戦いの始まり
──午前10時20分・日本山 中腹──
「うるさいわ!」
「あだぁあっ!!」
しまった。声を出すことに集中したせいで攻撃への反応が遅れたせいで拳がもろに当たった……体が痺れてうまく動けない。持続的な痛みが熱となって皮膚にこびりついてくる。膝をつくほどでもないが、そこに生まれたのは確実な隙。
二撃目、三撃目とどんどん攻撃が激しくなって、攻撃が当たる毎に全身に熱い痛みが走る。
(このままじゃだめだ。どうにか逃げ出さないと……)
とは言ってもそれをさせてはくれないのが男の戦略なのだろう。逃げ出そうとしても電気が体にまとわりついて体がこわばる。意識を飛ばさないように攻撃をなんとか防ぐだけで精一杯だ。
「大きな声出しちゃったらここがバレるだろ…………ほらぁ、どうしようこれ」
次の瞬間私は男から解放された。片膝を地面につけて改めて目を見開くと、そこにいたのは……カエデだった。
「ピンチだったね。大丈夫?」
「うん、ありがと……多分相手の能力は電気を操る能力。常に帯電してるから気をつけて」
「了解。援護は任せるよ」
男と私たちが睨み合い、数秒の沈黙が流れる。正直言って一対二の構図でようやくトントンというところだろう。それくらい男の能力は攻撃的で、応用性が高くて、厄介だ。
そんなことは男はとっくにわかっている。何せ男から見ればそれは他でもない自分のことなのだから、誰よりも理解しているのは当然のことだろう。そうしてそんな男が沈黙の末導き出した答えとは……
「戦略的撤退ぃー!じゃあねー!」
逃走だった。
…………
「行っちゃった」
「まあいいんじゃない?私もだいぶ疲れてたし」
二人取り残された私たちは、さっきまで男がいた、今はもう何も残されていない空間を眺めながら少しずつ警戒を解く──こともできなかった。
「カエデ」
「うん。分かってる」
気配は消せなくとも感じることはできる。現に私たちは、彼らが音や姿を見せる前にすでに気づくことができた。
ピュン!
カエデが牽制として弱めのビームを出してみる。あれ、カエデのキル数が一つ増えた。
「やあやあ、さっきぶりじゃないか?」
「…………」
「チハヤ、誰?」
「麓で私に粘着してきた人」
「人聞きが悪いな。俺はただ誘っただけだぜ?」
麓での出来事をもう忘れてしまったのか、今はもうあの時見た死にかけの顔の面影はなかった。
ぞろぞろと男の後ろからさらに五人が出てくる。どの生徒を見ても、余裕そうな、小馬鹿にしているような顔をしている、が。
(なんだろう。勝てそうだなぁ)
戦闘だとしてもそうでなくとも、物事はごく自然な流れで突如始まるものだ。
──同時刻・日本山 麓付近──
私──鏡月マオは川の周り、そう。障害物がなくなる、ひらけた土地に一人立っていた。いや、厳密に言えば一人ではなく、倒れている十人と立っている一人である。急所は外したとはいえ、生徒をナイフで浅めに斬った。川の水でナイフに付着した血を洗い流しながら、腕時計端末を確認してみる……早い。もうすでに生存者数は150を下回っていた。私はすでにキル数条件を満たしたが、もしかしたらこれで誰かが強制脱落になるかもしれない。
「……片っ端から片付けていくのは悪手、か」
10人も一人でやってしまったということは、その分他の取り分が減るということ。ある意味良いことではあるが、仲間のことを考えるとどうしてもそう考えざるを得なくなる。
(身を隠す?いや、奇襲も嫌だしな。あえてここに居座っておこう)
能力で四方に氷の壁を作る。氷の素は水であり、水は単純な化合物だから、今の私でも作れる。下手に土壁を作るより、氷を使ったほうが早い。溶けちゃうのが難点だけど。そう考えると私も成長したなぁ。
(………!誰か来る)
咄嗟に森の方を警戒しつつたったさっき作った三方向の氷を壊し、すぐさま森、氷、私の構図を作る。……どんどんこっちに向かってきているな。やけにうるさい。なんでこんな慌てて走ってきている?
そんな疑問は、実際にその生徒を見ることで答えを得られるようになる。
木陰から飛び出してきたのは、一人の生徒だった。しかしやはりというか様子がおかしい。男はボロボロで、至る所に傷と泥がついていて、所々血が滲んでいる。さらに言えば、腕時計端末は赤色の点滅を繰り返している、つまりは脱落者のはずだ。ならなんでこんなところにいるんだろう。
それにこの走り方、何かから慌てて逃げているような──
そこまで考えて、全てを理解した。故に咄嗟に走り出す。逃げるんじゃない。早くあの男の人を守らないと!
生徒の前に動きながら鉄板を生成して構える。─────来る!
大きな爆発音と、衝撃波が辺りを迸った。
ミズキが生徒にしてきた(教えてきた)こと
・判断力、対応力の強化
・基本的な武器の扱い方
・体の使い方(存在を消すのはここ)
・能力の使い方




