栄光なき勝利
──???・どこかの病室──
はっと目を覚ました時、もうそこは木に囲まれた戦場の中ではなかった。横の窓から入ってくる陽光が、私の下半身を優しく照らしていた。腕時計端末の感覚はもうなかった。
(終わったんだな……)
程なくして私が今病室のベッドに横たわっているのを感じるとともに、自分の敗北の味が段々と染み渡っていくように実感する。負けてしまった。頑張ったけれども、結局は届かなかった。
「あ!チハヤが起きた!」
「おっ、おはよう。チハヤ」
そこにいたのは、先生とミサキだった。二人とも私を見て安心感のある笑みを浮かべることで、二人に心配されていたことを実感する。
「──!」
ものを言おうとしたけれども、上手く体は動かなかった。舌は回らなかったし、口すらも半開きになっただけだった。
「はい、とりあえずこれ飲んでねー」
ミズキ先生はその半開きになった口にどこから取り出したのか、回復薬を注ぎ込む。それを何度かに分けて飲み込むことで、ようやく体の自由が効くようになった。
「……ありがとうございます、先生」
「ん、いきなりで悪いけれど、早いうちに伝えなきゃいけないことがあるんだ」
そうして私に、目覚めたばかりの脳内に、決して朝ボケで聞き逃したとは言えないような、重大な情報がインプットされることとなる。
「チハヤ、能力祭に出られることになったよ」
「えっ!」
この時点で眠気は全て吹き飛んだ。単純に嬉しい。夢に一歩近づけたのが嬉しかった。自分の実力が認められたことが嬉しかった。そして何より、自分が上位16人の中に選ばれたという事実が、より私の勝利を輝かせたと思った。
こんな事実がなければ
「ふっふっふ、これで私のクラスからは3人──チハヤとマオ、そして──ミサキが出ることになったよ」
…………あれ?何かおかしい。そうだ。どうしてミサキなんだろう?あそこには私の他にカエデもいたはずだ。
「あれ、カエデは?」
「……心して聞いてね」
そうして私はその時の状況を初めて知る。
あの時の爆発は、とある外部からの侵入者の能力によるものだった。マオはそれと接敵していた。そして、その最中に巻き込まれたのが私とカエデであった。男は何故か、自爆を選んでまであそこまでの大爆発を起こした。それによってマオはなんとか意識を保てたが、その時に私とカエデは気絶。双方が同時に脱落となった。
が、それによって残った生徒数は15。本当ならこの状況でトーナメントを強行するつもりであったらしいが、予想外の事態であったため、私たちにはチャンスが与えられた。
「それが、『二人に同じ医療措置を施したのち、先に目覚めた方を出場者とする』という制度だよ」
「……え?じゃあカエデは──」
「横にいるよ」
ベッドから起こしていた上半身でゆっくりと左を見る。そこには、私と同じようなベッドで今も目を閉じている、森川カエデがいた。
違う。本当は彼が出るべきだった。私とカエデは一緒に動いていた、というのはあるが、それでも戦績は圧倒的にカエデの方が上だったはずだ。
「……先生、カエデの戦績はどうでしたか?」
「……11キル、1アシストだよ」
「……どうして私よりも戦績の良いカエデを選ばなかったのですか?」
「さぁ」
「先生でなら、選べたはずです。それこそ、カエデに回復薬をかけたりすれば、先に目覚めたのもカエデだったのに」
「……それを決めるのは、私の役じゃないと思ってね」
「じゃあどうして──」
「それは私が説明するよ」
気付けばそこにはマオがいた。あの時血と泥と汗だらけになって苦しんでいた彼女はどこへ行ったのか、今では涼しく、柔らかい表情をしている。それはまるで、先生を見ているような気もしてくる。
「結論から言うと、カエデとチハヤで功績が同等だと判断されたからなんだよ」
「いや、それは違うよ。私のことだから覚えている。私の戦績は1キル10アシスト。しかもそのアシスト数もただカエデが近くにいたから。カエデと私が同等であるわけがないよ」
「チハヤがアシストしたのはカエデだけじゃない。──私もなんだよ」
「……?」
「あの爆発、部外者の行動ってことは知ってるよね?そこでの最後の大きな爆発のことなんだけど、あれは明らかに人を殺せる威力があったんだよ。それでも誰も死んでいない。それどころか一番消耗していた私が気絶すらしなかったんだよ」
「それは関係──」
「チハヤの能力のおかげで、私たちは今も生きている。そう考えれば納得できない?」
「………」
正直言って、納得はできない。だって、それがカエデが今も寝ていることに関係しているわけではないから。確かに能力のおかげで最悪の結果は免れたかもしれない。でも、だからと言ってカエデより先に私が目覚めたのは、単にカエデの方が爆心地に近かったから、カエデの体が壁になったから。それだけに過ぎないのだから。
カエデの能力『次元照射』は、簡単に言えばエネルギー砲であり、エネルギーを貯めて、ビームとして発射する。特筆すべきはその威力が実質青天井ということだが……肝心なのはそこではなく、「次元照射をすると、その分のエネルギーは反作用としてカエデの体にも加わる」ということであり、その分それに耐えるために肉体が強くなるということだ。
つまりはカエデの方が肉体強度も上だったはず。サポート型の私と、アタック型のカエデ。どっちが戦った方が盛り上がるか、楽しそうか、そんなのはわかりきっていることだろう。
(あぁ、やっぱり自分が嫌いだ。私なんかよりもカエデの方がずっと良かった。私なんかより──)
「チハヤ」
「!!」
声は、隣のベッドから聞こえた。どうやらカエデも起きたようだ。
「カエデ……能力祭に出て──」
「頑張ってね」
「え?」
「僕が自らそう言うっていうことで納得してくれる?」
「………」
「まあ、恩返しだと思って出てきなよ。みんな出たいのは一緒だし、チハヤだってそうなんでしょう?」
「カエデが出てよ」なんて言葉は、もう金輪際出ることはなかった。どんなに嫌がっても、荷が重いと言ってやめたくなっても、心のどこかではやっぱり「出てみたい」っていう気持ちがあった。それだけで、十分だった。
(あんまり気は進まない。すごいのはカエデであって私ではない。でも……)
「……カエデ、ありがとう」
「うん。僕の分まで頑張ってね」
「うん」
出場メンバー16人が、決定した。




