対天城ミズキ特別組織【奈落】・五
仮にも俺の能力には『五感の強化』も含まれていた為、彼女ほどではないが、敵との接触は避けながら進むことができた。仮に遭遇したとしても、不意打ちで「雅」とか言われていた小刀を刺せば戦闘は終わる。いや、一刺しで相手を戦闘不能にさせるなんて普通にえげつない。
(そういえば、あの人の名前……聞いてないな。本当にごめんなさい)
初めて人を刺した感触は気持ち悪くて、忘れることはないだろうと思っていたが──三回目で慣れた。多分心の中では自分が生き残る方が大切なのだろう。本当に情けなく感じる。
ここまでに14回敵と接触してきた。9回は隠密で突破。残りの5回は雅で刺してきた。これまで敵を刺すごとに深い紫に染まっていっていた雅だったが、何回もやっていると今度はだんだんと雅の色が白くなってきた。一体この色は何を示しているのだろうか?
そうしているうちに、不意に開けた場所に出た。
──午後6時45分
【奈落】第三支部地下1階・大広間──
さっきまでの長い網目模様を描くような廊下とは一転。今度は広い空間に出た。さっきまでずっと狭い場所にいたからだろうか。とても広く感じる。とは言っても大きさとしてはバスケットコート2つ分くらいだろうか?
それよりも重要なことがある。敵がいる。数人単位じゃない。多分……50人くらいはいる。俺が出てきた場所の反対側、そこにも出入り口はあった。おそらくあそこが地上への脱出口……と信じたい。二回階段を登ってきたから多分ここは地下1階。そしてこれまで地下3階と地下2階は同じような長さだった。だとしたら地下1階ももうそろそろ終わるはずだ。
『久しぶりです。夜吹ショウくん、君は優秀ですね。生きるためなら他人の犠牲は厭わない。何が何でも脱出してやるという気概を感じられましたよ。』
「フォボス!どこにいるんだ!」
『ここにはいませんよ。探すだけ無駄です。さて、ここまで来れた、それはもう優秀なあなたにもう一度問います。私たちに協力してくれませんか?』
たまにザッと言う音がフォボスの声に紛れて聞こえる。スピーカーから声を出しているんだ。
「絶対に嫌だ!」
『……見てて呆れますよ。何故そんなにも非合理的なのでしょうか。承認すれば、あなたが手に入れるのは利益のみなのですよ?』
「だとしても!俺は信頼している人を陥れて殺すことなんてできない!」
「でも殺したじゃないですか。あえて!あなたが動かないことによって、頭に鈍器を一撃!痛かったでしょうねえ、苦しかったでしょうねえ」
「くっ、ああそうだ!確かに俺は犠牲を出した!でも!俺は犠牲を!不幸を!痛みを!これまで一瞬でも願ったことはない!」
『じゃあ何であんなことをしたんですか?自覚してないんですか?あなたのせいであの女性は死んだのですよ?』
「……間違えたんだ」
『間違えたで済まされる事ではないでしょう。やってしまった事は二度と取り返しがつきません。とっとと私のところに来て楽になりましょう。それが一番、手っ取り早いです』
「違う……!取り返しがつかないなら進むしかない!俺がしなければいけないのは楽になる事じゃない……!俺に責任があるとするのなら背負う!だから俺は、ここを出なくちゃいけないんだ!!」
『そうですか。では……予定通り適当に半殺しにして見せしめにでもしましょう。総員、戦闘を許可しましょう。殺さない程度になら能力の発動も許可します』
次の瞬間、大きな敵の塊が動き出す。さっきまでの様子とはまるで違う。火球を出す者、宙に浮く者、他とは比べ物にならないほど速い者……例を挙げ出したらきりがないくらいだ。
なんで気付かなかったんだろう。今思えば弱すぎる。外界で過ごしている時点で自然と実力はついてくるはずだ。なのになぜ俺たちは隠密を、襲撃をここまで成功させられたか。ここに来るまで何人と対峙した?いや、重要なのはそこじゃない。誘い込まれた!?
藤色になった雅を取り出す。一直線に殴りかかってきた男を避けつつ浅く斬る。直線運動しかしてこないから軌道を予測してその場所に刃を置いておけば簡単に傷を作れる。傷さえ作れば気絶させられ──
あれ?何か変だ。
背後で倒れるような音がしない。あの体勢から気を失えば絶対に倒れるはずなのに……わからない。これが通じなかった?それとも音が聞こえないだけで本当は倒せた?
後ろを見る余裕はない。直ぐに次の攻撃が来る。どうする?二択だ!決断、決断を早くしろ!時間が無い!急げ!
背後で空気が動く音がした。




