赤く染まった手 ――過ち――
今日遭った出来事です。
赤く染まった手。私はただそれだけを見つめ呆然と立っていた。
「なん……だ、これは………」
――急げ。
私はただその一言を脳裏に焼き付かせた。
「隠蔽せねば。さもなくば――殺される」
体中に冷汗が出てくるほど私は焦った。まず何からすれば良いのだ、何をするべきなのか。なぜ、このようなことが起きてしまったのか。
私は焦りに焦った。
赤く震えた手を再び見た。そして、もう一つ赤くなったブツを見た。
赤い。
「なんで……だ。なんで、こんなことが……」
私はまた呆然としてしまった。
――何をやっている。早くブツの処理をしろ。
誰かが私に言った。だが、それどころじゃなかった。私はしてはいけないことをしでかした。そんな事実から目を覚ますことができなかった。まるで、目覚めることができぬ、悪夢。
――早くしろ。ヤツが来るぞ。
その一言を聞き我に返った。
「ヤツ……が来る……のか」
私はとりあえず近くにあるティッシュ箱を手に取り、一枚、二枚、三枚……無我夢中でティッシュを取り出した。これじゃ足りない、これじゃ足りない。私はひたすら取り出した。そして、取るたびに赤く滲むティッシュ。まさかティッシュもこのようなことになるとは、夢にも思わなかっただろう。
「すまないな、私の処理作業に付き合わせてもらって。だが、これで共犯だ……」
私はそう思いながら、赤く染まったブツをティッシュで拭き取る作業に取り掛かった。
だが、そう上手く物事は進まないものだ。
「な、なんでだ! なんで完全に拭き取ることができないのだ! これじゃ隠せないじゃないか!」
何度拭いても、擦っても、拭き取ることができない。何故なんだ? 何が起きてるんだ?
――水だ。
また声がした。そして、私は考えた。
「水……ティッシュ……、なるほど、ウェットティッシュだ」
私の近くにあり、ヤツにバレずに対処する方法がウェットティッシュ手法だった。
ウェットティッシュ手法。一番典型的な手法でありながら、実用性と汎用性を兼ね備えた手法だ。日常的にも使われていることから、多くに使われているが、詳しくは知られていないだろう。殺菌作用もあることから、健康にも良い。こんな素晴らしいものが、数百円程度で変えてしまうなんて……時代だな。
そして、私は急いでウェットティッシュまで行こうとした。その時、ウェットティッシュの近くにヤツが近づいた。
――まずいことになったな。お前。
ああ、まずいことになってしまったな。このまま取りに行ってしまえば、バレてしまう。そこで、私はヤツに気付かれないように取る方法を必死に考えた。
隠れながら取るか? いや、離れるまで待つか? だが、それだと間に合わない。じゃあ別の方法を――
――考えている暇があるなら、隠れて取りに行け。目的を忘れるな。「時間内に拭き取る」のだ。
その言葉を聞き、私は急いだ。そうだ。時間制限もあるではないか。
私は壁に張り付いて覗きながらウェットティッシュを見つめた。まだ、あるようだが、ヤツもまだいる。
「早くどっかいけよ……」
私は焦りと緊張感から不安になってきた。
不安は触れることできない、過去や未来から起きてしまう。
さっきのような赤く染まった事件から、今から取りに行くウェットティッシュ。ダブルで不安を感じることで、更に不安に感じた。今までにないな……この不安な気持ちは。
緊張感で圧迫された空間。その時、ヤツは仲間に呼ばれその場から立ち去った。
「チャンスだ」
私は物陰に隠れながらゆっくりとウェットティッシュに近づいた。
一歩二歩、三歩四歩……
私はゆっくりと前進していった。
――ゴツン
角に打つかってしまった。まずい、と私は焦った。バレたか? バレたか? ただそれだけを思い続けた。だが、ヤツのほうを見てみると……まだ話しているな。
私は再び前進をした。
「……取った」
手に取ったウェットティッシュの箱は、赤く染まった手によって、色が移ってしまった。
「まずいな……これだとやってしまったことがバレてしまう」
とりあえず、このことは後にしておいて、この場から離れることを優先にした。
「ま、まずい……声が近づいてきた」
私は急いで戻ろうとした。だが、さっきは運が良かっただけで、今度は床に散らばっている棘やゴミ、コンセントが足の裏を刺してきた。まるでヤツらの罠のようだった。
痛い。痛い。
私は我慢しながら進んだ。声に出そうなくらい痛かった。だが、ここで出してしまえば、さっきまでの努力が無駄になってしまう。ただそれだけは避けたかった。だが……
「痛っ……」
注意はしていたが、あまりにも痛みが続き、更に痛みが増えてしまって声が出てしまった。
これだとヤツらにバレてしまうのでは……そう思っていた。
だが、偶然にもヤツらは会話が盛り上がっていたことから、私の声は聞こえていなかったようだ。
ふう、と私は安堵し前進した。
「よ、よし……やっと着いた。後はこれで拭き取れば問題ない」
早速、ウェットティッシュの箱の中から一枚、取り出した。
「結構アルコールが染み込んでいるな。私に染み付いている赤も若干滲んできている。これでやっと悪夢から目を覚ますことができるな」
――拭き取れない。私は目を疑った。何が起きているんだ。ウェットティッシュなら拭き取ることができるだろ! なんでなんだ! 濡れてるじゃないか! なんでできないんだ!
私は必死に擦った。必死に拭いた。必死に拭き取ろうとした。だが……
「完全に取れない……、若干薄くはなったがそれだけだ。これ以上薄くなくなり、なくなることがないだと」
手が止まった。
次の動作が、できない。
ただただ上から下へ、そう拭くことができない。
次に赤く染まるのはこのブツじゃなく、私かも、な。
――何を言っているんだお前。諦めるな。拭き取ることだけを考えろ。
はっ、私は忘れていたよ。何のために生まれたのか、何をするべきなのか。私は私の使命を忘れていた。
「そ、そうだな。忘れてしまっていたよ。ありがとうな」
私はその言葉を受け取り、再び拭き取る作業に取り掛かった。
全然拭き取れそうにない。ティッシュも交互に使った。だが、全然効果はなかったようだ。
「これじゃ……できない……か」
足音がする。
ヤツが……私を呼んでいる。
絶望。
無茶。
私の今の状況にピッタリな言葉だった。
「……何をしているんだ」
ああ、神よ。私はもう生き残ることはできないでしょうか。この悪夢から目を覚ますことはできないのでしょうか。
まったく、神もなかなかのいたずら好きだな。ウェットティッシュの効果を半減させてしまうなんて。これだから……
「何をしているんだって聞いているんだ」
「あ、ああ、ペンの先端が壊れて、文房具と手が赤に染まった」
「何してんだお前。もしかして、この前俺が買ったやつか?」
「そ、そう」
これで終わりだ。もうすべてを自白するしかない。ただただ、事実を述べるだけしか、私の最期はできなかった。
「父さんがまた買ってこようか」
……買ってこようか?
私はその一言を聞いて、希望が見えた。悪夢から目を覚ますことができそうだ。曇りの中、一つの光。希望の光が私を照らした。
「ま、まじ?」
「まあ、嘘だけどな。自分で買ってな」
ああ、いたずら好きなのは神だけじゃなかったのね。
せっかくだからクッッッッソ大げさにしました。
これから印象に残った出来事を大げさにしていこうかなって思いますね。
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