ミズキの決意
──5月3日 時刻未詳のとある記録──
とある組織のとある地下室、明らかに不機嫌なミズキがエレベーターから降り、明るい会議室に入る。中にはすでにレンと他の協力者たちが集まって席にそれぞれ座っていた。ミズキは二つ空いている席のうちの一つに座り、協力者の方へと視線を向ける。初めに開口したのはレンだった。
「お疲れさん、ミズキ。」
「……随分と気分が良さそうだな。レン。いいことでもあったのか?」
「そうなんだよねえ。実はゲーセンで良さげなフィギュアゲットしちゃって、今置き場所を構想中なの。いやーやっぱ二次元スペース最高だわ。この世は二次元でできている。」
「そうか。でも私にとって今はそんなこと心底どうでもいい。30秒やるから言い訳があれば今のうちに吐いとけ。」
「何のことを言ってるの?そんな怒ってるミズキ久しぶりに見るよ?なんかあった?話聞こうか?」
「……《顕現・P-06》」
ミズキがそう唱えると、ミズキの側に16人の男たちが無から現れる──と言うよりかは吐き出されている。彼らのほとんどは失神してぐったりとしているが、仮面を被った男だけは現れてすぐに活動を始めた。
「はあ……こっちだって忙しいってんだろうが。それに何だあの異空間は。俺以外全員伸びちまってんじゃねえか。流石に俺だって苦しいぞ?なあ、ボス」
「……こいつらは道端でお前の異世界を守るようにして異世界の周りにいた。ノゾミに関しては異世界の中でマオを痛めつけていた。これらの計画はお前の指示だろ?レン。」
「っち。無視かよ。」
「ノゾミ、お前には聞いてない。お前にはあんなことを発案する脳なんて無いからな。で、どうなんだ?レン。お前に聞いてるんだ。」
「そうだよ。問題あった?」
「あるに決まってるだろうが。こいつがマオに何をしたのか知ってるのか?」
「どれに怒ってるの?マオを壁に叩きつけたこと?マオに足かけたこと?怒号を浴びせまくったこと?」
「全部だよバカが。」
「えぇ……僕、少なくともここにいる誰よりも学力はあるんだけどなぁ。」
「……なぜあんなことをした?」
「結局いいだろう?マオちゃんはあの一件で能力を使うことができるようになった。誰かに依存しているという状況からも抜け出して、実力的にも人間的にも少しずつ強くなれたんだ。これのどこが駄目なんだい?」
「マオだけに関わらず、生徒たちはまだ未熟な子供だ。だから私たちが守っていかなければいけない。だから許せないんだよ。お前たちのその……「痛めつける」と言う行為がな。」
「全く、一体そんなに周りを気にするようになったのはいつからだい?ミズキ。特別教室を作った時……いや、多分最初からか。じゃなきゃこんな馬鹿げた計画なんて練れない。」
「……」
「説明してあげるよ。ミズキ。君が『世界最強』だとしても、君の生徒が強くなるわけじゃない。結局そこに必要なのは、生徒の観察と、適切な生徒のレベリングなんだよ。」
「……それが生徒を傷つけることに……」
「関係あるよ。」
「……」
「人が成長する、もしくは強くなる時ってどんな時?」
「……危険に遭う時。」
「そう。命の危険を伴うのなら更にいい。」
「つまり?」
「ミズキだってもうわかってるだろう?今の進捗から考えても、生徒を痛めつけてでも成長を最優先しなければ目標のボーダーまで到達できない。」
「……ああ。その通り……かもね。」
「ミズキ……君が最初に言ったんだろう?『できるかできないかじゃない。やらなきゃいけない段階なんだ』ってさ。そろそろ腹を括りなよ。」
「……」
「それとも何?君は少数の苦しみと……」
「はぁ……わかった。背に腹は変えられない。」
「うん!そうしよ!こっちもこっちでそういうふうでいろいろやっとくから。」
「……話したいことはそれだけだな?私はさっさと帰るぞ。こっちだってイライラしてるんだよ。」
そう言って、ミズキは立ち上がり、出口に向かっていく。コツコツと静かになった空間にミズキの足音が反響する。それをレン含め全員はただ見つめることしかできなかった。
「最後に一つ。『私の生徒は絶対に殺すな』。これは命令だ。じゃあな。」
ミズキがその場を離れた後、全員が息をつく。緊張感が一気に解け、少しの安堵感すらもそこにはあった。
「はぁ、おいレン。あいつ怒らせんなよ。こっちはまだ死にたくねえんだわ。」
「ははは。ごめんってぇ。あーあーみんな。そう睨まないでよ。結果オーライだったわけだし、ミズキはそんなにホイホイと怒るとは思えないよ。……流石に今回は思っていたよりも怒ってはいたけどね。」
「……で、次は何をするのですか?」
「うーんよねえ。まだこっちが表に出るのは早いかなあ。機会を待ちつつ、ちょっとした準備だけ進めとこうか。そうだなあ。ノゾミは今日働いてもらったし、次出る時には……レイナ、君に任せようかな。」
「わかりました。その時になれば教えてください。」
「よし。じゃあ全員解散ね。僕はまだ伸びてるこいつら起こしてからここを出るから、先行ってて。」
──記録終了──
補足: 第8話のレンの「15人までなら使っていいって許可得たよ」は普通に嘘です。実際は彼が独断で動いていいよって言ってます。レンはミズキと仲が良かったり信頼があったりしてるので、そのくらいの権力は持っています。
補足2: 15人のモブたちはレンに適当に勧誘されただけなので、ミズキは彼らは誰なのかよく知りませんし、15人もレンやミズキが誰なのかよく知りません。




