始動
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──翌日の放課後・進路相談室3──
「全員揃ったね。みんな来てくれてありがとう。今日から早速能力向上訓練、やってこうか。」
彼女が昨日と同じ場所で話し始める。と同時に、生徒たち、私もだが、背筋が伸びて、「話を聞く姿勢」に無意識になった。私たちは薄々感じ取っている。彼女は今まで見てきた人の中で一番強い。逆らってはいけないと本能が叫んでいるのだろう。
「あ、いいよそんなに畏まらないで。これは……そう!戦いにおいてはどんな時でもリラックスすることは結構大事だよ。」
「……で、具体的に何をすればいいんですか?」
恐る恐るそう言ったのはアオイだった。不安が少し入っている声だったが、それでもアオイはこの特別教室で初めて彼女に話しかけた。
「ふっふー。いい質問だねえ。」
よっぽど嬉しかったのか声のトーンが少し上がる。彼女のそう言うところ、単純だなぁと思った。
「ではチハヤに問題!」
「えぇ!?わたしぃ?」
「はい貴方です!では問題!能力とは何でしょう!」
「え?えっと……」
「……じゃあ言い方を変えよかな。能力を使う上で一番大事なのは何でしょう!」
「うーんと……想像力ですかね……?」
「正解!何でかはわかる?じゃあ今度はミサキに聞いてみようかな?」
「はい。えっと……能力は強く念じることで使えるからですか?」
「うーん。半分正解。でももう半分の方が重要ね。」
すると彼女は一泊置いて話し始めた。こういう時は大体大事なことを話そうとしている。覚えておくといい。
「もう半分は、能力の解釈を広げることができるからなんだ。例えば、火を出せる能力では、能力は『火を出す』他に、『物の温度を高める』なんて解釈の仕方ができるかもしれない。そんな広い解釈があれば、能力はそれができるポテンシャルを持つようになる。そうやって能力は強くなるんだ。みんなにはそうやって自分や自分の能力と向き合いつつ、自分なりの解釈を持って欲しい。」
ふぅ。と彼女が息を吐いた瞬間、全員に流れていた緊張が解けた。
「とは言っても今日は一番基礎のところからやっていこうか。」
「先生!それって何ですか?早くやりたいです!」
ショウが彼女に元気よく聞いた。その質問は私もしたかった。ショウみたいに聞きたいことをなんでも聞ける人は羨ましいと思う。
「今日はねえ……」
──10分後・グラウンド──
「ほらほらあ!もっと全力で走って!じゃないと体力はつかないよ!疲れてきたらもう一周!倒れそうになったらあともう半周走る!そうやって全力での走り込みは基礎体力をつけるにはもってこいだよ!」
くそう!あの鬼教師!能力の使い方を教えるんじゃないのか!確かにわかる!何をするのにも体力が要るって。でも流石にスパルタじゃない!?……これ、流石にやり続けてたら本当に倒れる人出てきそうだけど……
「もう……だめぇ……はあ……はあ……うぅ……はあ……はあ……」
そう後ろからか弱い声が聞こえた。誰かと振り返ってみると、ハナだった。私よりも小さい体を動かそうとしているが、疲れが目に見えるほど顕著に出ていて、本当に苦しそうな顔をしていた。
「ハナ!いける!まだいける!限界まで走り込んでから止まれー!中途半端に止まったら意味ないよー!」
やっぱり彼女って鬼じゃない?生徒を脅迫まがいなことして特別教室に入れて、走り込ませて生徒を苦しめて……やっぱ嫌い。とは言っても私もかなり限界だ。足の感覚がなくなってきて、もつれてきた。気づけば汗で視界が遮られてきて……あれ?何も見えない?
