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なりんの援護くん  作者: なりた
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第8話 ベリィを発って澤菜家までに

のんは何故なりんをベリィに差し向けたのか

その理由は歩の謎を解き明かす鍵となるか

歩と援護くんとの因果を繋げるミッシング・リンクは

援護くんこと圭吾の亡くなった兄・遠藤真也!?

というお話。

  第8話 ベリィを発って澤菜家までに


 帰りは結局、歩の運転の助手席となった。

 先日の軽トラはレンタカーだそうで、今日はセレナだ。

「これで積めなくもないかなとも思ったんだけどさ、無理して荷物も内装もキズつけたくなかったし。」

「あの、今日のガソリン代は」

「可愛い女の子からそんなもの取らないよ。てか普通に交通費支給のうちだから。」

 軽口も実情もしれっとしたものだ。

「あ、お姉さんからは可愛くてもちゃんともらったけどね、レンタカー代とか」

「…お姉ちゃん、いつからベリィさんにおじゃましてるんでしょう。」

「んーとね。まだつい最近だな。」

「それで引っ越しまでお手伝いさせてしまって。姉にも私にも本当に親切にしてくれるのは、なんでなんです?」

「のんちゃんはさ、明らかに俺に用があったんだよ。なんか俺に聞きたいこと、つうか

俺から知りたいことがあったようだから、

俺からも距離をつめたんだよ。

 引っ越しの手伝いは、そんな探り合いのうちの まぁ綾だな。」

 綾。のらりと躱したりせずに、あけすけに話してくれてるみたい。

「今日きみが来たのは、君の意志じゃなくてのんちゃんの差し金だろ。しかも君は何も知らされてない。

俺としてものんちゃんの意図は測りかねるとこがあるから、ここは意図に乗って、

お互い分からない同士で話してみるしかないかなとも思ってね。」

「歩さん、切れ者って感じですかね。」

「歩くんな。それから、敬語もなしだ。俺が話しづらい。」

「歩、くん…、怖いひとではないんですよね。」

「ああ。俺は怖くないよ。そういうのは興味ないんだ。わるいこともズルいことも、俺は関わりたくない。」

「それでも相手にしてるって事は、姉の事も怖くもわるくもないと踏んでるんですよね。」

「いやあ、怖くはあるかな。わるくはないって事の方は確信あるけど。」

 姉は妻ある人と不倫してたような悪女ちゃんですが。

「援護くんで敬語くんな遠藤圭吾は、いま君たちの家に出入りしている、介護士の卵として。」

 切れ者らしき者が切り込んできた。

「のんちゃんは遠藤圭吾の何かを探るうちに、なんらかの接点がある者として俺に気づき、自らベリィに現れた。」

 ふむ。

「でも自分じゃ埒が開かないと思ったからか、今度は妹の君を差し向けた。さてそれが何になるんだか。」

「それは、私にも分かんないんです。」

「俺が今思ってるのはさ。どうやら君には、君が望んでなくても人がやたらと胸の内を明かしたくなる、

そんな雰囲気があるってこと。心当りはないか?」

 え!?考えてもみなかった。え?でも…、あ!?

 凜はフラッシュバックに押し流された。

入学早々から話しかけてきて以降喋りっぱなしのこりん、余計なところまで話し過ぎる裕人、

先にお母さんにも会ってる筈なの私に話しかけてくれた、援護くん…、

黙っていればいいものを、職場不倫なんてワルサまでぶっちゃけちゃったお姉ちゃん!

 え、これってみんな、あたしがいたから? あたしの影響なの!?

 

助手席で目を見開いたまま、言葉が途絶えた凜をミラーと横目とで見て

「どうやら思い当たるみたいだね。つまり、今までその自覚はなかったわけだ。」

「歩くん、やっぱ切れ者じゃないかな。今日会ったばっかなのに。」

「皆が皆じゃないけど、ひとには自分でも気付かない、人それぞれの妙な影響力が宿っていることがある。

君に限らずね。例えばのんちゃんなら人を駒みたいに操る才能。今回は君という最適の刺客を選んで、

僕に差し向けた。それで僕はまんまと初対面のJKにこんなに明け透けに手の内を明かしてみせている。

他にもいるんじゃないか?そんな人物が」

 いる。それは、人に深く考えさせて結論に至らせる能力と、もうひとつ

 心を開いた相手には、とっても愛されるという魅力とを持ったひと。ー援護くん。

「歩くん、姉は、小さい1年生の頃、毎日援護くんに登下校を護られていたんです。それも、

援護くんが姉の駒にされていたという事なんでしょうか。」

「どうかな。それはむしろ、その幸せが忘れられなくて、そこからあんな能力が芽吹いたって順番なんじゃないかな。」

 よかった。援護くんは、お姉ちゃんに操られていたわけじゃないのね。

え?でも、それって。

援護くんの影響がそこまでお姉ちゃんの引き金になってるって事?

