4人目の昇者
──午前10時30分・日本山 麓付近──
爆発の後、煙が辺りに立ちこめる。木々が風通しを邪魔したためか、それはいつまで経っても消えることはなかった。
「……はぁ。どいつもこいつも雑魚ばっかり。進学校も所詮この程度なのか……はぁ」
男から自然と言葉が漏れる。とある者に言われてわざわざ日本区に入ってきたというのに、そこにあったのは、男の期待を裏切った生徒たちだった。
「……….まさかと思うが、死んでないよな?」
延々と立ち込める煙に中では何が起こっているのかはわからない。よって男はそれを確認する術を持っていないわけだ。
(……ペナルティを食らわないってことは多分死んではない。大丈夫だろ)
一種の自己完結。男は脳内ですでにマオが戦闘不能状態になっていると結論づけ、よもやマオがまだ戦えるという可能性を勝手に除外していた。だからこそ奇襲が刺さる。気配を消せないとしても、何か違和感を感じていても、一度決めた固定概念が男の身体を縛る。
そして、そんな人を縛る固定概念を超越したマオが到達した境地は、それこそ『昇化』と呼ばれるものであった。
男はとてつもない力で川辺方向に吹き飛ばされた。文字通り、横腹あたりにぶつかったエネルギーで宙を舞いながら吹っ飛んだ。
「っがはぁあっ!?」
この日、鏡月マオは、人として、人類という種として、一つ上の存在に進化した。
ここで一つ、『昇化』の話をしよう。『昇化』というのは、実を言えば『魔力強化』とは別物である。これまで天城ミズキは『魔力強化』のことを「『昇化』」と言って説明をしてきた。これがなぜか、それは前にも後にも本人しか知らないが、どちらにせよ、普通『魔力強化』→『昇化』という順番で習得するべきものが、過程を飛ばして『昇化』から覚える。そんな固定概念破りをすることは、かえってさらに『昇化』をより強くすることを可能としたのだ。
天城ミズキ、フォボス、レンに次ぐ、4人目の昇化した者──昇者は、マオだった。
──同時刻・日本山頂上付近──
「ぃよし、これで5人目!」
自分の腕には自信がある。特に誰からも何も言われてないが、それでも私は多くのチームの誘いを断ってきて、尚私は半数以下になった生徒の中に数えられている。
私にとっては二回目のゲームであり、過去の敗北を払拭するため、これまでできることはしてきた。相手を研究した。自分と向き合った。いろいろ試して、多くの戦術を考えた。そのどれもが「強くなるため」とか、「勝つため」とか、一行にも満たない言葉でまとめられると気分が悪くなるくらいには、今日、そして能力祭という日のために私は全力を出してきた。
(いけるよ、これ。いけるって!)
能力祭で戦い、熱狂を浴びる私の姿を想像して少しだけ口角が自然と上がる。
上がった口角を戻しながらバックステップで木陰からの奇襲を避ける。
「んなっ!?」
「ごめんね。熱いけど我慢して」
そうして手から敢えて完全に固めなかった火球を生徒にぶつける。ぶつけた部位で火球の外膜が割れ、様々な部位に飛び散った火がさらに強く熱と光を発する。
「ああぁあぁあ!!」
黒焦げにはならない。でも、戦闘不能状態にさせるのには十分だったことを、腕時計端末の数字がひとつ増えることで確認する。
「あの子達なら避けられるのかな」
文字通り瞬殺した私が思い浮かべたのは、まだ記憶に新しいショッピングモールで知り合ったあの二人組だった。
──同時刻・観客席──
(マジか……まずは『魔力強化』という形にしてから改めて『昇化』について説明するつもりだったけど、飛ばしちゃうとは………)
「マオ……すごいな!もしかしてこれが……?」
「……うん。『昇化』だよ」
うおおと感激しているショウを横に、思案する。
(マオの成長スピードはとてつもない。ショウも、他のみんなもどんどんと強くなっていくし、能力が進化するまでにもうそう時間はかからない……)
もうすでに残り生徒数は100を下回った。この調子じゃ1時間もせずに終わるだろう。……流石に早過ぎないか?
他の観客も、その違和感に気付いたようで
「なぁ、普通こんなにも早く減らないよな?」
「あぁ。例年通りなら3時間くらいかけて行われてるのに、今回はもう終盤ペースだ。……まだ30分しか経ってないんだぞ?」
「あの爆弾魔、時計持ってなくね?」
「ん?どういうこと?」
「もしかして、生徒じゃない?」
(……なるほど、あいつか)
マオによって川辺に弾き出された赤髪の男が一斉に注目を浴びる。乱入者か、ゲームの追加要素か、観客に判断する術はないが私にはわかる。
(ま、あれは乱入者だね。明らかに生徒をブチ殺そうとしてる。区内だから、本当にはしないはずだけど)
なーんで運営側は対策も何もせずに傍観してんだろうね。これでも生徒が危険に晒されてるんだけどこれ。
(ちょっと運営の対応がムカつく。ガチャ渋すぎるソシャゲみたいだね…………でも多分大丈夫だと思うな。あれ)
マオの昇化が今どの程度なのか、期待して見守らせてもらうとしよう。もしやばくなったら私が直接行けばいい話だし。
観客95%「誰も止めないってことはギミックなんじゃない?」
残り4%「なんか明らかに殺意あるくね?」
ショウ「がんばれみんな。」




