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能力教室の号哭  作者: たるたるそーす
小さな蟷螂編
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対天城ミズキ特別組織【奈落】・六

もし人生の中で選択を突きつけられたとき、その選択のどれもが望むものではないとき、人はどうするだろうか?


ある時は第三の選択肢を作り、ある時は覚悟ができたタイミングで最良と判断できる選択をするだろう。俺はどちらかといえば後者寄りである。


ではその「覚悟」を決めるためには何が必要か?答えは「時間」だ。人というものは時間が過ぎ去れば大体のことはどうでも良くなる。物事を別の視点から見たり、自分の深層意識まで意識を巡らせたりと、覚悟の決め方なんていくらでもある。


ならばその「時間」が無い時は?今この瞬間にとっとと決断しろと言われたら?きっとこれまでの俺ならば、どちらも選べずにそのまま最悪の方向に落ちていくのだろう。今思えば、地下3階でしたあの判断は決して第三の選択肢ではなく、ただ選べずにその場に停滞するための口実だった。


考え続けて、やがて俺は一つの結論に辿り着いた。


「時間がないならば作れば良い。選択からは逃げれば良い。ただ最良の判断ができる時を待つために」


これこそが、俺──夜吹ショウという人間の本質だった。親から逃げ、友達から逃げ、自分の嘘から逃げ。ずっと逃げ続けた。でもそれはきっと……美化しているだけかもしれないけれど……いつかする判断のための準備であると、思えた。


だから俺の能力は






(いつか)、そういう能力になった(進化した)






 ──【奈落】第三支部地下1階・大広間──



咄嗟に……足が動いた。動けた。かつてない程に速く。いや、違う。俺の速度は前と大して変わっていない。ただ──周りが遅い(・・・・・)。これならかなり楽に見切る事ができる!


案の定背後には直線運動男が立っていて、もう一度攻撃を仕掛けようとしていた。それを限界まで引き寄せて……敵同士でぶつける。この際雅は単なる小刀であると考えた方がいい。飛んできた火球を避けつつ敵に近づく。敵が驚いたような表情をしたのも束の間、言葉を発するより先に雅を鳩尾に突き刺して捩じ切る。


「ぐぉああああ!」


「あいつ!壁走ってるぞ!」


「落とせ落とせぇ!!」


「ぶっ殺してやる!!」


壁を走って敵を横目に過ぎ去る。火球や銃声が何度も聞こえるが遅い。見たあとでも避けられる。火球は全て避け、銃弾は避けるのが面倒な三発だけ素手で握って止めた。


「あ、あいつ、銃止めやがった……」


「怯むなぁ!!殺せ殺せぇぇええああ!!」


「痛ってぇぇええ!流れ弾当たったぞおい!」


「そんぐらい避けろよ!」


「なんだとぉあ!?てめえから殺すぞ!」


俺の体は物理法則を無視したかのように縦横無尽に駆け回る。遅い。敵の動きが、攻撃が。そしてこの中で俺は誰よりも速い!これならいける!


阿鼻叫喚の嵐。もともと完全に統率が取れているわけでもないような寄せ集めの50人。仲間割れが始まるのは時間の問題だった。数分後には地上の乱闘の再開。50対1の完全有利状況はいつの間にか51人のバトルロワイヤルになっていった。


(これなら問題ないだろう。追ってくることもない。もう全員俺の存在なんて忘れた)


俺は身を隠しながら地上への通路に姿を消した。



 ──午後7時・外──



夏とはいえ、もう日は完全に沈み切っていた。外に出て一歩目でムシッとした暑さが体の周りに密着する。地平線から漏れる鮮やかな茜色だけが暗闇を照らしていた。辺りを見回せば、瓦礫と砂。荒野にいきなり放り出されて少しだけ身震いする。


「うぐっ……」


不意に体から力が抜けて、その場でしゃがむ。疲労感と倦怠感で眠くなる。疲れた。例えるならプールの授業の後の国語の授業の眠さにラーメン食べた後の眠さを合わせたような感じ。進化して慣れてない能力を酷使したのもあるし、そのせいで体がバキバキだ。もうこれ以上は戦えないし無理に体を動かせない。


「……帰ろう。ミズキ先生に報告して……その後──」


「いえいえ、まさか帰すと思っているのですか?」


「っ……フォ……ボス」


人影は一つだけだった。いや、今はもう一人がどこに行ったかは考えないでおく。薄暗くてよく見えないが、多分笑っている。くっそ、このまま終わらせてくれよ。


とはいってもどうする?戦闘になれば勝てない。格上との戦闘なんて結果はたかが知れている。かといって逃げることもできない。逃げようものならば直ぐに追いつかれて背中に集中攻撃される。流石に後先考えずに消耗し過ぎてしまったな。今更言っても遅いか。


……さっきもうこれ以上戦えないと言ったな。やっぱあれは訂正する。というかしなきゃいけない。──自分一人だけで?無理だろう。体が全力で戦闘を拒否しているけれども、目の前の男が眉間に当てられた銃口のように怖いけれども。それでも腹を括るしかないとすでに決められているのならば?俺は全力で立ち向かおう。もう白紙の答案は出さない。どうせ失敗するなら派手にやってやろう。それが俺にできる最後の足掻きだ。


能力を発動する。フォボスは……何もしていない?何故?いや、好都合!進化した能力でなら不意をつけるかもしれない!


「いいですねえ……今日はこちらもかなり消耗したので──」


フォボスのスーツの第一ボタンが外される。


「はやく終わらせましょうか」


この後俺は、生きていた中で全く知らなかった、知る由もなかった圧倒的な力のぶつかり合いを、そして俺たちが一体何と敵対しなければならないのかを、思い知ることになる。




タイムリミットまであと30分

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