ブックカバーの亡霊
仕事で人間関係をこじらせてから、他人と関わることが恐怖になった。一番ひどい時は家族とはペラペラ喋るのに、その他の人に対しては
「はい」
「いいえ」
「大丈夫です」
「わかりました」
「すみません」
の五種類の言葉のみ駆使して話をしていた。
しかし、このままではまずい、と思い始めちょっとずつコミュニケーションの練習をしていこうと思った。
自画自賛だが、偉い!! と褒めることでモチベーションを上げた。
読書が好きなのだが、最近、〝神!〟と崇めたくなる本に出会った。図書館で借りていたものなので、自分のものにしたくて早速、書店へ向かった。
機械で検索すると在庫一冊とあった。急がなくては! この間にも誰かに取られてしまうかも、なんて心配し書架をうろっとするも、ここでコミュニケーションの練習をしようと思い、近くで書籍を並べていた書店員に勇気を出して声をかけた。
「あの、この本どこにありますか?」
書籍の情報が書かれたレシートのような紙を見せると、書店員はそれをさっと手に取り、迷うことなくつかつかと書架に向かって歩いて行き、棚の中からさっと一冊を取り出してくれた。
終始何も言わず、無言で一冊を差し出された私は、「自分で探しやがれ、と思われたかな……」と意気消沈した。
でも、私のメンタルは大分回復傾向にあるらしく、彼女はきっと無言で書籍を並べることに命をかけているのだ、と思うことにした。そうすると申し訳なさも半減した。
〝神〟本を手に入れた私は、ブックカバーにもこだわろうと思った。〝神〟本に選び抜いたブックカバーをかけ、おまもりのように持ち歩くことにした。
ブックカバーを扱っていそうな文具店、雑貨店を巡った。でも、なかなか「これ!」というものに出会えない。
文具店、雑貨店でもコミュニケーションの練習をした。
「ブックカバーは取り扱っていますか?」
と店員に聞いた。買い物から遠ざかっていた私は、店にいるのが客なのか店員なのか判断がつきかねた。慎重に見極めないと、間違って客に声をかけそうな気がした。
だから、ネームプレートのようなものを首からぶら下げていることを確認してから声をかけた。
その甲斐あって、お客さんに声をかけてしまうことはなかった。
そして、店員さんはみんな優しかった。取り扱いがない場合は、「申し訳ありません」と、本当にすまなさそうな表情で謝ってくれる。
あれ? 人って優しい?
客だから当然だが、優しく接してもらえるのだと安心感を覚えた。
ちなみにブックカバーはまだ、しっくりくるものが見つかっておらず、私は扱っていそうな店を彷徨い続けている。
「ブックカバーは取り扱っていますか?」
と必ず訊く。なんかブックカバーの亡霊に取り憑かれたみたいになっている。
読んでいただき、ありがとうございました。
この後、本のイメージにピッタリ合うブックカバーを見つけました☆