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能力教室の号哭  作者: たるたるそーす
小さな蟷螂編
18/101

隠匿、嘘つきへの断罪・中

 ──進路相談室2──



「席に座って。ショウ。」


「……はい。」


俺とミズキ先生が向かい合わせになって、しばらく気まずい雰囲気が流れる。いや、気まずいと感じているのは俺だけだろう。ミズキ先生は相も変わらず楽しそうな表情を貼り付けたまま微笑んでいた。しかし、そんな顔もすぐに別のものへと変貌する。


「ショウは能力を使う時、どんなことを考えてる?」


「……全身に力を込めてます。」


「違うね。」


「……」


「なぜあんな嘘をついたんだ?」


「……!」


怖い。ミズキ先生の顔を覗くと、そこにいつもの先生はいなくて、代わりにいるのは先生だけど先生じゃない誰か。真剣な表情が凍てつくように冷たい。わかるんだ。あ、今俺の中身、覗かれてるんだなって……この空間での出来事は、きっと忘れることはないだろう。


「責めているわけではないし、理由を知りたいわけでもない。ただ、これが今のショウの課題なんだ。」


「……」


「ショウ……私が何を言いたいかわかるかい?」


「……わかり……ませ…ん。」


酷く、震えた声だった。こんな声、ここ数年は出していない。自分の声に自分で驚いた。それを表情に出すことなんてなかったが、そんな我慢なんてもう無駄なのかもしれない。


「……ショウ!」


「……!!」


体が声に反応して少しビクッとする。これじゃあまるでライオンに見つめられるうさぎである。俺は怖くてたまらない。でも、目の前にいる彼女が、どうしても目の前を覆い被さる悪夢のようになって逃げ出せない。


人が限界まで追い詰められた時、人はどうするか?恐らく自分の知っていることを何でも吐き出すのだろう。名探偵にトリックを見破られた殺人事件の犯人とか、まさにそれだろう。俺の今が、それだった。


「……お前は一体、何のためにその行動をしているんだ?」


「……怖いからです。」


「何が?」


「……周りに罵倒されることがです。二ヶ月にもわたって騙し続けた。そんな人はもう信頼されることはないでしょう。結局今の俺に待っているのは……周りからの……失望や罵倒、残るものは嘘つきという事実だけです。」


「……違うよ。それだけは断定できる。」


「……なんで……?」


「だってショウ……今……すごく、後悔してるでしょう?それも、嘘がばれそうだからじゃない。」


「……!」


「苦しいんじゃない?騙し続けるのが。仲間を貶し続けるのが。」


優しさを取り戻し、いつもの先生に戻りつつある先生を見て、俺はただただ大量の涙を流すことしかできなかった。嗚咽が教室全体に広がる。涙の理由なんて分からないけれど、大きな大きな気持ちの波に抗うことは不可能だ。


「ぁぁ……」


「やっぱりそうなんだね。知ってるよ。ショウみたいな人が何人もこうしてきたのを私は知ってる。『与えたいけれども与えられない人』をね。」


「……違います……俺は……与える人じゃ……ない……これは……自分の……事を考えて……自分のために……やってきた……こと……なんです……自己中で……クズな……ゴミ人間なんです……そんな……高貴な……理由なんて……ないんですよ……」


「……そう思えているなら、ショウはそんな人じゃないよ。自分を卑下しすぎないでほしいな。」


「……」


「ただ、ちょっと足りないだけ。強さが、経験が、技術が、ほんのちょっとだけ足りなかっただけなんだ。だから、ショウはきっとすぐに自分を開けるようになるよ。」


「……そう……なんですか?」


「うん。無理にそうしろなんて言わない。だけれども、私はきっとそのうち、できるようになれるって、信じてるよ。」


先生は、優しいなあ……俺の背中をいつでも押してくれる。例え嘘つきだったとしても、自己中のクズだとしても、俺を信じてくれてるんだなあ。嬉しいなあ。ありがたいなあ。きっとミズキ先生なら、俺と距離を置くこともないんだろうなあ。先生の発言はどこか安心して寄りかかれるように感じて、さらに嬉しくなるなあ。


「……先生、ありがとうございました。もう一度、考えてみます。周りのことも、自分のことも!」


「……うん。それが良いよ。自分の答えは自分で探して見つけ出しなよ。」


ミズキ先生の話はそこで途切れた。沈黙がさっきの状況を再現する。静かだな。クーラーのついていないこの部屋がとてつもなく暑いことを今自覚した。


「……先生、俺が嘘をついたのはーー」


「それはもうここで話すことじゃないよ。それよりもこれから、『昇化』の方法を考えなきゃだからね。ほら席に座ったぁ!」


「……はいっ!!」


「……そうだ。最後に。」


ミズキ先生が一呼吸してから告げる。


「ショウは何であっても良いんだよ。私は……私たちはそれを絶対に認める。」


はっとする。なんだかその一言に俺への救いが全て入っているような気がして嬉し涙が溢れてくる。


「あぁ……ありがとうございますっ!!」


二人だけの空間に、幸福が満ち溢れた声が響き渡った。俺はただ、先生の言葉に頷き続ける他なかった。

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