半分
──午前10時20分・日本山 麓付近──
爆発音と衝撃波。ここまで来れば、何かが爆発したのだろうということは予想できるだろう。ただ、何が爆発したのかまではわからない。ぐにゃりと曲がった鉄板を投げ捨てると同時に、目の前の光景を見る。
(……誰もいない?いや、どこかには絶対いる)
目の前の地面が少し抉れているのを見れば、さっきの現象がやはり爆発であったと言い切れる。咄嗟に出したのが鉄板だったから、あーあ。あえて氷とかにしとけば何が起きたのか見れたんだけれども。先生がいたら絶対指摘されるやつ………
でも、次の攻撃を避けきれないとは言っていない。前方を軸に全方位に集中。氷の盾はもう用意できてる。……だめだ。気配を感知できない。それは私は犯人がどこにいるのかがわからないということであり、少なくとも気配を消せない私よりも実力があるということを意味する。
「ヒィィィィ……!やめろ……来るな!うぅぅぅ……」
「ごめんけど静かにして!」
「っぐぅっっ…………!」
ここはすでに開けているから敵に居場所はバレていると思うが、単に集中できないので男を黙らせる。さすが愛脳高校の生徒というべきか、すぐに静かになってくれた。青ざめた表情と挙動不審な目は決して静かではないがそんなことこの際些細なことだ。
………ザァァァと、すぐ近くで川の流れる音だけが時を進めているように感じる。一見すれば戦いなんて起きていないように見える。でも実際はそんなことなんてない。集中を切らすな。瞬きの回数を減らせ。……………来た!そこだ!
飛び出してきた黒い丸い物体に向かって氷を投げると同時にその方向の木々の中に突っ込んでいく。木がありすぎて邪魔だ!死角が多すぎる。
どこだ?どこにいる?近くには絶対いるはずだ!
背中側で衝撃と爆発音を聞きながら………….私はついにその男の姿を捉えた。
「見つけた!」
私はショウほど身体能力が高いわけではないから男には追いつけない。しかし姿を見ることができれば幾分か追い詰めやすい。ナイフくらいの大きさの氷を生成して……投げる!
「…………!」
氷が男の進行方向にある木に突き刺さり、それに反応して男が止まった!動きを止めたのは一瞬だけ。されどそれだけあれば、一瞬でも速度がゼロになってしまえば、もう私の方が速い。
私は決して止まらない。その勢いを使ってそのまま男を川辺まで押し出す!
「広いとこでやる…….よ!!」
そして私は見た。スカした感じがした。男の手を握り、回し投げようとしたその手が掴んだのは、単なる男の上着だけだった。それもただの上着だったら良かったのだが………
男が袖を外し、上着だけを掴んでいる構図になる。しまった。逃げられてしまった。
見れば男は反撃するでもなく私から距離を取っていた。やらかした。もう同じ手は通じない。
待てよ?なんでわざわざ反撃をせずに逃げた?私から距離を取った?いや、距離を取ったのは私じゃなくて、この上着から………!
重力に従って垂れ下がった男の上着が布にしては明らかに重いことに気付いた時にはもう遅い。一瞬だけ上着の中に黒い球が入っているのが見えた。
必死になって上着を投げ捨てながら男を見る。ニヤリとした笑みと共に、男は右手をスイッチの形にして
「ドン」
と言うと同時にその空気スイッチを押した。
黒球が光を持ち始め、私の手の中で今、爆発を起こした。
私が爆発の中で最後に見たのは、男の勝ちを確信した策士の目と、腕時計端末も何もつけていない男の腕だった。
──午前10時30分・日本山 中腹──
『残りの生徒数が半数を下回りました。これにより、現時点でキルスコアが0の生徒は脱落となります。脱落になった方は、速やかに下山をしてください。この時、生徒の妨げにならないようにしてください』
ナンパ男とその仲間達を至極あっさりと倒し、ちょうど木の間で座って休息をとっていた私たちの腕時計端末は一斉に同じ音声を流し始めた。残り生徒数は100人以上いた生徒数が一気に52を示す。このキルスコアによって、50人以上が脱落したのだ。
「……この音声が流れておる間にも脱落者が出ているね。警戒しながらやっていこう」
「…………うん」
カエデの端末を覗いてみると、キル数は10を超えていた。それに比べて私は……1。
かろうじてまだやっていけるが、それでもこの1はカエデが敢えて私に残してくれた最後の一人を倒した物だ。
敵は強くはなかった。数が多かったからなんとも言えないが、あの程度であれば、二人同時までなら問題なく対処できるくらいには弱かった、が、私とカエデの戦力差を見れば、それはそれは明確なものだった。
私がナイフを使って敵の一人と交戦している時に、カエデはビームと体術を駆使して他の敵を一掃していた。
戦力差がありすぎて少しだけ気分が悪くなる。私がカエデを強化したのもある。けど、それでも大事なのは戦績であるから。それに私一人だったら、6人も一度に相手できなかった。
「はぁ………」
ため息は、誰の耳に届くこともなく、空に消えていく。少なくとも私はまだ戦いで残っている。それだけでいいや!と全てそれで納得できてしまうほど私は前向きではない。だからこそ、戦いの最中だというのに、私は座り込んだまま脱力し、目を瞑った。




