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能力教室の号哭  作者: スペルナ
飛べない豚編
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ちょっとした休日の事件

今回ちょっとした日常話ですが、1話にまとめようとしたら3000字超えちゃいました。

 ──9月8日・デパート──



「お待たせー。ごめんチハヤ、バス遅延しててさ」


「うん。それくらいなら平気だよ。私もさっき来たところだし。じゃあ行こうか」


(チハヤ)とミサキは特別教室であった時からすぐに意気投合をして、今や親友と言っても差し支えないような関係になっていた。私からして、ミサキと話すことは楽しいし、いろんなことを気兼ねなく話すことができるのが好きだった。


何の変哲もないただの休日。「暇だから」という、本当に何か特別な意味もないが、それでも私たちはここに集まっていた。他の生徒がいないのは、単に私たちだけの話だったから。別にみんなを嫌っているわけではないし、そこにも尤もらしい理由なんてない。極論を言えば、暇なんかじゃなく、「なんとなく」ここに来ているのかもしれない。


だからこそ別に特別なことをするつもりもない。フードコートで食べて、ちょっとだけゲームセンターに行くぐらいを想定している。……想定していた。


「きゃぁぁぁぁあ!!」


「えっ、何何何!?」


「いやわかんないけどえ、悲鳴だよね今の」


どこからか聞こえた悲鳴、明らかに異常な人の流れが何の前触れもなく突然私たちの耳に飛び込んできた。


どんな人でも人の悲鳴を聞いたら怖いと感じるだろう。何せ自分と同族である人間が危機に陥るような状況が声の届く距離にあるということなのだから。


私はミズキ先生に訓練させられているけれど、それは私も同じだ。一瞬だけ心臓が止まる感じがしたが、すぐに深呼吸をして落ち着きを取り戻す。


(まずは落ち着かないと。何もできなくなっちゃう……よし)


不意に私の隣を見てみると、ミサキも同じようにいつもより少しの緊張感を持った顔で、悲鳴のした方向を見つめていた。


「……どうする?」


「……ここは離れよう。ちょっと危険かも…って、あの人何やってんの?」


ミサキが指した指の先には、私たちと同じくらいの一人の少女が、人の流れに逆らいながらカフェの方……それこそさっきの悲鳴の発生源の方に進んで行っていた。もしかしてだけどもしかしなくない?これ。


「……行こう」


「だね」


怖いとはもう思わなかった。強いていうなら、「祝日潰れちゃって嫌だな」ということしか考えていない。それほど私は、いや、私たちは落ち着いていたし、余裕があった。これは訓練の成果だろうか?どちらにせよ先生には感謝しないと。


とりあえず私たちは人混みの中の少女の方についていく。えーっとどこ行ったかな……確かこっちの方に。


「あっ、チハヤいたよ。あそこ」


「静かに近づこう」


少女はテーブルの陰に屈んでいた。おそらくあそこで潜んで、機会をうかがっているのだろう。私たちは自分たちの存在を消しながら少女に近づく。


存在を消すといっても、本当に自分の存在を消滅させるわけではない。これは、気配を消すわけではないが、音や姿などを極限まで減らすことで、擬似的に気配を消す技術で、実際に気配を消すよりかは楽にできるため、特別教室の中で全員に覚えさせられた技術の一つである。


先生曰く、「別に暗殺者にしたいわけでもないから気配を完全に消すまではしなくていいでしょ」ということだったが、少なくともこれくらいはできるようにしておいた方がいいとのこと。実際実際私たちも一週間程度で完璧にできるようになった。


