対天城ミズキ特別組織【奈落】・九
空白って便利だ!
午後7時30分というのは、AIが事前に定めたタイムリミットである。葉月レイナと夜吹ショウがどれだけ力を合わせられるか、フォボスの機嫌が何処まで続くのか、現在の時刻、気温、湿度などの状況を細かく入力し、シミュレーションさせておくことで定めた「擬似的な限界」。これを導入することには大きく二つの利点があった。
まず一つ目、天城ミズキの出撃タイミングの目処を立たせておくことができること。ミズキならば中途半端なところで介入してしまい、敢えて作ったこの状況を瓦解させてしまう恐れがあった。要はチキンレースを成功させるための補助だ。
そして二つ目が、AIが定める理論値にどれだけ近づけるかの「限界への挑戦」である。シュミレーション結果などAIが今勝手に作り出した世界での結果であり、必ずしも現実がそれに沿うということではない。ならば今回の戦績をどれだけ良くできるか、そりゃあAIを越すことができれば万々歳だが、一応一つの目標を決めておく事はかなり重要だったりする。
側から見れば、確かに状況的には一対二の有利状況で負けた「情けない」姿かもしれない。しかしその実、これは最善の結果だった。彼らは良くやった。勿論二人とも100点満点だ。
まあでも、この私──天城ミズキが教えてあげるとしよう。
120点の取り方を
──午後7時30分・外──
最初に見たのは背中を向けていたフォボスが消えたこと。次に聞こえたのはとんでもなく大きい破裂音とも、衝撃音とも言える重々しい音。次にやってきたのは衝突による衝撃波だった。
ほぼ同時に起きたこの現象。最初はフォボスの攻撃か何かだと思っていた。しかしそれを真っ向から否定するのは廃墟に埋め込まれたフォボスと──近くから聞こえる一つの声。
「遅れてごめんね。もう大丈夫だよ。ほら、レイナも無事だよ」
白い髪が、対照的な色のオッドアイが、いつもより一層優しくなった笑みが、今だけは本当に天使、いや、神のように見えた。
ぽんぽんと俺の頭を撫でる白い神はやがてフォボスの方を向く。
「あとは任せてそこで見てて」
それだけだった。本当に必要最低限のことだけを言い残して、ミズキ先生はフォボスに迫って行った。短い時間だったが、俺は安堵していたのだと思う。
「……私たちの役割は終わりました……後は見ていましょう」
いつの間にか残されたレイナさんの目が覚めている。出てしまった血が戻る事はなかったが、腹に空いているはずの穴はそこにはなかった。
「ショウくん。私たちは勝ちましたよ」
「……勝ってませんよ。俺たちだけじゃ、時間稼ぎくらいしかできなかったです。一度も攻撃を入れられなかったし、やっていたことなんてただ蹂躙されただけです。」
「うん。強かったね。私たちじゃ絶対に倒せないくらいには。でもさ、私たちは時間稼ぎくらいならできたんだよ?あのフォボス相手にすごい事だよ?」
「……」
「……まあもう疲れたしね……じゃあ最後に私から」
「……?」
「楽しんで観よう!」
「……はぁ」
思い返してみれば、俺は唐突に連れてこられて、唐突に戦闘が始まって……唐突に終わった。俺の戦闘はもう終わりだ。この後はもう俺が関わるところではないのだろう。だから俺は外野になって脱力した。はぁダルい。こんなに疲れたのは初めてだ。
さあーてと、本気出そ。
「やあやあフォボスくん?こうして投げるのはいつぶりかな?」
「ミズキ……謀ったな?いや、むしろちょうどいいか?まあいい。とりあえず言っておくが……俺は今ここでは絶対に負けないぞ?」
「はは、敬語取れてる。化けの皮剥がれんの早すぎだろ。そんなにも痛かったか?こっちは何発でも楽しませてやれるぞ?生憎こっちも負けないんでな」
更地に私たちが互いに威圧感を出し合う。最初に動いたのはフォボスの方。まずは拳を避けて、はい捕まえた。んで雅ブスリ。っと、蹴りは思ったよりも重いな。腕を離しちゃった。深々と貫いた腕はすでに完治している。
「めんどっくっせえぇぇ」
「ははは、その言葉、そっくりそのまま返すよ。もう暫くだけやったら俺は帰るぞ」
「やってみろよ」
今度は私から出る。まずは拳を一撃。はい受け止めた。蹴りで誘導して……はい雅。避けたいからって仰け反るのは悪手だろう?
正直言ってこういう感じにすれば傷をつけるのは簡単だ。でもすぐに治ってしまう。実を言うと私は現状では能力が発動されているからこいつには勝てない。まあそれを言ったら逆もそうなんだが。
さてと、現状では勝てないとはいえ、絶対に勝てないわけじゃない。条件さえ満たせば、ワンチャン……ほんとにもしかしたらくらいの話だけれども……勝てないこともない。
「まあ、120点見せるなんて言っちゃったしなぁ」
紫刀・雅──私の最高傑作の一つで、私作だから唯一無二。これには切った対象の魔力を吸い取る能力が備わっている。つまりどういうことか……魔力強化で防ぐことができないということだ。防御力貫通と言えばわかりやすいだろうか?魔力強化なんてしたらその魔力すらも吸い取って斬る。フォボスはその事を知っているから雅だけは避けざるを得ない。
そしてこの小刀はもともと双剣として作られた一方である。ならば対になるものとは?
「あれ、使っちゃおうかな……《顕現・W-02》」
「なっ!!それは!!!」
「ああそうだ。お前の大っ嫌いな日本刀だよ」
虚空から現れた桜色の刀身が、藤色と対になって輝いた。
紫刀・雅と紅刀・寿
もともと二つで一対の武器として作られ、それぞれが別の能力を持つ。
雅は魔力を、寿は寿命を吸い取り、内部に蓄積させることができる。蓄積度合いは元は白色のその刃の色で見ることができ、蓄積が最大になるとそれ以降の吸い取ったものは大気中に自動的に放出される。そして、双方の蓄積が一定以上になると合体させることができるようになり、別の能力を得る。
余談だが、蓄積が最大の時に色が少し薄く見えるのは、ただ肉眼では見えないだけで、紫外線や赤外線の色に近いだけである。よって色が薄くなっているわけではない。




