第15話 撤収と搬送とめぐり逢い
「こりんTHEポーキュパイン」のオンステージは大成功!
しかし後片付けの舞台裏では、予想されていた歩の痛みの発作が…
そんな中で、共にクライマックスを盛り上げた盟友のアイドル達と
なりん達のめぐり逢いが始まる。
第15話 撤収と搬送とめぐり逢い
「どうもありがとう!こりんTHEポーキュパインでした!!」
こりんの挨拶でバンドの三人は一旦舞台袖にはける。ステージはアイドル達の振る手でまだ賑やかだ。
「歩くん大丈夫!?」
歩は用意してあったデッキチェアでうずくまっていた。
「痛み止めは飲ませたわ。今は効き待ち。
貴方たちは楽器片づけてコテージに撤収
私は主催者側の者として担当作業が山積みだからこのまま、
歩には援護くんがついててくれるから。」
「えっとあの」
「はい開始!」
歩の発作というのだろうか痛みはベリ子にとっては慣れたことなのだろう。
「えっとシマちゃんお大事にね!あとでまたくるから」
3人はステージに戻って舞台付きスタッフと共に片づけに入る。
次のバンドの楽器の搬入と同時に穏のドラムセットが次々解体され運び出されてゆく。
こりんとなりんも自分たちの弦をケースにしまって担ぎドラムや機材が積まれた台車をそれぞれ押す。
「こりんちゃん、夕食お呼ばれしちゃっていいの?」
アイドル達が声をかける。
「おう!来て来て!ベリィのコテージの前ね」
手を振って応えるこりん。
「ベリ子さん、一便め行ってきまーす」
広大な駐車スペースを台車を押して横切るバンドの3人。
「シマちゃんも心配だけどさ、」
「うん?」
「あたし達やったなぁ。」
「うん。やり遂げたね。」
頷いてなりんもやっと感慨を味わう。
「これ凄いぜ。ひと月で3曲!」
「会場の反応も良かったわね。」
穏も満足げだ。
「大盛り上がりだったよな!」
「そうだね。」
まだ誰にも褒められてないが、観衆の喜びようがなによりの勲章だ。
あたし達は、やり遂げた。
それは奢りでも甘えでもなく、確かな成果として実感できる。
「ライブって、いいもんだねえ。」
「こんなふうに大成功ならな。きっと何度でも味わいたいよな。」
「あんた達、ベリィの看板にならない?私と3人で」
「願ってもないけど、夜はどうなんだろうな」
「9時でギリかな」
3人で話も弾む。
一旦荷物をコテージに運び込んで施錠していると、
「こりんちゃーん」
「うおー!ありがとう!」
アイドル達が2便めの台車を運んできてくれた。
「これで全部ね。」
穏がリストと照らし合わせる。
「歩くんたちどうしたかな。」
「それで伝言なんだけど、ちょっと大事とって救急車呼ぶって」
「マジ!?」
「で、援護くんさん?がついて行くから、貴方たちはご飯たべちゃって、て。」
「大丈夫なの!?}
「救急車は駐車場の入り口のとこに呼ぶんだって。お見舞い行ってみよっか。」
というわけでバンド組3人とアイドル達とで台車を戻してから駐車場へ向かうと、
救急車はもう着いていて、歩達は問診を受けたところだった。
搬送先が決まり次第出発するが、今はまだ待機中という状況。
先にアイドル達が歩に群がる。
ここでもデッキチェアでぐったりしている歩。
「シマベさん、しんじゃうの?」
「しなないよ~。」
「あたし達、忘れないからね。」
「しなない、ってば。」
「お空でずっと見守ってね。」
「君たちを残してさあ、しねないだろお!」
歩がどこかに手を伸ばしたらしく、
きゃーーっと嬌声をあげて楽しげに八方に散るアイドル達。
まさに、「ただしイケメンに限る」というやつだ。
しかし、こんな生死のかかったからかい合いは見たことない。
なりんが呆気に取られていると、
「あたし達も家族や身内で修羅場見てるからね」
と、アイドルのひとりが耳打ちで教えてくらた。
そっか、皆苦労して今日このフェスに立っているんだ。
歩くんの演奏は無茶な企画だけど、だから皆かえって通じ合うのかな。
「なりんちゃん。」
アイドルが続けて話しかける。
「あの歌、めっちゃよかったよ。あたし、グッと来た。」
