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なりんの援護くん  作者: なりた
17/20

第17話 ご褒美と、これからの話

見事初ステージを成功させた翌日 運営としての仕事が残るベリ子を残し

ひと足先に帰途につくバンドの3人。

のんは なりんとこりんを骨休めに連れてゆく。

そこで姉・穏が妹・なりんに切り出すベリィの今後の展望とは

というお話。

  第18話 ご褒美と、これからの話


 翌日。三人がキャンプ飯なブランチを摂っているところにベリ子が現れて現状を伝えた。

「援護くんから連絡があったわ。歩は検査が必要ってことでこのまま入院ですって。」

「歩くん、大丈夫なんですか!?」

「別に意識はあるしただ鎮痛剤でぼーっとするから受け答えが億劫らしいわ。」

「私たちお見舞い行ける感じですか?」

「今はちょっと待ってもらおうかな。でね、援護くんがそのままついていてくれるそうだから、

あたしはイベントの終わりまで主催者側の仕事をやり遂げて、それから病院行って交代することになってる。」

「はい…。」

「あなた達はこっち片づけて忘れ物ないようにして、鍵は事務所に返して歩のセレナでべリィまで戻って。

そこで帰宅解散ね。」

「え、運転どうすれば」

「まかせて。」

 穏が運転免許証を出して見せる。

「ずっと営業車転がしてたから。」

「ゴールドじゃないじゃん。」

「5年経ってないからよ。」

 そうして三人は畳み方を検索などしてテントをなんとかしまい、

グリルやコンロをがしがし洗い、コテージの中も片づけて荷物をセレナに押し込み、

最後にまたベリ子とそれから一緒にいたアイドルカフェのオーナーにお礼と挨拶を告げて、キャンプ場をあとにした。

 穏の運転に特に問題はなく、なりんもこりんもその点、内心かなりホッとした。

 なりんは車中で手早くSNSにメッセージを入力する。


ー歩くん おかげんいかがですか。

 お大事にね。

 援護くん お疲れ様。私たちは無事帰り道です

文化祭で会えるよね その前にも会えるかな


「帰りにスパ寄ってくわよ。」

「いいっすね!でもいくらかかるんだろう。」「そのくらいは持ってあげるわよ。これはあたしからのご褒美。」

「マジすか!お姉さん最高!」

「あたしも?」

「そうよ。」

「わるいね、お姉ちゃん。それに、歩くんや援護くんにもなんか申し訳ないなあ。」

「行かないなら車で待っててもいいわよ。」「入ります。入らせて頂きます。」


 程なくセレナはまた別な大駐車場に入った。

「スパってスーパー銭湯かあ。」

「ここでなんでもあるわよ。なんだと思ったの?」

「楽しませて頂きます!」

 広い浴場はやはり快適で、身体を洗って


露天風呂に浸かっていると、ああ、夏休み

楽しめてるなあ。ライブやりきったなあ。という充足感が改めて甦ってくる。

「昨夜はレラちゃんと一緒だったんだろ。なに話したんだ?」

 隣のこりんが聞いてくる。」

「愛はねえ、油断大敵なんだって。」

「なんじゃ?」

「離婚とかもゲンメツしたりさせたりで起きるんだって。」

「そうかあ?うちの母ちゃん父ちゃんなんて

油断しまくりのゲンメツしあいまくりで楽しくやってっぞ?」

「そうなの?」

「へがくさいだのけつがじゃまだのお互い言いたい放題だぞ?」

 それ片方はお母さんがいわれてるわけ!?」

「ケッコン生活なんてものはなあ、お互いゲンメツを乗り越えたとこにしか成立せんのじゃぞ、なりん。」

 したり顔でのたまうこりん。

 うちはお父さんの単身赴任がスタート早かったし長いからなあ。ゲンメツしあいも夫婦げんかも見たことないなあ。

でもそういう場合もあるのかもな、てことはレラ先生でもまだ見えてないものがあるのか。

 愛は深淵だなあ。

しかもレラ先生に見えてないものが見えてるのが、こりんとはね。

 あたしと援護くんは、お互いそれぞれのがっかりしちゃうような部分を、見せあえるかな。

