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なりんの援護くん  作者: なりた
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第11話 ここが粘りどころ

祖父・直樹の決断がなりん達の日々を一変させる。

青天の霹靂になりんは、そしてのんは!?

というお話。

  第11話 ここが粘りどころ


 夏休みも近い、ある日の澤菜家。

 母紀子がふたりの娘をリビングに集め、改まった雰囲気で話し始めた。

「穏、凜。よく聞いて。お祖父ちゃんがね、施設に移ることになりました。」

 え?と、ふたりとも一瞬かたまり、そのあと特に凜が動揺する。長女の穏は平静を装う。

「お祖父ちゃんもうね、お手洗いまで歩くの限界だったみたい。でもあたし達にはしもの世話はさせたくもされたくもないから、

自分が施設に入って専門職の人たちにお仕事としてお世話になるんだって。」

 専門の人の、お仕事…。

「それで、圭吾くんが夜間に勤めている施設がね。

お祖父ちゃんが圭吾君のいる施設がいいって言うから申し込みはしておいたら、

個室で空きが出て今なら入れるって連絡があって。

 少し無理をするけど、決めました。」

 無理とは出費のことだろう。介護に時間をとられなくなるぶん、

母はパートを増やす事で賄うつもりだろうか。だがそれもさておき

援護くん。

凜の頭の中はほぼそれだけで占められている。

「そういうわけで、もう連絡が来次第お祖父ちゃんは移ります。凜、もう部活もバイトも自由よ。でも、

ふたりともお見舞いには行ってね。私もなるべく通うことにするから。」

「お見舞い。」

 お見舞いに行ったら、援護くんに会えるかな。

あ、援護くん夜しかいないんだ。

それってじゃあ。

もう、逢えないの?



 分かっていたはずなんだけどな。お父さんにも念を押されたし、その時私も分かっているって、そう答えた。だって、

一緒にいられるように進路を考えるって、そういう目標でいたから。でも、

待って?こんなに早いの?それは、考えてなかった。

待って、間に合わない。繋がりが、援護くんとの時間が 途切れちゃうよ。

「凜、しっかりなさい。辛いのはとてもよく分かるから。」

 並んで座るのんが、横から声をかける。

 呆然としたままな凜の顔がそちらを向く。

「あたしは小学3年生だったわよ。あの時のあたしもたぶんそんな感じだった。凜、気をしっかり持って。

 あんた3年生よりかは、状況をなんとか打開できる年でしょ。」

「お姉ちゃん。」

「SNSだってあるし、歩くんだって援護くんとお友達になったんでしょ?

 べリイで会えばいいじゃない。援護くんだって、休日はあるでしょ?」

ベリィ?そうか、お姉ちゃんが見つけ出したベリィ。そして、歩くん。

「滑り込みのセーフだったわね。援護くんが通う理由のなくなったこんな女所帯に出入りするのは変でも、

お休みの日に友達のバーに来るのは、なんの問題もないわよ。」

 用意してあったのかもしれない滑らかさで、穏が理屈を口説く。

「高校生で大人の援護くんと会うのが変だったら、あたしが保護者でついててあげるわよ。

 いい?凜。ここが粘りどころよ。」

「粘りどころ?」

「もう一緒にいる理由はないんだから、ここから先はあんたが援護くんといたいかどうかなの。

あんたの意志だけなんだよ。」

「お姉ちゃんは?いいの?」

 まだ呆然としたままのぼんやりした顔と口調で、凜が切り込む。そんな状態だから切り出せたことか。

「援護くんには、あんたよ。あたしは援護くんにとって、守ったり助力したりの対象でしかないの。

そんな中のひとりなの、結局。 原点の、最初のひとりだけどね。」

 最後の一言には誇らしい自負も覗く。

「それはあたしだって。それに、援護くんの気持ちだってあるし」

「あんたがそれでいいのか、よ。あたしはね、あんたほど援護くんな圭吾くんの力にはなれない。

 援護くんさんはどうせ、人の助けになることに夢中で、誰かと恋なんてできないわよ。

あんた、圭吾くんをみんなの援護くんのまんまのひとりきりにする気?」

 そうだろうか。私、援護くんが人に好かれるところしか見たことないんだけど。

そんな援護くんが、ひとりきりになんてなるかな?

「それとも、援護くんが誰かと幸せになれるなら、それでいい?なら、これっきりよ。」

 これっきり。これっきり。今こんなに寂しくて辛くて、でもそんな思いも、青春の1ページとかで済ませられることなの?あたし。

「援護くんが話しかけたのは、あんたなのよ?」

「でもね、お姉ちゃん。お姉ちゃんが元気かって、援護くんそう聞いてきたの。」

「あんただからよ。ほんとの両親にだって捨てられてもそれでよしとしてた圭吾くんが、初対面のあんたには、甘えたの。

 援護くんがこの先、誰に甘えられると思う?

 それは知れなくても、あんたなら噛みあうのよ。それが今分かってるなら、なんであんたが遠慮するのよ。

 いつ現れるのかも、いるのかすらも知れない誰かに」

「お姉ちゃん、おかしいよ。なんで?」

「あたしじゃ終わるの。あるいは、圭吾くんを操っちゃうの、一方的に。そんなのいや。

 でもあんたなら、きっと終わらないから。

関係だめにしないから。あたし、自分なんかよりあんたのことをよっぽど信頼してるわよ。」

 まだまだぼんやりとしたままの頭で、凜が姉を見つめる。姉の穏が、真剣に見つめ返す。

 そんな娘ふたりのやりとりを、母の紀子が見つめている。

「あんた達、お祖父ちゃんのお話なんだけど。それは分かったの?」

呆れ気味の口調ではあるが、義父の去就が直結して圭吾こと援護くんとの関係の存続の話になることは、

母な紀子にだって分かっていた。

「ええ。お祖父ちゃんが移ったら、お見舞いに行くわ。お花だって果物だって買っていくわよ。」

 穏が答える。

「ね?凜。」

「うん。お祖父ちゃんに、会いに行くよ。」

「そうなさいね。今夜はお祖父ちゃんと皆で晩ご飯食べようね。お祖父ちゃんにとっては、

この家でご飯食べるのはもうほとんど最後に近い事かも知れないんだから。」

 母が率直に言う。そこまで直接に言わないと、援護くん援護くんでうわの空の次女には

沁みないであろうから。

「分かった。」

 確実に分かることにから、分かったと答えることにする、凜。

「凜、他人の苦しみも受けとめて受け入れて、自分の苦労は呑み込んじゃう援護くんが、

胸の内を明かせるのは。あんたの前でだけなの。

 お願い。援護くんの助けになってあげて。」

穏が念を押す。

「そっか。…そうなのかな。そうかな。」

「そうよ。凜。そして、なりん。あんただけがそうしてあげられるの。」

「分かった。あたし援護くんに話してみる。これからも私と会って、って。」

 それを聞いた穏がほっとした顔をして、微笑む。

「よかった。ありがとう、なりん。」

 あたしのなりんって、今やひとつの意味ある呼び名になってるんだな。

よし、分かった。

背負ってやるわよ、この名誉。

この事態に一方援護くんはどう反応するのか、というのは次のお話に。

で、次回はそれのみにとどまらず、そこからの展開で盛りだくさんです。

物語は更に思わぬ方向へ!?次回、大長編。

 第12話 ロックフォー援護くん

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