Disillusion
森にほど近い、辺鄙に住む仙人曰く。
「魔法というものは世俗の認識をかけ離れて、ある種の神聖性を持っているからこそ、凡ゆるに変貌しうるのだと」
仙人は焼け溶けた。己が可変性ゆえに。
その実体を何が辛うじて繋ぎ止め、形成していたのかを知ろうとしなかった誅罰を喰らったのである。
ボイラーの噴気凄まじい都市は、常に労働し、産生する利潤によって拡大を続ける。ハンチング帽を斜に被った筋骨隆々の鉄鋼労働者は槌を振るい、オーバーオールの肩紐がずり落ちる痩せぎすな貧者は瞬く間に鋼滓として流れていく。
神の手に繰られて紡がれる都市は、世界を頂上から統御する。
しかし、完全なシステムが構築されてもなお、忌まわしき哉、神の意にそぐわぬ罪過の者が残留している。
森林に潜む魔女だ。
忌むべき超常を以ってして神に抵抗し、都市の活動を阻害する。自らが世界を成していると傲岸不遜にも言い放つ彼奴等を、懲罰せねばならない。
我らには駆動する機械があり、そして神の要求があるのだ。
喧しい内燃機関の駆動音と、履帯が立てる耳障りな金切り声に包まれながら、戦車は進んでいる。
その菱形の身を泥濘の地に這わせながら、大地を圧倒する様は、当に鋼鉄かくあるべしを究極していた。
周囲に纏ろう兵士の銃砲も完璧に磨き上げられて、その鈍く輝く真鉄は汚濁した足元など一切歯牙にも掛けない規律を伝えている。
暗く落ち込んだ森林に入っても、我らの威光が動じることはない。鋼鉄の刻む轍が示す絶対的な自信を胸に、道無き道を追及するのみだ。
はたして見えてきた獣の里が、目標である。
襲いかかってくる蛮族を、彼奴の牙が届く前に頓座させて、逃亡するのも撃ち、土造りの家屋は戦車が砲撃し踏み潰した。奇き彼奴等の儀式場には火を放ち、完膚なきまでに破壊した。
憎たらしいまでに我らに相似した相貌を持つ彼奴等を狙撃するのも、神意ならばむしろ歓喜であった。
我らよりも強固で厚い筋肉を銃剣で貫き、獣を獣たらしめるその耳を切り落として、骸には侮蔑を浴びせた。種族として運命付けられた全てを損壊した。
だがやはり、一定の数が戦闘に参加するでも逃げるでもなく残存する。家屋の奥にしぶとく居座っている。
そういうのはもう何でもなく、闘争から取り残された残滓であった。
抵抗がない殺害は、我らの意義に成り得ぬものであり、それに費やす膂力は全くの無駄であった。子を抱いて訴えたり、震えたり、あるいは睨め付ける大小様々な俘虜は、総じて戦車によって踏轢した。
ある兵士は圧出された肉を一口つまんだが、吐き出して、それ以上は食指が動かず、我らは魔女の罪過を再確認して帰路に着いた。
戦車に跨乗する我らの内臓を震わす揺動が、神に仕える徒に与えられた寵愛であった。
都市へと帰還すれば、浴びせられる喝采は燦々と、着ている制服は他の同胞らと何ら変わるものではないと言うのに、固着した血が勲章として民衆の歓声を呼ぶ。
アルコールを飲み、武勇を語り、我らは我らの栄誉を讃えて、一夜を明かし、そして再び森林へと出立する。
神が要求し、葉巻は燻り、金が積み上げられる。また煤煙が上がる。