「遠藤圭吾とは、俺は会ったこともない。縁もない。でも遠藤真也は、別だ。」

 向こうの話が進んでる。急に棘を含んだ。

「遠藤真也はね、俺の人生のかたき)なんだよ。」

「かたき!?」

「遠藤真也が、だ。きみの大事な援護くんには、俺はなんの恨みも含みも持ってない。だから

そこは警戒しないでいいよ。遠藤真也の方も、もういないしな。」

 歩が気遣うように言葉尻で微笑んでみせる。

「遠藤真也さんが亡くなったのって…、」

「俺は何もしてないよ。むしろどっちかっていうと、弟がとどめでもさしてくれてたんじゃないかって、そう夢想してたくらいだ。」

「援護くんは、そんな事をする人じゃありません。でも仇っていったい何があったんですか。」

「遠藤真也は自作の爆弾の出来栄えを公園で実験して、自業自得の暴発事故を起こした。」

「爆弾!?」

「その時、誰もいない筈の公園に居合わせて巻き添え喰ったのが、子どもの頃の俺ってわけだ。」

 人けのない公園…。え、あそこじゃないよね。

凜はお気にの読書スポットを頭に浮かべて少しぞっとした。

「酔った親父が喋ってたんだが、遠藤家の父親から聞いたって話によると

奴の部屋には世直しがどうこうって書かれた日記やパソコンがあったらしい。

 馬鹿な奴だよ、爆弾なんかで作り変えたところでそんな手段じゃろくな社会になるわけないだろ。」

 馬鹿な結論。結論…、

凜は胸がきゅうっとくるしくなって、自分の襟元を掴んだ。

「人間深く考えりゃ、いつでも誰でもいい考えが浮かぶなんて限らない。元から筋がわるい奴が一生懸命考えて、

やっと考えついた結論がロクでもない、て事も往々にしてあるんだ。」

 深く考える…、いや。待って、いや。

「話はそこで終わりじゃない。真也も俺も大けがを負って、そこで保護者同士と当局とかの話し合いになった。

被害者である俺の親父は加害者である真也の親父に、ある条件を持ちかけて大金を吹っ掛けた。そして遠藤の親父はその話に乗った。

 当時の新聞を調べてみて愕然としたよ。

 子どもの俺が花火で無茶をして、遠藤真也が巻き込まれたことになっていた。」

「え?」

「道理で誰も見舞いにも来てくれないわけだよ。俺は入院中は病室で教材学習て形になって退院したら転校の手続きを取られてた。」

 転校先でもひそひそされてたりしたのかな。正面切っていじめてくる奴とかいなかっただろうか。

「それでだ。

公園で壊れた設備は何もないし俺の親父は監督不行き届きで多少の刑法にも問われたが。遠藤家は法的や世間的には無傷で済んだ。

 世間にはうちが遠藤家に負い目と賠償を払っているかたちに見せかけて、実態は逆だ。

 実際の金の流れの方向なんて、こんなあり得ない真相に勘づいて深く調べる奴はどうやらひとりもいなかったらしくてね。

 それで遠藤は仕事や社会での立場は、失わずに済んだ。だけど。」

 歩は一息ついてから言葉を継いだ。

「それ以外は全て失った。

遠藤家は持ち家も処分して夫婦は離婚の一家離散、夫婦双方新しく移った街の世間にはそれぞれ相手方に親権を取られたと装いながら、

実はどちらも子の世話なんて看てなかった。回復したところで本当は爆弾魔な実子なんて、いらなかったんだよ。両親とも」

 つじつまが、合う。合ってしまう。

「遠藤圭吾にしてみれば、いわれなく両親に見捨てられた哀れな兄の、仇が俺だ。

 実際は逆なのにな。だから俺は、そうそう援護くんの前に現れるわけにはいかない。

 濡れ衣なんかでどんな目に合わされるか、知れないからな。」

 この車は今、澤菜家に向かっている。

母が帰宅するまでは、援護くんがいる。

「じゃあやっぱりうちまで送ってもらうわけにいかないです、援護くん今日うちにいるんです。

 歩くんだって心配だし、援護くんだってどんな思いをしてどう出るか分からない」

「のんちゃんはさ、どこまで掴んでるんだろうな。実は案外もう結構深いとこまで辿り着いててさ、

それで自分ひとりでは抱えきれなくなってたりしてないか。」

 それで私にも!?こんな入り組んだ真相を一緒に抱えさせようとしてるってわけ!?

「あるいはまだそこまで知れてなくて、俺に真相を話させるために君を差し向けた、てところまでしか来てないのかも知れないし、

そのどちらなのかは俺にも測り知れない。」

 測り知れないって、そういう意味で言っていたの?

「遠藤信也の部屋にあったという世直し云々や

爆弾の材料や、あるいは本人のうわ言で援護くんも真相を知っているかもしれない。

 さっき俺が彼がとどめをさしたのかも、と言ったのは 主にその場合を想定しての可能性さ。」

けっこう色々、不確定要素のあるままの推測なんだ。でも、見当はずれの話をしているようには思えない。

「なあ、仮にのんちゃんが独自に真相に辿り着いてると仮定して、のんちゃんは援護くんに真相を話すと思うかい?

