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なりんの援護くん  作者: なりた
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第7話 唐突な別天地

凜ことなりんは姉の指示に従い、彼女のバイトの穴埋めに

ライブバー・ベリィに向かう。そこには先日の美青年が!?

というお話。

  第7話 唐突な別天地


 援護くんが来る日、下校時刻の凜に穏からの送信が入った。

「ライブバー・ベリィ…?なにこのサイト」

 続いて穏からの通話。応じる凜。

「凜、あたし今圭吾君に車椅子の指導受けてるんだけどね、これしばらくかかりそうだから

あんた私のバイトに代理で入って。」

「えぇ!?急に何言い出すのよ。」

「先にお店のサイト転送してあるから。ライブハウスの、開店前の準備作業よ。指示通り動けば勤まる単純作業だから、よろしくね。」

「いやあたし帰るよ?指導の続きは今度にしてもらって?」

「いう事聞かなきゃ本を先に借りたの圭吾くんにバラしちゃうよ?」

「なんでお姉ちゃんが知ってるのよ!?」

「今日圭吾くんと話してて察したわよ。

 圭吾くんは気付いてないようだけど、あたしが顛末説明しちゃおうかな。」

「だからなんでお姉ちゃんがそこまで分かるのよ!?」

 焦ってやや混乱気味な、凜。

「確信したのは今カマかけてからよ。そんなこったろうと思った。それで、どうするの?」

 なにその勘の良さ!?あたしやっぱり

のんのん苦手かも!

