蟷螂の後日談
──七月三十日・進路相談室3──
『知ってるよ……何十回も聞いたからね』
その言葉の後で、ミズキ先生が収録していた録画の再生を止める。レイナさんにカメラがついていたらしく、フォボスとの戦いをカメラはしっかりと収めていた。(最後の方はコマ送りしても二人の姿が見えないくらいの速度になっていたが)
「……と、ここまでが昨日の出来事。みんなわかったかな?」
俺にとっては昨日身をもって体験した話だったが、他からしたらそうでもないだろう。周りを見ても、大半が「信じられない」とか「恐ろしい」とか、そういう表情をしていた。
「酷なことかもしれないけれども……みんなには強くなってゆくゆくこのフォボスって奴と戦って欲しいんだよね。『卒業』までに」
「あれに?」
「いや無理じゃん」
「このカメラのフレーム数いくつ?」
「先生ですら勝てないんだぞ?」
……そうなるよね、うん。俺もそう思う。改めてビデオを見て、この後何が起こるのかわかっている俺でさえ「何やってんだこれ」って思ったし。これならほふく前進で日本区一周する方がマシでは?
「そのための訓練です!分かりましたね?はい。今すぐこうなれとは言わないけれども、目標はこれだから──思い詰めてほしくもないし今はそうなんだへーくらいの認識でいいよ」
教室は珍しく静かで、ミズキ先生の明るさが逆に悲しい感じになってしまっている。
「……そうだ。今日は私忙しいけれども……現地にいたショウに聞いてみるといいよ。もしかしたらいい話、聞けるかもね」
それだけ言い残して、ミズキ先生はそそくさと教室を出ていってしまった。部屋を出て行く瞬間、一瞬だけ俺に向かって微笑んでいたのはそういうことなんだろう。
(ありがとう、先生)
心の中で感謝しつつ、俺はみんなの前に立つ。
「その前なんだけれども、実はみんなに謝らなきゃいけないことがあるんだ」
俺は、これからもみんなと関わり続けれるのかな。わからないけれども、それはきっと必要なことだと信じている。
──10分後・とある地下室──
「レイナ、お疲れ」
「あぁ、ミズキさんか、お疲れ様です」
「ごめんねあそこまで遅れちゃって。レンは後で一回つみれにしとくから」
「え」
「いや、いい。今回は私も経験して良かったと思う……ます」
「え?」
「ではみなさん、作戦会議を始めましょー。レンくん?なんでこっちに来ないんだい?」
「つみれ……?」
「つみれ」
「えぇーっと、あー、そうだ。折角だし僕たちも組織名とか欲しくない?」
「覚悟はいいか?私はできてる」
「あぁー、ちょっ、あ、そうだ、【奈落】の対義語ってことで天国……【天国】なんてどう?ね?ちょっとなんでそんな笑顔で近づいてくるの?やめて?ねえ、顔怖いよ?」
「大丈夫大丈夫。ちょっとくちゃって丸めたらすぐに直すからさ……」
「やっ、やめろおおおお!?」
「はっはー!!」
流石にやめておいた。いや一応仲間だしね。まあ今回は結構ガチだったけども。え?なんで「今回は」なのかって?過去五回はあったよ。もちろん全部レンが悪いよ?組織壊そうとしたり、一般人数百人巻き込んで爆散しようとしたり。一回だけ本当に丸めたこともあったなー。
ちなみに組織名はそれになった。
──同時刻・???──
「……ということで、頼むぞ?」
「金を積まれたからには従うつもりだが……何故いきなり?」
「本格的に動き始めたからだ。それに金の有無で行動が変わる奴のことなんて……信用できるわけないだろ?」
「まあ確かにそうだな」
「じゃあもう一度内容を言うぞ?報酬は提示額に合わせる。契約内容は──」
「いや、もうわかってる、こいつを守り通せばいいんだろ?じゃあこれで終わりな。帰れ」
「……まあいい」
そう言って長身の男は俺の部屋から出ていった。ええと……フォロス?フォローみたいな名前だっけか。まあいいやどうでもいい。俺は戦うよりもこっちの方が好きだし。
「えーっとこれで……あ、やっぱこっちの方がいいか?えーっと一旦これで……あ、これめっちゃいいな」
誰もいない部屋の中、俺は一人不敵な笑みを浮かべる。俺の前には一台のパソコン、横にはシンセサイザー。パソコンでは何本もの不規則な長さの棒が縦一列に横向きに並んでいる。有識者ならばわかるだろうか、要は作曲だ。
「俺は人間辞めてるわけじゃないし……こうしてるのが一番なんだよなぁ……まあ仕事はやるけど」
俺は俺のために生きる。そのためなら他人なんてどうでもいい。自己中?寄生虫?どうでもいいね。今、俺は最高な気分だからな。
第二章 小さな蟷螂編 完
とある地下室→【天国】本部
次回はちょっとした設定話です。