されどその技術が世間に広く出回っていないためか、ミサキに肩を叩かれた少女は一瞬だけ猫みたいにビクッと飛び上がった。


「うにゃっ!?ぁ、静かにしないと……とりあえずあなたたちも陰に隠れてください」


そう言われたので私たちも少女と同じようにしゃがむ。


「この騒ぎ、一体何があんたんですか?」


「え、何も知らずにこっちに……?とりあえずそっとあそこ見てください」


少女が指差した方をみて、私たちは初めて状況を理解する。


彼女の指の先にいたのは、マスクとサングラスで顔を隠し、ナイフを持って店員や周りの客を脅している。幸い誰も人質に取られていないが、かなり興奮状態なのがわかる。


「取り押さえましょう、私たちも協力します」


「はい!ありがとうございます!」


腐っても私たちは愛脳高校の生徒だし、ミズキ先生の生徒だ。このくらいきっと問題ないだろう。少なくとも私はそう思っていたが


「いや、ちょっと待って、私たちは今手ぶらだよ?ちょっと難しいかも」


ミサキはそうは思わないらしい。確かに私だって100%完璧にできるとは思っていない。でもそれでもやれると、私には自信がある。


「……自信、ないですか?」


「……?」


「……ちょっと怖いです」


「大丈夫ですよ。きっと。それにあなたはこの危険な場所にわざわざ来たんですよ。それだけあなたには勇気があるはずです」


ミサキに向けられた言葉は、使命を強制するようなものではなかった。だからこそだろう。ミサキも覚悟を決めたように、ナイフ男を力強く見つめた。


「おそらく相手は強敵です。……私が先に出て囮になりますので、その隙をついて死角から攻撃をしてください」


「いや、それじゃあそっちに被害が……」


「大丈夫ですよ。私これでも結構強いので」


作戦としては、まずこの少女が囮になるので、その間に私たちが男の死角に移動して奇襲する、というまあ単純明快な作戦だった。もちろん心配だってある。彼女の強さがどのくらいかはわからない以上彼女の言葉を信じるしかないのだが、それでももし怪我をしたら……そんなことはこの自信満々な少女の前では言えなかった。「任せてください!」とドヤ顔で言い切られると流石に拒否するのも難しいと思う。


「ミサキ、囮に注意がいくように……」


「そのつもりだから安心して」


「ありがとうございます……5秒後に作戦を開始します」






 ──午後3時・警察署前──



「まさか取り調べの方で時間取られるとは……」


「まあいいでしょ。何事もなくことも済んだわけでし」


結論から言おう。すごく簡単に制圧できた。もうそれこそ囮作戦なんかいらなかったんじゃないかってくらい簡単だった。私は男の背後に回ってから思いっきり殴っただけだったけど、それだけで男はノックダウン。そのまま警察に連れて行かれた。


そこで私たちは参考人として警察署に連れて行かれて、色々聞かれた。そして今に至る。いや何?色々(はい、いいえで答えるのが物理的に不可能な質問50以上)だよ?めちゃめちゃ時間取られたよ。休日無くなった。お腹すいた。許さん。


後から聞いた話、男は「なんとなく」デパートに行き、「なんとなく」近くにあったカフェに強盗に行こうとしてそのまま周りを脅迫していたところで捕まったらしい。それだけ聞くと馬鹿馬鹿しい話だなぁ。私だって「なんとなく」で遊びに来ていただけだけども、それだけの理由でこんな大事になるとは……やはり許さん。


「はぁ……今から行くともう遅いしなぁ、残念だけど今日はもう終わりだね」


「だね……また来週……はもう能力祭予選が近いし……いつかまた遊ぼう」


「だね」


集合はデパートの中だったのに解散は警察署前とは……本当に許さん。


「あ、待ってくださーい!」


ん?振り返ってみると、警察署内から走ってくる、計画の発案少女。うわっ、速い。もう私の隣まで来てる。


「すみません。ちょっと長引いてしまって……お二人とも、ありがとうございました!」


「いえいえ、大したこともしていないのでお気になさらず」


「それでもですよ!危険な場所に飛び込んできて、協力してくれるだけでも私、すごく嬉しかったです!本当にありがとうございました!」


「「いえいえ」」


「それでは私は!」


それだけ言って彼女は走っていってしまった。ショウ程速いわけではないが、普通に走っても追いつけなさそうだ。


「あ、そういえば名前聞き忘れてたね」


「そういえば名前とかなんも聞いてないし言ってもないわ……面白い人だったね」


「確かに。囮として選んだ言葉が「水飲みますか?」は普通に笑いそうになった」


「ほんと、私の役目が犯人の神経を逆撫ですることじゃなくてチハヤの感情を抑えることになるとは……」


私たちは結局、話しながらバス停まで歩いていった。暑すぎる太陽光による日焼けなんて、何も気にならないくらいこの関係が心地よかった。


私たちは親友だ。ほら。今だって笑い合えている。私はミサキの親友。親友……純粋に嬉しい。楽しい。

ミサキの能力: 感情の糸


ミサキは半径10メートル以内の人の感情を糸として認識できる。感情の糸は細かったり太かったりとさまざまだが、どれもがピンと張られており、その感情が強く作用しているほど強く震える、つまりは音が出ている状態となる。


ミサキはこの糸を抑えたり振るわせたりすることで、人の感情を大雑把だがコントロールすることができる、という能力。


簡単に言えば感情がハープみたいになっていて、それを鳴らしたり止めたりすることで相手の感情を変える。

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