「…交通費がないよ。」

「片道ぶんくらいはあるでしょ?帰りの経費

と今日のぶんの支払いはその場で、て

もう店長にも話通してあるから。」

 穏はがちがちに包囲網を固めているようだ。

「凜、あんたもたまには別天地で新しい空気を吸いなさい。あたしが言うのもなんだけどあんたも圭吾くんの虜になり過ぎよ。」

 それは…、否めない。

「あたし、オミズは無理だよ?」

「ライブハウスだってば。そりゃアルコールも出るけど、バイトは開店前の準備作業だから。

 それで興味が湧いたら、ちょっとくらいステージ観てから帰ったらいいのよ。」

「今日バイトの代わりしたら、それで本のこと黙っててくれるわけ?」

「いいわよ。そんな引っ張れるネタでもないし。」

「分かった。行ってくる。」

 即決で応じる凜。いつまであるかも分からない、援護くんとの時間だが。こちらに勝ち目になりそうな材料がひとつも見つからない以上、

早く条件を満たしてこの状況を済ませてしまう方がいい。ーそれにしても。

こんなに高くつくズルだったかなぁ 。


 凜は私鉄で数駅ほど先のライブバーに、

難なく到着した。

 画像のとおりの外観に、

「ライブバー・べリィ」

と片仮名の表記もある。間違いない。

「こんにちはー。」

 開いてる扉に入っていくと、存外明るい照明の店内に、先日の青年が立っていた。

「おお、凜ちゃんね。この前はどうも。」

「アユミさん、ですよね。姉の代理で来ました、澤菜凜です。」

「俺は島辺歩。あゆでもしまちゃんでもいいよ。

ベリ子~、のんちゃんの妹さん。」

 奥から綺麗な女の人が出てくる。

「あ~、よく来たね。私は店長の島辺莉子。ライブバー・ベリィの通称ベリ子姐さんよ。」

 島辺…、

「おふたりはご夫婦なんですか?」

「いとこ。あたしたちのお祖母ちゃんから

あたしがこの店を継いで、歩に手伝ってもらってるの。」

「おばあ様から。」

「お祖父ちゃんのジャズバーがお祖母ちゃんのカラオケスナックになって、あたしの代でライブバーになったの。」

 なるほど。

「早速だけど、床にモップ掛けとテーブル席の椅子を降ろして並べて拭いて。詳しい事は歩に聞いて。」

「はい。」

「じゃあ先ずモップと水場がこっちな。」

 ほぼ共用の手洗場に専用の一角があった。

 別天地でもお手洗いかあ。

「あの、トイレ掃除もですか?」

「そっちは俺が済ませてあるから。凜ちゃんは店内の床、学校でやってたらそんな感じで。

 てか、凜ちゃんでいい?呼び方。」

「じゃあ、なりんて呼んでください。」

「なりん?あぁ、ベリ子とおんなじ理屈か」 そういえばそうだ。

「なりんはさ、どんなきっかけでそのあだ名になったの?」

「援護くんがつけてくれたんです。」

「えんご?ふうん。敬語くんの他にえんごくんてのもいるんだ。」

「いえその敬語くんが援護くんで。」

「けいごが、えんご…、…遠藤?」

「はい。遠藤圭吾さん。」

「遠藤、けいご。そうか、遠藤圭吾ってことか。」

 すこし会話のトーンが変わる。

「遠藤真也の、弟の方ってわけだ。」

「え…!?」

「あ、ごめん。いいんだ。じゃあモップよろくね、なりん。」

「はい。」

 なりんと呼べとは言ったが。なりんちゃんでもいいんじゃないかな?てか、今はそこじゃない。

 遠藤、しんやさん。援護くんが長年面倒を看てきた、お兄さんてことだよね。

誰が何をどこまで知ってるの?歩さんも

お姉ちゃんも、それにベリ子さんと、それから、

援護くん。

 なりん、て、ベリ子さんからの発想?

いきなりの情報量に、凜は少し怖くなった。 そして、

唐突にまた 援護くんに初めて逢った日の、あの謎の味が戻ってきてしまった事を直感した。


 ライブハウスとしては随分と小ぶりでも、

根が真面目な凜がきちんとモップ掛けするにはベリィの床はそこそこ広かった。

 夏服に汗が通る。時折水場で顔や手を冷やしたりタオルでシャツの下までしっかり拭きながら、凜はフロアを磨き切った。

次は段差の上のテーブル席まわり、ステージもか?とやや逡巡してたら、

「お疲れ~。なりんちゃん、いったん飲み物にしよう。」

とベリ子が声をかけ、凜をカウンター席に呼んだ。

「コーラでいい?」

 たっぷりの氷でグラスに水滴をまとったコーラが、凜の前にそびえる。

「頂きます。」

 屈託なくストローを咥える凜。みるみるコーラが吸い上げられる。

「ちょっと休憩したら、椅子を出してね。」「モップもですよね。」

「それは歩が済ましたわ。ステージも歩がやってるから。」

「え、気付かなかった。」

「なりんちゃん真剣に床見てたもんね。」

 あたしがフロア磨いてる間に、歩さんは テーブル席回り掃除してステージにかかってたの?凄いな。

「なりんちゃん、時間ある?そろそろ先発の連中も来るから、少し観ていきなよ。」

 穏もそんな事を言ってはいたが。

「いえ、終わったらすぐ帰ります。」

ちょっとでも援護くんの顔が見れるだろうか。

「そう?のんちゃんは見せたいみたいよ。」

「お姉ちゃんが?」

「なりんちゃん、お祖父様の介護で軽音部辞めちゃったんでしょ?お姉さんそこも気にしてるみたいよ。」

それでこの店に誘導したのか?私を。

「介護は自分が代わるから、あなたには好きなことをさせたいって」

 鵜呑みには出来ないなあ…。お姉ちゃんの本音はそこじゃない、援護くんの家族の秘密をなにかしら知っている、歩さんの方だ。

だとしたら…。ここで何故あたし?

お姉ちゃん、自分だけじゃもう聞き出せない壁があるって踏んでっていう事?

