焔風の支配者・二十四
──午前7時15分・富士山町南部──
ワープホールはハナビがいるであろう場所から数ブロックほど離れた場所に繋がっていた。俺たちはそれでも警戒を怠らずに一人ずつ地に足をつける。
まず奇襲なんてされたら俺たちは一瞬で終わる。それにもう目的が変わったんだ。そもそも今回は全力で叩きに行くわけじゃない。目的はあくまで和解、そのために多少戦闘があれどその目的の差異は俺たちの予定を大きく狂わせたと言っていいだろう。本気で潰す気でやり合う気だったのが、ハナビを傷つけずに交渉を進める──不明な点が増えたが故、難易度が比べ物にならないくらい上がったのは言うまでもない。
本当は俺が出るべきではないのかもしれない、というのはあいつの狙いは俺だからだ。だがこれは俺にとってもケジメであるため、逆に俺が誰よりも先陣を切らなければいけないのだ。その結果俺が傷を負ったとしても良いだろう。
「勘付かれないとは思うが一応気配は消していくぞ」
「私はできないんだけどどうすれば……」
「実は、私も……」
……確かに、そりゃあ普通に生きてちゃ気配を消す、なんて動作する機会もないわけだし出来ないのは当たり前か。
「ミサキ、チハヤ、お前らは一歩引いた場所で待機するって事になってたろ?なら問題ない」
俺の予想ではあるが、ハナビがあそこまで強いのはその能力が原因、裏を返せばそれ以外の部分は元のままのはずだ。なら気配察知を俺以上にできることはないだろう。
今回も本当は俺とテイラーの二人で戦うつもりだったが、前回の戦いで二人は案外使える事がわかった。ならば能力が届く範囲内でサポートに徹してもらった方が良いだろうとなったのだ。
「さっさと行こう、ハナビはすぐそこだ」
それだけ言うと、俺たちは配置につくように二手に分かれた。ミズキ、ミサキ、チハヤが観戦兼サポート、俺とテイラーが実戦兼交渉役だ。
──5分後──
(……………)
また、噴火が始まった。
今回、私は自分の能力を持っている。誰よりも強大な力をこの手に宿している。
……
今なら、私だけでこの噴火を終わらせられるんじゃないの?やれる保証はないけど、富士山自体の動きを止めれば、噴火は終わるかもしれない。
いや、私はそもそもこの町──風壁の外じゃ生きられない。だからこんな事はできない。
「でも、お兄ちゃんだったら……」
もしお兄ちゃんに全てを終わらせられる力があったら、お兄ちゃんならきっと、いや絶対に止めに行く。そして止める。いつもと変わらない、けどちょっとだけ覚悟を決めてこの町を飛び出して、怪我をしながらも走りを止めず、最後には本当に解決しちゃう。それが私の兄。
「お兄ちゃん……」
「ハッ、昨日ぶりだなァ、待望のお兄ちゃんだぜ?」
聞きなれた声に反応して私の頭は高速回転を始める。昨日聞いた声に若干の安心感を覚えながらも私の腹の底から湧く感情がより一層敵意を剥き出しにさせる。
「!──アハッ、もうお兄ちゃんって呼んでもいいの?」
「どうせ断ってもお前はそう呼び続けるだろ?」
「そうだね……で、今更何をしにきたの?昨日の決着をつけにきたのなら早くやろうよ」
「いや、俺はお前に、謝りたいと思ってな」
「!!、それは何に対して?」
「俺は弱い」
「………は?」
それは唐突なカミングアウトだった。今までのお兄ちゃんなら絶対に言わないような、謙譲と劣等感溢れる声を聞いたのは生まれて初めてだった。
「何急にそんなこと?お兄ちゃん、何か変……」
「俺は弱いからこそ、こうでもしなきゃお前を守れないと思っていたんだ……その結果やっていたことはただの勝手な自己犠牲による自己満足、結局俺はお前を考えているようで考えていなかったんだよ」
「……るさい」
「だから一度ちゃんと謝らなきゃいけないと思ったんだ。これまでの態度、お前の待遇、全部が悪かった」
「うるさいよ…」
お構いなしに話を進めるお兄ちゃんにだんだん苛つきが積もっていく。微妙に合っているようで違う、そんな私を読み取った言葉を聞いて、更に苛つきは増す。
「もうそんなことはしない。俺はお前を守れないかもだが……お前はお前の好きでいて良い。もう制限も何もないんだ」
「うるさい煩い五月蝿い!もう……お兄ちゃんは、もう、私の理想の中で死んでよ!お兄ちゃんは私の思うままでいてよ!!」
「お前の理想になるためには、俺はお前のそばにいなきゃいけない。だから俺は死ぬつもりないんだよ」
「だったら尚更、私の理想のためにここでいなくなって!」
「なら、わかった……んなお前の偽理想、俺がひっぺがしてやるよ!」
「私を分かった気にならないでよバカァ!!」
「わかってるからそう言うんだよ!」
早速そこら辺に散らばっている瓦礫の一部を浮かしてお兄ちゃんに向けて発射する。勢いに任せたせいかこの瓦礫は今までの攻撃よりずっと速いものとなった。本当はそんなことをするつもりはなかったが、少しやり過ぎても別に良い。そう、私はお兄ちゃんを殺す、つもりだ。
きっと瓦礫は音速に迫るほどの速度だっただろう。私以外には到底見ることすらできないし、避けたり受け止めたりで対処するのなんて尚更──のはずなのに……
お兄ちゃんは、表情一つ変えてない。いや、表情どころか何も変わっていないし、動いていないはずだ。なら一体なぜ?
「なんで、当たってないの……?」
目の前で起きたこの現象に、私はその目を見開いて、無気力にただそう問うしかなかった。