 ー援護くんにも、当然あるよね。

そしてお互いに、耐えきって乗り越えられるかな。


そうして三人は大浴場を大いに楽しみ、サウナのあとの水風呂で程よい叫び声をあげ、

販売機のフルーツ牛乳に舌鼓を打ち、コインマッサージチェアに癒された。

 援護くんどうしてるかなあ。SNS見てくれたかな。

 畳の休憩スペースで大の字になりながら、なりんはなんとなく、この先もいつも一緒という感じにはならないんだろうなあとも思う。

昨夜テントで寝たのも、援護くん達が張ったテントで一晩眠れれば、どんな生活でも生きていけるのでは、なんて思ったからだ。

だが。むしろ必要なのは、自分の暮らしは自分で立てる生活スキルのほうだ。

それが援護くんと生きるための大切なすべのひとつで、援護くんもそれが申し訳ないから

自分では恋人もお嫁さんも作ろうと思わない、って言ってたんだ。

 さてどうしたもんかねえ。あたしも介護士になるべき?

「凜。あんた受験とか考えてる?」

 不意に穏が話しかける。

「えっ。」

 起き上がるなりん。

「短大ねえ、正直なくてもなんとかなった気がするよ?」

 唐突になにを言い出すんだよ姉。

「どういうこと?」

「資格とりなさいよ。いくつも。あたしも今始めてるから。」

 身の振り方の話かよ。ちょうど今そんなことをぼんやり考えていたところだよ。

「お姉ちゃん、テレパシーでもあるわけ?」

「ないわよそんなもの。人間真剣に生きてれば、誰がどう考えるなんて、だいたい掴めるわよ。」

 そんなばかな。

「ただそれを口に出させるのはあんたの天性ね。こればっかりは努力で身につくものじゃないわね。」

 正直自分でもいつからなんでそうなんだかさっぱり分からないのだが。」

「大学はねえ、福祉系とかもあるし、経済とかもあるから。資格もがんばるよ。ありがとうね、お姉ちゃん。」

「まあ、考えてみたら高校ちゃんと卒業出る方が先ね。」

「それはまあ。精進します。」

てか本当になんとかなるのかな。

正社員とか派遣とか、色々シビアなんでしょ?世の中。

「あたしねえ、ベリ子さん口説いて会社立ち上げようと思ってるのよ。即戦力になりなさいよ、あんた。」

 またとんでもない事言い出した。

「それで進学するなって言ってるわけ?」

「あんなもの時間の無駄よ。援護くんも引き込んで、合理的に稼ぎましょ。」

 援護くん!?

「お姉ちゃん、何考えてる感じ?」

「だから経営よ。」

「聞くの今度にする。」

「考えといてね。」


 ロッカーからスマホを取り出してみると、SNSに援護くんが返信してくれていた。


 ー皆 おつかれさま

 シマは元気ではないですが今は無事寝ています。

最高のステージでした バーベキューも楽しかったです

次は文化祭で会えると思います。

それではまた報告します。


 なりんも急いで返す

 

ー援護くん またね

 歩くんとベリ子さんによろしくね


 そこから帰りは高速で一本道、こりんはベリィから一駅の自宅に帰り、

澤菜姉妹はベリィで一泊することにして、ぼちぼちと荷ほどきにかかった。


「凜、さあ今度よ。」

「なに?」

「聞くの今度にする。でしょ。」

「今度早や…。」

「介護に保育 援護くんの生き方はある意味最先端よ。でもひとりじゃ必要な全ては担いきれない。」

「もう話始まってる!?」

「だから昼のベリィを利用してデイケアと学童保育とヘルパー派遣を組み合わせた複合福祉施設を始めるの。

 援護くんはその旗印よ。あんたに取ってほしい資格は保育士と会計と出来れば調理師とそれから」

「待てまて待て待てい!!」

凜はちょっと怖くなった。なに言ってるのよ やっとライヴ成功なんて一大事を成し遂げて

一緒にやった歩くんが入院なんて一大事もあって

危うくもう会えなくなりかけてた援護くんと少なくとも文化祭でまた会えそうだったり

これからも会えそうな言質はとれてたりとか成果も一大事も山盛りなところでしょう?