あぁ、やだやだ。こんな風に推測させられてる時点で、もうお姉ちゃんの思惑に捉われてる。

あたしは、援護くんの過去は気にしない、

援護くんと一緒に生きる未来将来を探すって決めたんだ。

「うちはねえ、ゴリゴリは深い時間で、開店時間からしばらくは軽めの緩めがやる流れなのよ。」

 ベリ子が話を続ける。

「なりんちゃんどんな感じなの?あたしは経営と飲食だけど、歩も初歩を教えるくらいならさ。なんでも弾けるよ。」

「歩さんも出演するんですか?」

「出演はしないね。ワンステージ通せないから。」

「それはどういう」

「ちょっとケガの後遺症がね。小さい頃に事故に巻き込まれて」

 事故。まずいまずいまずい、お姉ちゃん、あなたいったい何を掴んだの!?そして

あたしに何を掴ませる気!?  

 咥えたストローを強く吸い上げて、すでに空のグラスがズズズッと音を上げた。

「おっ、お代わりか?」

いつの間にかカウンターに現れた歩が、コーラのペットボトルを向ける。

「いえ、あっ、頂けますか。」

 笑顔でコーラを注ぐ歩は血色もよくて、ステージが務まらないようには見えない。

だいいち、今日もめっちゃ働いてるし穏の引っ越しもほぼほぼ面倒を見切ってたじゃないか。

「なりん、ここで働かないか。のんちゃんとローテでも、気が向いた時でもいい」

「お姉ちゃんはちゃん付けなんですね。」

「呼び捨てはよせってさ。君もなら、なりんちゃんって事でいいか?」

「出来ればそれで。」

「オッケー。で、俺のことは何て呼ぶ?」

「歩さん?」

「さんも堅いな。歩くんでよろ。」

「それはマジですか?」

「おう。援護くんとおあいこな。」

 どきっと胸が疼く。あたし、探られてる側じゃない?別に何も出てこないけど。

「いつでも来いよ。シフトなんてあって無きだから。誰も来なきゃ俺がひとりでやるだけだし。」

 また断りづらい情報を。

「歩、澤菜家の行き方覚えてるでしょ?

こっちはなんとかするから、今日は送ってあげて。」

「了解。じゃあそういうわけだから、帰りは気にしなくてもいいよ。最初くらい観ていくだろ、

なりんちゃん。」

 なんかどんどん断りづらくなってくな。

「分かりました。じゃあ少しだけ拝見します。9時前には着くように送ってくれますか?」

「オッケ。8時過ぎまではいられるな。」


 休憩のあとに椅子を降ろして並べ拭き上げて、

丁度作業が済んだあたりで若い男女が何人か現れ、楽器を拡げステージに上がった。

「よろしくお願いしまーっス。」

「さて開店。この時間はお客より演者の方が早くてさ。皆練習場代わりよ。」

ベリ子が簡潔に解説する。

 リハかと思えば本番で、拙い演奏と最早ほっこりしてしまいそうな歌唱に、凜は唖然とした。

「こんな感じだからさ、次来る時は楽器持って来てもいいよ。ギター?」

「あ、はい。」

 歩も話に加わる。

「俺の貸そうか。今日もう弾いてみ?」

「いえ全然やってないんで。家でも練習出来ないし。」

 介護が始まるまでは、家でも割りと好きに弾いていたのだが。

「今日は帰ります。また来れたら来ます。その時はギター持って。」

 援護くんとの時間も大切なのに。でも援護くん、よりも真也さん?の方か。と、

歩くんさんとの関りも気になる。

 どうもここも今日限り、というわけにもいかないみたい。

「なりんちゃん、これ今日のぶんね。」

 ベリ子の差し出した茶封筒に紙幣が入っていた。

おぉー、この感じ。わるくないね。

凜はベリィにどんどん愛着を湧かせている自分を、抑えかねている。

今回から(実は前回からアユミ)が登場

援護くんこと圭吾より以前になりんと対の主人公として準備していたキャラクター

なのですが、ちょっとイケメン過ぎて表現したいものとややズレるかも?と思えたので

一旦没にしておりました。が、この辺りでお話創りに欲が出てきまして、

サブキャラクターとして復活 ベリィとベリ子も連られて登場

次回から更に新要素も加わります。

次回第8話「ベリィを発って澤菜家までに」

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