立てない子鹿
私事で忙しくなるので、数日間投稿が止まると思います。申し訳ないです。
──異空間──
久しぶりに思い出す記憶も、少しのきっかけで全く別の意味で受け取ることができる。これまではあの記憶は「家族が崩壊した最悪の記憶」だった。でも、実際あれは、「家族の助け合いが無くなった記憶」だった。だってそれまでは何もかもがうまく行っていたから。家族が一緒に何かをすることができなくなってしまったからすぐに家族は崩壊した。大切なのは「パートナー」でいることと、お互いを気にかけながら協力することだった。それは昔も、今この瞬間までも、決して変わることはなかった。
できるのか?そんなことが。いや、できるできないじゃない。そこを悩む段階はとっくの昔に終わっているはずだ。今はもうすでに、やらなければいけない段階だ。ユキ、みんな、どうすれば……いや、ユキに頼るのはもう終わりだ。私はユキやみんなを柱じゃなくて、パートナーとして見たい。私もみんなの役に立てるようになりたい!みんなも頼ってくれるような、立派な存在になりたい!!
『一人だけで大丈夫?』
「大丈夫……!」
私は声に出して自分を鼓舞する。覚悟はもう決まった。だから私はもう大丈夫だよ。ごめんね。いっぱい心配かけちゃって。
『やっと一人で生きられるの?遅いよ。何年待ったと思ってるんだか。』
うん。ごめん。私はあなたを柱として見続けていたんだ。じゃないと私は立てなかったから。でもやっぱりずっと前から私はもうすでに立てたの。依存しすぎちゃってた。だから……私は地べたから立ち上がる。体の節々が悲鳴をあげているが、そんなもの、別にもう苦しいものではなかった。
『自信持って!!』
「わかってるよ!ユキ!」
もう私は両足でしっかり立てる。私は、自分の力だけで生きていける。ずっと発動していた能力を解除するのと同時に、ユキが消えていく。苦しくて、泣き出しそうになるけれど、私はもう同じことはしない!!私は……できる!!!
ドーナツの味と同じだ。一つのことだけに集中する。これまではユキやお父さんのことを考えて、無意識的に彼女らを創ろうとしていたから、他の物を作れなかったし、私の能力は未熟だったから、作ろうとしていたものもうっすらとした影にしかならなかったんだ。
でも今なら、ただ一つのことだけに能力を割くのなら!できるはずなんだ!想像しろ、無から有がうまれる瞬間を、感覚を。複雑な物質は作らなくていい。作るのは頑丈で、使い慣れていて、単体で機能できる比較的単純な金属…鉄だ。
私の中からエネルギーが手元に移動していくのがわかる。手元に何かの感触が出てきた。成功した?いや、ここで気を緩めるな!前の体育の授業ではこの「形作って物を形成する段階」で失敗した。何年もこの能力と生きているんだ。自然と少しずつ使えるようにはなっていたんだ。
「私は!もう!能力を使えるんだ!!!」
私は目を開けて、正面の男をしっかりと見る。右手には、鉄を型に流して作ったような、鉄製のナイフが握られていた。初めて創った物にしては、鋭くて、頑丈なナイフだった。
「…へえ、あんた面白えな。その能力は物質創造か?さっきまで泣きそうになってたのに、随分と強くなったなあ。」
「……私は強くなっていない。私は依然として誰かに頼ったままだし、能力も今覚醒したわけじゃない。ただ、私は一人で立てるようになっただけだよ。」
自分でも驚くほど冷静だった。奴を威圧する今の私の姿はミズキ先生に似ているところがあると思う。ただ、一人で何かを達成できたという事実が、私をここまで奮い立てさせることができるのだ。
「……ふうん。まあ前も言ったが俺は忙しいんでな。面白いとこはもう終わったし、とっとと終わらせるぞ。」
そう言った次の瞬間、奴は動き出す。大丈夫。速いけれども、反応できないほどではない。
私は奴の攻撃をナイフで全て受け流す。それを見た奴は多分驚いた顔をした。なんせ私は能力が使えないと知った後、どうにか周りに追いつくために磨いたのは、他でもないナイフの扱い方だった。でも、だからと言って私はなかなか決定打を与えることができず、ジリ貧のままの状態がしばらく続くこととなってしまった。しまった、頑丈に作ることだけを考えて、重さについて何も考えていなかった。しかし、もう一度作り直すことはできない。どうしたものか……
「はぁあ。めんどくせ。もう能力使っちまうか。歳の割にはいい動きしてたよあんたは。」
そう奴が言った次の瞬間、体が急激に重くなって、私はうつ伏せに倒れる。体を動かせない。一体何が……?
「……やっぱりあんた、ナイフは上手いっぽいけど、実際の力は弱いんだな。たったの二倍でぶっ倒れちまった。今度こそじゃあな。」
体がさらに重くなる。立とうとしても立てない。まずい!!立たなきゃ!まずい!!そうだ、能力だ。何でもいい。攻撃を防ぐ壁を創るんだ!
しかし、その頃にはもう遅くて、奴の拳はまた私の頭に迫って……!バリン!!という音と同時に奴もまた吹っ飛ぶ。見慣れた光景に私は安堵感を覚える。体の重みが解ける。私は体を起こして、彼女──ミズキ先生の顔を見る。明らかに前回の時よりも怒りをあらわにしていて、奴を直視する。彼女は私を撫でることはなく、そのまま奴の側まで歩いていく。
「一度は見逃したはずだぞ?私は寛大だからな。だがお前は……そうじゃなかったようだな。覚悟はいいか?」
「くそっ……またてめえかよ!このバケモンが!こっちだってそう簡単には諦めねえよ!!」
そう言って奴は立ち上がる。そして、私と戦っていた時よりもずっと速くミズキ先生に突撃していく。しかし、攻撃は彼女の左人差し指で止められる。次に奴は間髪入れずに何発も殴り込むが、全て受け流されて、全く攻撃は通用していなかった。
「……《収》」
ミズキ先生がそう言った瞬間、奴の姿が粒子状になって消える。次の瞬間、前と同じように異世界が壊れる。見知った景色がだんだん視界で広がっていくのを見て、私は安堵する。
生きて、戻って来れた。
ミズキ先生はその後私を家まで送り届け、その時に小さな赤いボタンを渡された。先生は、「また今回みたいな危ない時には、躊躇なくこれを押して。5秒でそっちにいくから。」と言っていたので、もう安心していいだろう。最後に先生は、「遅くなってごめん。私はやることがあるからこれで失礼するね。また学校で。」と言い残して、私の家を去った。
その時の先生はまだ怒っていたのをひしひしと感じた。おそらく彼女はこれからさっきのことで色々とする必要があるのだろう。でも私にはもう関係ないことだ。戦いの中、私は一歩前に進むことができた。それだけで私は満足だ。そうやって私の一日は終わり、その後はゆったりとした平和な祝日になった。
次回から21:00投稿になると思います。