 それどころじゃないじゃない。

「それどころじゃない、て顔してるわよ。」

「そうよその通りよ!!いきなり何言い出してるのよ!」

「私ね、たぶん歩くんもう今まで通りに働くのも厳しいんじゃないかな、て思うのよ。」

「だから何言ってるのよ」

「だから。歩くん並みに動けるひとをベリィがこれから雇うとしたら人件費的に無理よ。

収支が覚束ない。てか追いつかない。だから理想をいえばきっぱり商売を変えるべきところだけど。

それをいきなり切り出すのはやっぱりお互い抵抗があるだろうから、最初は夜はベリィ続行ってかたちでね。

徐々に移行してゆければって思うのよ。」

「お姉ちゃん、恐い…。」

「歩くんの治療費もどうなるかわからないし、歩くん抜きのベリィはもって二年よ。

 負債も無理も膨らんでいくほうが余程怖いわよ。」

 だめだ、感覚が噛み合わない。

 じゃあ少しだけ向こうの土俵で話してみるか?

「お姉ちゃん。歩くんの容体に万一の事態が起きたとして。ベリ子さんひとりなら、

お祖母さまの頃のカラオケスナックとか、ただのバーにしたっていいはずよ?」

「ほう。」

「それがなんでいきなり福祉に繋げる発想になるのよ。」

「援護くんと助け合えるでしょ。」

「そのためにベリィを利用する気!?」

「利用というより活用よ。それに女ひとりやふたりだけで水商売は、危険が大きいわ。

 私たちは、援護くんと生きていくべきよ。」

「お姉ちゃん…。」

 援護くんの影響力は、近しい人々を結論に導きすぎる。

もしやお姉ちゃんも遠藤家の信也さんや、今入院してる歩くんみたいに、破滅しかねない!?

「お姉ちゃん、あまり援護くんをわるものにしないで?」

「なによそれ?」

 なんでもお見通しに見える穏が、初めて

疑問を口にする。

「話があんまりせっかちで、破滅的に聞こえるって言ってるの。」

「なるほどね。なんでそれが援護くんのせいになるのかは分からないけど。

 いいわ、歩くんの容体の報せを待ちつつで、

先ずはベリ子さんに話してみるわ。

 折を観てね。本当は、先にあんたを口説き落として外堀を埋めていきたかったんだけど。」

「ベリ子さんと喧嘩別れになっても知らないわよ。」

「大丈夫よ。ベリ子さんは冷静に観ているひとだから。

 むしろ渡りに船の話をしてあげられるんじゃないかしら。」

物凄い自信だ。やっぱ危なっかしい気がする。

「どうやらここはここまでね。このお話の続きはまた今度にしましょ。

 あんたにも整理して考える時間が必要だろうし。」

「…考えとくわ。」

 凜はそう口にした。正直、どういうニュアンスで自分がそう言ったのかは

自分でもよく分からないままなのだが。

ただ、頭のどこかで、姉の考え方にも一理あるような、

自分ではあまり受け入れたくないながらの自分の勘も感じていた。


穏の見解も鋭いし、いぶかるなりんの慎重さも もちろん間違ってないのです。

意見の衝突や見解の相違に、常に矛盾やどちらかの不正解が含まれているとは限りません。

皆で真剣に考えて臆さずにすり合わせをして物事が進んでゆきます。

願わくば 独断専行も鵜呑みも拒絶も、そこに偏らずに建設的にゆきたいものですね。

次回第19話「夏休みの残り」 実は残りあと2話(あるいは2,5話)だったりします。



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