「マオ!止まって!!」
はっ!危ない!意識を飛ばすところだった。咄嗟に気づいて私は歩いて彼女の元まで行った。汗だと思っていたものが段々と引いていくのに反比例するようにどんどん息が荒くなってくる。心臓がうるさくて痛い。こんなに走ったのは小1の頃のシャトルランで限界に挑みすぎた時以来だろうか。
「マオは……1分21秒で560mね。最初にしてはよくやったよ。」
その後、先生がどの生徒に対しても倒れるギリギリまで走らせて、そこでストップを出す。と言う流れが続いた。言うまでもないかもしれないが、最後まで残ったのはショウで5分で5000mくらい走ってた。いや速くない?その後、彼女はみんなを集めて話し始めた。
「お疲れ様。一週間に一回ぐらいはこうやって体力をつける時間を取ろうと思ってるよ。でもその日と次の日は絶対にしっかり休息すること。じゃあ部屋に戻ろうか。」
そう言って彼女はみんなを先導して行った。私たちはそれについていく。ほとんどが息切れしてる中、ショウだけはもうすでに息切れが収まっていた。いや流石に怖いぞ?と思いながら私はアオイと話しながら帰る。
「マオ……さん?お疲れ様でした。」
「あ、えっと、マオでいいよ。そっちもお疲れ様。どうだった。」
「わかりました。じゃあマオ、かなり厳しかったですね。大丈夫ですか?」
「うん、心配ありがとう。アオイはすごいね。結構体力あるんだなと思った。」
「そうですか?それは嬉しいです。……みんなで協力して『卒業』しましょう。」
「うん!!」
アオイは堅苦しい人だけれど、意外と接しやすい人だ。実際アオイは見ている中ではすでに、特別教室で3人には声をかけていた。そんなことを思いながら私たちは教室に戻った。
──10分後・ミズキ特別教室──
「じゃあこれからは一人一人の能力を伸ばすためのことをしてもらおうか。とは言ってももうすでに下調べは終わってるし、今は解釈を広げるわけじゃなくて基礎的な能力の使い方を教えたいから、もうやることはこっちで決めておいたし、場所ももう作ったからこの中でこっちで指示する通りにしてみて。じゃあアオイはこのゲートで……」
そう言いつつ彼女は指を鳴らした、と同時に私たちの前に8つのゲートが出てくる。その後私たちは指示された通りのゲートの中に入って、その中で訓練を始めた。どうやらこの中では物は壊れないし、内装を好きなように変更できるため、能力の訓練にはうってつけだそう。それぞれでゲート、つまり空間を分けたと言うことは、人それぞれですることが違うのだろう。
私はまず想像力を高めるための瞑想から始まった。次に能力の出力を上げるための能力の反復練習。これを繰り返した。周りと話し合いながら訓練できたから暇ではなかったが、だとしてもかなりきついことに変わりはなかった。特に反復動作。さっきのと同じように限界まで能力を出さないとすぐ見抜かれて怒られる。悔しいけどこれが今の私に必要ということは私自身が一番理解できていた。
こんな感じでずっと練習をして、能力を使い続けて1日は終わった。彼女曰く、始めの一ヶ月くらいはこんな感じでしていくらしい。彼女は
「基礎は何よりも大事だから大切に!一ヶ月かけて徹底的にやるよ!」
と言っていたが、正直初日ということもあって本当だろうかという疑問も残ったままだった。……流石にまだ結果を求めるのは早いか。
──???・???──
「進捗はどうかな?」
ミズキは威厳のある堂々とした声で男に聞いた。そこに「先生」のミズキはおらず、彼女は今、「世界最強」のミズキだった。
「こっちは全然問題ないけれども……それよりミズキ……」
黒髪の男がその質問に答える。この場にはこの二人しかいない。ただ静寂の中、発した言葉は反響することもなく一度耳に届いたのちに役目を終えたようにふっと消える。二人は重要な話をする時にこの状況をよく作る。
「かなりマオちゃんに嫌われてるっぽいけど……」
「あ、それは……」
「進捗はどうかはこっちが聞きたいよ。もしこれでマオちゃんが全く話聞かなくなったらどうするの?だいたいなんであんなこと言っちゃったかなあ!少なくとも他に言い方あったでしょ!」
「ふっふっふー。それにはちゃんと意味があってやっているんだよ……」
「何?」
「……」
ミズキは次第に目を逸らし始めた。しばしの沈黙が流れた後、
「……何か言うことは?」
「ごめんなさい」
間髪入れずにミズキは謝罪した。しかしその表情は別に反省していると言うわけではなさそうだ。
「でもマオは一番面倒を見たいけれど、一番未熟でもあるからね。少しぐらい厳しくしとかないと他に置いていかれちゃう。それに……」
ここでの会話は二人のみの秘密となる。秘密にしている。そうやって二人は今日も打ち合わせをしていく。計画を遂行し、────ために。
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