「ほんと?」
「うん。本当。きっとあたし達も、似たような思いでステージに出てるんだと思う。
あたし達の場合はアイドルに励まされて憧れてさ、それで自分もアイドル始めたんだけど。
きっと、私たちも『いつかの自分』な誰かの力になりたいんだよ。」
なりんも、胸が熱くなった。こんなに共感してくれるんだ。
「あの歌は、なりんちゃんが作ったの?」
「歌詞を考えて、最初は一曲目のメロだったんだけど歩くんが今のメロにお仕立て直ししてくれて。」
「あの調子でやるつもりだったの!?てか、それじゃ語呂が合わなくない?」
確かに。ベリィHOTの曲調で表す世界観ではないだろう。
「歩くんがほとんど切り貼りして。意訳ってくらい原型とどめてないけどね。」
「なるほどねえ。」
そこで援護くんが皆を集めた。
「今、シマの受け入れ先が決まりました。僕が救急車に乗ってシマについて行きます。
後は引き受けるので、皆さん予定に戻ってください。」
「はーい。」
「シマベさん、お大事にね。」
アイドルと歩が手を振り合う。援護くんは続いてポーキュパインの3人に、
「僕はたぶん今夜はこのまま病院で付き添いです。すみませんが、テントは明日皆さんで片付けして頂けますか?」
「しょうがないわね。」
「やってみるよ。これもキャンプの醍醐味だし」
「病院はここです。写メ送ります。」
画像が送られ、病院名と住所を共有する。
「なりんちゃん。」
「ん?」
「あれは、ぼくの歌?」
ここで挟むか!
「うん。そうだよ。」
「ありがとう。」
なりんの大好きな笑顔で微笑む援護くん。
なりんはとろけそうになった。
「それでは出ますよ。ご同乗の方。」
救急隊員が声をかける。
「それでは行ってきます。皆さん最高でした!」
「援護くん。」
「はい。」
「また、すぐ逢えるよね。」
「もちろんです。」
次の約束は、具体的には現状、裕人の文化祭発表への招待ぐらいだ。
そこまで伸びてしまうだろうか。
それから、あ、そうだ。
救急車に運び込まれる歩に駆け寄る3人
「歩くん、お大事にね。」
「おう。ベリ子に、俺のサックスよろしくって。」
幾分かの痛み止めの作用がようやく訪れたのか、歩が寝入りそうな声でこたえる。
「うん。今はコテージに閉まって鍵かけてあるよ。」
「そっかあ。じゃ皆、ごめんちょっと行ってくる。あ、それと。」
歩、目を開けてやや身を起こし、
「みんな、最高のステージだった。ありがとう。お陰で夢が叶ったよ。」
互いに顔を見合わせ、頷く一同。
「うん!」
救急車のハッチが閉じ、その場にデッキチェアが残った。
畳んでなりんとこりんのふたりで運ぶ。
「台車持ってくりゃよかったな。」
「なりんちゃん、あたしまだ販売とかファンとの親睦会とか残ってるから。」
さっき話したアイドルが挨拶する。
「そっか。大変だね。」
「済んだらまた来ていい?」
「来てくれるの?」
「うん。私、蛭子レラ。エビたんでもレラちゅでも好きに呼んで。」
「じゃあ改めて、私は澤菜凜でなりん。よろしくね、レラたん。」
「混ぜるか!じゃ、あとで。」
手を振り合うふたり。
10人ほどいたアイドルのうち、3にんが残った。
ひとりはこりんと特に仲のいい子で、あとのふたりは中学生くらいだろうか。
「あたし達はファンとの接触無しの条件で活動を許可されているんだ。」
「じゃあこれとっとと運んで夕飯にすっか!」
そこで穏がフェスTのスタッフを連れてきた。
「この人がそれ持ってってくれるって。コテージに戻りましょ。」
今回から登場の蛭子レラちゃんの実写化想定イメージは
アンジュルムの伊勢鈴蘭さん。
次回第17話「やり遂げた夜」では、なりんとレラのガールズトークが描写されます。
ところでこの実在なされてる方のれらたんさんは、日本史上初のアイドルといわれる明日待子さんとも
ご縁があるのだとか。その明日待子さんをモデルにしたNHKのドラマ「アイドル」には
アンジュルムのOG田村芽実さんと現役のハロプロさんたちがたくさん登場なされてます。
大好きなドラマです。