サバイバルゲーム
──9月16日・日本山 麓──
◆
時が経つのは早いわけで、10日以上先だったはずのこの日はあっという間にきた。見渡せば生徒の姿ばかりで、私のように緊張しているようだった。そして目の前に立ち聳えるのは、もう9月というのに未だ活力に満ちている緑の葉が覆い被さる、日本区唯一の山であった。
日本山──標高僅か320メートルの山、丘のようだがこれは山だ。日本区の人口増加に伴ってこれまで数多くの自然区域が住居に変わっていったが、この山は今の今まで現存し続けている。とは言っても材木などの資源は別で供給できるため、普段はハイキングなどで一般開放されている。
山の大半は土と木で埋め尽くされているが、一つだけ、川がある。そしてそこだけは周りに土も木もなく、丸っこい石で地面を覆う、ひらけた土地となっている。そして私たちは今、まさしくそのひらけた土地に集合している。
「…大丈…かなぁ」
「……絶…勝つぞ!」
「…緒に…張ろう…」
耳をすませばいろんな声が、感情が、気持ちが聞こえてくる。この中の私以外の特別教室の生徒は今どこにいるんだろう。
(みんなは今回、個人戦として出てね、か)
先生の言葉通り私たちは今日会っていないし、あわないようにしている。きっと、個人戦の方が学ぶことは多い、とかそんな理由だろうな。
(みんな、すごいな。こんなに遠目でもわかっちゃう。みんなすごい実力者なんだって)
「それはそうでしょ!ここにいる人はみんな、あの天下の愛脳高校の生徒たちなんだから!」
突如女性は後ろから私の肩に手を乗せながら話しかけてきた。……なんか見覚えある。どこだっけ、ええっと、あ、そうだ。
「あなたは、この前デパートにいた……というか何で私の考えが読めて……?」
「……あはは、こういう能力だからですね。まあ一年生同士お互いに頑張りましょう!」
「えっ、あ、はい、そうですね……行っちゃった……」
そうか。愛脳高校に通っているとしたら自分のことを強いと言い切れるのに納得できる。となると彼女は私のことを知ってたのかな?
相変わらず嵐みたいな人だなと思いながら私は元の体勢に戻る。一年同士か……やっぱりすごい人だなぁ。一週間前の時には味方だったけど、今回は敵。
思考を読める能力かな?すごく厄介だ。思考を読まれたら私の攻撃が読まれてしまうから。というかまた名前聞けなかったな。名札も見えなかったし。どちらにせよ、強敵になりそうだ。
◇
(守山チハヤ……あの人の名前、初めて知ったな)
およそ一週間前、私とデパートで協力して強盗を捕まえるのを手伝ってくれた子のうちの一人。恩人だったから顔を覚えておいたが、今回はそれが功をなした。
ちょっと気になることはある。……あの感じ、私が話しかける少し前にはもう私に気付いていた。これまでそんなことはなかったのに。やっぱり事前調査は正解だった。要注意人物をマーキングできたわけだしね。
「多分あれ、能力関係ないなぁ、どういう訓練したらそうなるんだろう」
「「要注意ってところかなぁ」」
離れた二人の小さな声が重なった。
◆
『これより、愛脳高校能力祭の予選、【サバイバルゲーム】の説明を行います!参加者の皆さんは速やかに話を聞けるようにしてください』
スピーカーから流れる大音量を私はしっかりと耳に入れる。
『ルールは簡単。今から貴方たちにはこの日本山の中で、残りの人数が16人になるまでバトルロワイヤルをしてもらいます。──』
もうすでに知っていることなので割愛。このイベントはかなり人気で、テレビなどで放送されるようなものなので、私だけでなく、もうほとんど、いや全ての人がルールを知っているだろうが、向こうも一応ルール説明はしなければいけないため、放送だけがただ流れていくだけで、実際は誰も聞いていなかった。
『──という感じです。……はぁ、ちょっとこれ以上話しても虚しいので私はこれで失礼します。30分後までに準備を済ませておいてください。それでは解散。30分後にまたここに集まってください』
とは言っても、30分もやることはない。せいぜい先にトイレに行っておくことくらいだ。一方他の生徒は、それぞれがチームを作るために他の生徒と話しかけている。
ルールではチームを作ることは禁止されていない。であればほとんどの人は迷わずにチームとして結託するだろう。当たり前だ。個人より団体の方が総合的な戦力は上がるし、逆にそうでもしないと三年生などの強敵には勝てない。何より死角が少なくなるのが大きい。終盤までは生き残れる確率が高い。
「こんにちは!君は一年生だよね?俺と一緒にチーム組まない?」
うわっ、私にもチームの誘いが来た。まぁ先生が言ってたように一人で行くつもりだから断るんだけど。……というかこれ、絶対に仲間割れ…起きるよね。この人に限らずほとんどのチームで。ルール上勝ち残れるのは生き残った16人。大規模なチームを作るほど最後まで全員が生き残るのは難しい。いつかのタイミングでバランスが決壊するだろう。
「お誘いありがとうございます。ですが、ごめんなさい、それはできません」
目の前の男に向かって前々から考えていたセリフで丁重に断る。よし、しっかりと言えた。これで諦めて……
「へぇ?」
あ、これめんどくさいやつだ。先生の言葉で言うと「なんぱ」?ってやつだ。こう言う人は──
「俺、これでも2年生なんだけど」
まず自分の立場を見せびらかす。もちろん相手よりも上の立場を。
「俺がチームになってあげれば、絶対能力祭出られるよ?」
なんか知らないけど私この人嫌いだ。なんというか、こう、圧力をかける感じが……大嫌い。言ってはいけないけれど、消えて欲しい。
「結構です」
「まあそう言わずさぁ」
「やめてください」
「おい、言うこと聞けよ!」
「やめてください…!」
「おいっ、うわっ!」
私がしたことは掴まれた腕を振って手を振り落としただけだった。しかし、それが最悪な、いや、私にとって最悪な事態に発展してしまった。
「へぇ……君、まだゲームは始まっていないんだよ?」
「……!」
「馬鹿だね。君。笑い堪えるので精一杯だよ……うわあああ!!痛ってえええ!!」
しまった。気づいた時にはすでに騒ぎを聞きつけた大勢に囲まれてしまっていた。
今の状況を表すなら、立っている私が、地面に無様に倒れている男を見下している、というところだろう。しかも男はご丁寧に恐怖の表情を作ってしっかり演技モード。流石に私も腹が立ってくる。
はっきりと言おう。私は──罠にハマった。
尚このナンパの件は思いつきで書きました。




