんじゃない?となれば……」


「……いや、もういい。そこまできたなら話す」


「……それはご丁寧にどうも。けど良いの?私だって始めましての部外者だけども」


「少なくとも俺の雇い主よりかは信用できる。いや、むしろ雇い主のほうが信用できないってことだが」


そこで男は、ようやくミズキのように近くの椅子に腰を下ろす。とりあえず話し合いができるレベルまでには落ち着いてくれたらしい。


「そうだねえ。じゃあまず、君の行動の経緯についてから話してくれる?」


「それは構わんが、ここの情報が漏れ出したりはしてねえよな?」


「もちろん。むしろ外部にはここの場所はおろか、存在すらもわからないだろうね」


「……はぁ、あんたと話すとどこか警戒心を解く自分がいるのが怖いな。────言っていた通り、俺はある人物……とは言っても名前も顔もよく知らないんだがな。そんな信用ならんやつに雇われてあの騒動を起こした」


「……詳しく教えてくれないかな」


「ああ、いいぜ。だがしっかりと報酬はもらうからな?」


「お望みに応えられるようにはするよ」


「フッ……言われてみれば、そう言われたのは初めてかもしれねえな」




 ──ここでミズキは記録に気付いたのか、記録を止めている──

次回から漸く本戦に入れます……書くこと多いのぉ……

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