爆発祭り
──午前10時35分・日本山 麓──
爆発のスイッチが押される寸前、私自身驚くほどの、今まで感じたことのない感覚に襲われた。別に自分が速くなったり、五感が鋭くなったわけではない。ただ、何をするべきなのか、どうするのが最善なのか、そういう判断の迷いが一切なくなった。考えるよりも前に体が動いたし、その動きは最善のものだった。
最高効率で動き、最高効率で殴る。それだけなのに、私の足は以前よりもずっと深く地面を踏み締め、私の拳は以前よりもずっと強い力を込める。
いや、ひとつ訂正しよう。私は別にこれらの現象について、驚いてはいなかったんだろう。なんでと聞かれたら「わからない」と答えるしかないが。
「フフフフ………いやぁよかったよ。ホント最高だわ。やっぱ取り消しだわー」
男は殴られて少し宙を舞うも、受け身を取りつつ私に向かう。
「ここに来てよかったよ。感謝はしねえが信用はくれてやる」
憎たらしいほど清々しい笑顔。薬物でもやっているかのような、口を大きく開け、目を見開いたその顔は、間違いなく私を見ている。
「……貴方は誰?」
「俺か?…………ただの戦鬪狂だ。お前は?」
私から見たら男はただの不審者なので、情報を握らせないためにも端的に答える。
「………ただの、生徒」
「ハッ、そうかい。じゃ、やろうぜ」
速度が上がる。下手したらショウくらい速いんじゃない?でも対応はできる。言語化するよりも先に体が動く。
目の前に来た男を見て、私は握られた男の右拳を掴んで拘束……するつもりだったが、そこで男は運動を逆向きにしつつ、拳を開ける。握られていた拳の中にあったのは……大量の黒粒。
私の手は空振り、手の周りを黒粒が舞う。男が左手をスイッチの形にすることで、小さな爆発が何重にも重なる。……危ない。距離をとっていなかったら手がぐちゃぐちゃに……とはならないと思うけど、一つ一つの爆発がもっと大きかったらそうなっていたかもしれない。
今度は私が出る。腰についていたナイフを手に取り、男との距離を走って詰める。黒粒が掌から扇状にばら撒かれる。左手のスイッチが見えた時点では遅い。一番近くの粒くらいならナイフで弾ける。
そう思っていたが、ナイフに当たった黒粒は即座に小規模な爆発が起きた。しかし他の粒は爆発していない。
(うわっ!これ、衝撃だけでも爆発するのか!)
時すでに遅し。大量にばら撒かれた黒粒は次々と連鎖的に爆発する。塵も積もれば山となる。爆発の嵐は大きなエネルギーとなり、私の体に衝撃が走る。
「ククク……まだいけるよなぁ!もっと来いよ!ハイになろうぜぇ!」
(……正面から行くのはダメか。なら……)
次のプラン。近くにあった適当な石を3個取って男に投げる。避けられるけれど想定内。私自身も近づいてナイフで応戦していく。……至近距離でなら若干私の方が有利だけど、不意打ちじゃないからダメージを与えられていないように感じる。んなぁまた黒粒!!一つの玉じゃないから遠くにぶん投げて解決、とはいかない。いやあうざったい。
私はもう一度、走り出す。黒粒は少し大きめの黒石と混ざりつつ飛んでくる。時に避け、時にナイフで優しく受け流す。左手がスイッチになったら全力で避ける!!背後での爆発が木の幹を抉る。黒石の爆発も結構危ないな。
(このままじゃ防戦一方だなぁ。こうなったら、多少無理はするけど増援してもらおうかな)
プランB。広く使おう。
……持つかな、私の体力。
──午前11時・日本山 中腹──
「……さっきから一体何が起こっているんだろう」
「さぁ……ただ、所々から煙とか光とか──爆発が起きてるみたいな音もしてるね……」
10分ほど前から聞こえ始めた爆発音は、今やその勢いを増して何度も何度も聞こえてくるようになった。もともと煙が上がっているのは見えていたが、だんだんとこっちに向かってきているのか、微かにだが爆発音ですら聞こえる距離となってきている。
遠目からでも見えてしまう大規模な戦いなんてこれまでにはなかった。だからこそ無意識の中考えてしまう。一体あの爆心地では何が起こっているのだろうかと。
「はぁ……移動した方がいいかもね。これ」
「確かに、ここじゃ危ないかな」
「……三年同士の戦い、かな」
「……多分ね」
「すごいね」
「うん」
「もし私たちが本戦に行けたら、ああいう人たちと戦わなきゃいけないんだよ」
「うん」
「………どうしようかなぁ……私、自信ない」
「……そう?」
「勝てるかな、いや、多分大事なのは勝ち負けじゃないんだよね。……私は、強くなったのかなぁ……」
「…………」
どうしてだろうか。こんな時だというのに、いや、もしかしたらこんな時だからこそかもしれないが、本音というのは水のようにとめどなく溢れていく。
「あぁ……悔しいなあ……私はああなれない。あんな派手に、豪快に戦うことはできない。見た人や、知った人達から一目置かれるような存在でもない……」
「………でもさ、きっと、いや絶対そんな存在にはなれるよ」
「………どうして、そう、言い切れるの?」
「……僕たちは、ミズキ特別教室で努力しているから」
「……………」
心がどこか安心していくように感じる。あぁ、そうだったな。私たちには先生がついているんだった。
安堵感を覚えて冷静さを取り戻し、カエデに感謝を述べようとした時だった。
私の能力範囲に、誰かが入ってきた。
そして、それと同時に、爆発がかなり近くの場所で起きたことに気付いた。
PCで例えるなら
モニターや冷却ファンなど、パーツごとが高性能になるのが『魔力強化』や『身体強化』の能力。
PC本体の演算能力が高くなるのが『昇化』。
あえてこと詳しく状況を話してはいますが、ただ単に情報の処理速度が上がっただけなので、激しかったり無理な動きを続けてすることはできません。しかしそこらへんの体力管理もしっかりできるのが『昇化』の強みなのです。
また今度ミズキに喋らせるつもりではあります。




