続・千代子さん 〜機密組織篇 序章〜
貴方は、知能と権利を持った動物と、対等に、そして仲良く生きる自信はありますか?
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「虎雪、何度も言わせるな。俺が捕まえたのはモンスターで、ファイナリング・ファンタジックⅩⅦ(セブンティーン)オンラインでモンスター討伐数が全国一位だぞ。仮に本当に強盗犯を捕まえてたとしても、強盗犯逮捕より全国一位の方が遥かに凄ぇんだよ。あと、何度も言わせるな長ぇんだよこのセリフ」
6月某日ーーー東京
AM 8時55分
東京都庁内
「兄貴!昨日は大活躍でしたね!」
都庁内にあるこの特別組織である《東藩ーヒガシハンー》の事務室でふよふよと丸い体を浮かせながら目を輝かせて【達博】は言う。
「あ?なんでお前知ってんだよ。」
おはぎを頬張りながらキーボードを打っていた千代子は珍しく素直に驚いた顔をしながらPC画面から達博に視線を移した。
「だってもう今その話しで都庁内持ちきりですよ!
昨日の銀行強盗犯、犯行直後にすぐ捕まえたって!お休みなのに兄貴が張り込みしてたんじゃないかって!
動物事件じゃないのに兄貴が率先して対処したってもう朝から僕も色んな人に話しかけられましたもん!」
達博がふわふわくるくると回りながら嬉しそうに話す。
「私も親分見ました!でも、なんですぐにどっか行っちゃったんですか?」
達博の言葉に続いて虎雪も話しに加わる。
「何言ってんだ?俺の大活躍は昨日発売のファイナリング・ファンタジックⅩⅦ(セブンティーン)オンラインでモンスター討伐数が全国一位の話しだろ?」
「そんな〜!謙遜して話し誤魔化さないでくださいよ兄貴!それともなかなかしないことだったから照れてるんですか?」
「いや、だから俺が捕まえたのは強盗犯じゃなくてモンスターだし、
お前デイリー討伐数全国一位ってどれくらいか知ってるか?20時間連続プレイでやっとだぞ?二位のヤツと僅差だからな、ホントギリギリだったぜ!
…って事で、深夜に俺ゲーム買ってすぐ帰ってからずっとプレイしてたから昨日家から一歩も出てねぇからな」
千代子が人間なら、きっと目の下にはクマが出来ているだろうが、生憎ハクビシンは目の下に白いフサフサの毛が生えている為全く眠そうには見えないまん丸な目をして達博に言った。
「暗くてハッキリとは顔が見えなかったようですが、アレは絶対にハクビシンだって…」
「ハクビシンなんて俺以外にも沢山いるだろう。風鈴ちゃんじゃねぇの?」
「風鈴さんは多分じゃなくても強盗犯捕まえられないと思います」
あれれ〜?兄貴じゃないなんて…と、再びくるくる回りながら考える達博。
その隣で今度は虎雪が自分の見た光景を話し始める。
「親分、昨日巣鴨の駅前銀行から南方面に4本足で走っていったじゃないですか?」
「虎雪、何度も言わせるな。俺が捕まえたのはモンスターで、ファイナリング・ファンタジックⅩⅦ(セブンティーン)オンラインでモンスター討伐数が全国一位だぞ。仮に本当に強盗犯を捕まえてたとしても、強盗犯逮捕より全国一位の方が遥かに凄ぇんだよ。あと、何度も言わせるな長ぇんだよこのセリフ」
「多分、"ファイナリング・ファンタジックXVIIオンラインモンスター討伐数が全国一位"が言いたいんでしょうね」
ふわふわと虎雪に寄って行った達博はこそっと耳打ちをする
「…じゃあ、私が見たのはなんだったんでしょう?」
「他所のハクビシンだよ、善良な一般ハクビシンだ」
2個目のおはぎを食べながら千代子は書類の作成に取り掛かる。
同日ーーー東京
PM 9時25分
東京 新宿路地裏
人通りの少ない裏路地をフラフラと小動物が歩いている。
二足歩行でおぼつかない歩きだが、歌うほど上機嫌である。
「君のォっ、可愛いィっ、その鼻のォ〜
上のォっ、白いィっ、美しい芯がァ〜」
先月の京都出張の時に飲みすぎて暫く酒はいらないと言った千代子が酔っ払いながら帰宅している。
ゲームで全国一位が嬉しく、流石に飲まずにはいられなかった為、定時で無理やり仕事を切り上げて行きつけの飲み屋へ繰り出したのである。
散々飲み食いして知り合いの常連客に絡んでゲームの話をしこたました千代子。鼻歌では済まずもう完全にカラオケ気分で歌っている。
そんなご機嫌な千代子を背後上空から追う影が一つあった。
「君のォっ、可愛いィっ、そのお目目ェ〜
上のォっ、白いィっ、お耳の根元ォ〜」
「全部ゥっ、全部ゥっ、可愛…」
ーーーーーパシュッ
ーーーーーーーキュイン!!!!!
歌の途中で背後から違和感を感じて飛び退いた千代子。
自分が歩き立っていた前方のコンクリートにはボウガンよろしくとばかりの太めの矢が刺さっていた。
矢が発された後方を振り向かずして千代子は話しかけた。
「ボウガンは所持自体禁止されている。許可を受けているなら許可証を見せて貰おうか」
言ってからゆっくりと振り返る。
後方を見ると矢が発射された方向には月の逆光で何か動物がいるのがわかる。人ではない。
月に雲が掛かっている為イマイチハッキリとはわからないが徐々に目も慣れて見えてきた。フォルムは自分と一緒である。そう、ハクビシンだ。
「まさかお前か。昨日の事件で俺を偽ったというー…」
「貴様のつもりは微塵もない」
「同族の話は最後まで聞けよ!!
俺の部下が、俺とお前を見間違えたらしい」
「貴様と見間違えただと?至急部下にメガネを作ってやれ」
「あ?あんだと?!お前さんもハクビシンだからわかるだろうが!ハクビシンの個体差が出る部分は少なくて、この鼻の上の白い芯の太さと長さ!あとは耳の根元の白い…」
千代子が言っている最中に雲が動き、月の光で段々と相手の面がはっきりと見えてきた。
見上げた相手のハクビシンの個体差が自分とどれだけ似ているのかを見ようとしたがそれは一目瞭然だった。
民家の屋根から自分を見下ろしているハクビシンは、真っ白。服から出てる部分では耳の先から足の先まで雪の様に真っ白なハクビシンだった。
「お前…アルビノかっ!!!」