 なりんちゃんから観てさ。」

「…、出来ないと思う。」

「そうか。 なりんちゃんならどうだ?援護くんに真相を話せるか?」

「あたしが傍にいたら、あたしのヘンな影響力のせいで、お姉ちゃんは知ってることをつい話しちゃうかもしれない。だから、

お姉ちゃんにとってのベストケースは、私が歩くんに事故の真相をきちんとぜんぶ聞き出して、

先に援護くんに話すって形ですよね。」

「ほう。それじゃ俺は、なりんちゃんに真相を知らせた以上、なりんちゃんに対しての責任を抱えたわけだ。」

「お姉ちゃん、自分で調べ始めておいて、いざ真相に差し掛かったら あたし達に種明かしの役目と責任を廻しにかかってるんだ。」

「もし君が話さなくても、君が傍にいればいつかのんちゃんが自分で話してしまう。

 どのみち援護くんはもう、真相にたどり着かざるを得ないのかな。」

「あたしは選ぶのね。自分が話すか、お姉ちゃんに話させるのか。」

「そういう事になるのか。あとの希望はさ、援護くん自身が遠藤信也のしでかしの真相に、先に辿り着いているかどうかだ。」

「…、待って。知ってる。援護くん知ってるよ?」

「え?」

 凜は援護くんの身の上話を聞いた日のことを思い出した。

「援護くん言ってた、兄が事故を起こして、て。

 援護くん、お兄さんが起こした事故だって、今はもう知ってる!」

「そうなのか!?じゃあ、俺は今、援護くんにとってどういう立場なんだ?」

「少なくとも、仇じゃない、と思う、思います。」

「…、会えるかな、俺。援護くんに。」

「会いたいですか?」

「分からない。会ってどうするのか、お互い何か用があるのか、…そうか、援護くんも分からないんだ。そこは。」

「援護くんのお兄さんの起こした事故に巻き込まれて、しかも小さな子どものやったことで事態を済ませるために

濡れ衣まで着せられているのが歩くん。」

「でも俺の親父がそこにつけ込んで、引き換えに遠藤家から大金をせしめて、遠藤は家も家族もバラッバラだ。」

「どう出ていいか分からないんですね。お互いに。その、親さんたちの思惑に巻き込まれて。

…歩くんのお父さんは今どうしてるんですか?」

「出てったよ。オンナ作って。作ってっていうか、前からいたのかな?

 お袋は俺とふたりで祖父ちゃん祖母ちゃんの家に移って

暫く俺にかかりきりで、俺が動けるようになってからは資格とって看護師やってる。

 そこは援護くんとお揃いだな。」

 公園の爆発事件で、その場のふたりが死にかけて、家族がふたつ壊れたんだ。

「ここまで整理がついたのは…、そうか。

俺となりんちゃんとが出逢えて話が出来たからだ。」

「お姉ちゃんの本当の狙いは、ここ…?」

「だとしたら、自分となりんちゃんのそれぞれの影響力を使いこなしたのんちゃんの、

運命の魔女か女神級な大魔術だ。」

 そうしたらあとは、援護くんの影響力…。

「歩くん、援護くんには私から話す。今日は援護くんに会わずに帰って。ちゃんと仲良く和やかにお話しあえるように

準備整えておくから。」

「頼っていいのか?なりんちゃん。」

「うん。」

「そうか…。だけど、もうひとつ。」

「なに?」

「真相を知っていたとして、援護くんは本当に、遠藤真也を自分でやってないんだな?」

「してません。援護くんは絶対に、そんな事しません。」

「分かった。信じるよ。」

 推測が多い話だ。どこかで思い違いが紛れ込んでいれば、援護くんは兄と自分の人生の仇として、歩くんを濡れ衣で憎んでしまいかねない。

それはないと信じたいし、信じてる。

一方歩くんにとっても、援護くんは憎い真也さんの世話を看ていた身内だけど。

別に援護くんに対しての悪意はないってそこは信じてよさそうな感じ。

話さなきゃ、援護くんに。そして、援護くんと歩くんとを、引き合わせる。

 お互いに、いい人同士として。


歩の指摘する、なりんの「人がつい心のうちを打ち明けてしまう雰囲気」は

いわゆる[なろう小説]に頻出する「スキル」に近いものですが、

オカルトやファンタジーよりかは「ああ、そういう人いるよねぇ」といった感じの

現実世界とぎりぎり共存し得る設定を目指しています。この先重要な要素になるのですが。

だって、せっかく「なろう」に投稿してるんだしせっかくの流行を楽しく取り入れたいなと。

今回の本文にある通り、なりんに限らず、援護くんや穏たちもそれぞれに個性に直結した他者への影響力を備えています。

そしてそんな人それぞれな他者への影響力は、あなたにも

 なにかしらが備わっているのかも知れませんね。

次回 第9話「いざ、我が家」

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