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第三十五話 甘くて溢れそう(イリアム目線)

「そうか……」


 その日、いつものようにソフィアと就寝前の時間を過ごしていると、徐に取り出されたのは手書きのメモだった。


 ソフィアの机の引き出しに引っかかっていたという。

 確かにソフィアの部屋は初代当主様が使っており、机も同様に代々引き継がれて来たものだった。


 気になるのはその内容だ。


 魔力の根源が闇の力ということに、ソフィアはいたく驚いていたようだが、今の王国の状況――王家への不満や不安、魔力の暴走が急増している状況を鑑みてもあながち間違いではなさそうだ。


 ソフィアが危惧しているように、記述の時代と今の状況は酷似している。下手をすれば魔竜までもが顕現しかねない、そんな言いようのない不安がねっとりと絡みついてくるようだ。

 ソフィアという『封魔の力』を宿した稀有な存在がまた、数百年前と同じ出来事が起こることを予見しているようでもある。


 だが、当時の記録を読む限り、魔竜が現れるには依代となる人間がいるように思える。

 自ずから魔竜を呼んだのか、あるいは邪な心が魔竜を呼び寄せたのか――


 最近、当時の文献を片っ端から読み漁っているが、確か当時の宰相の記録も含まれていた。

 時の宰相は過去の記録を見ても黒い噂が絶えない人物であった。当時の王家は宰相の傀儡同然で、無慈悲な政策や過度な税の取り立てなど、好き放題していたらしい。当時の国の様子はそれはもう酷いものだったようだ。



 いや、今の王家も大差ないか……


 考えを巡らせている間、ソフィアはどこかソワソワと落ち着きがなかった。

 どうかしたのか尋ねると、今の体勢が落ち着かないらしい。恥ずかしそうに顔を覆う姿が愛らしい。


 俺は慰労会のあの夜から、より一層ソフィアとの時間を大事にするようになった。

 ソフィアを膝に乗せていると、ふわりと石鹸の香りがして心が落ち着く。彼女の力も関係しているのだろうが、彼女の存在そのものが俺の心を癒していく。


「慰労会の件で痛感した。いつ死ぬかも分からないんだ。少しは自分の気持ちに正直に生きようと思ってな」


 思わず漏らした本音に、ソフィアは目に涙を浮かべて声を怒らせた。


「冗談でも死ぬだなんてっ、言わないでください!」

「すまない。安心してくれ、俺は簡単に死ぬ気もないし、ソフィアを置いて居なくなったりはしない」

「……約束ですよ?」


 安心させるようにソフィアの頬を撫でると、ソフィアは俺の首に腕を絡めてきて、驚きのあまり一瞬息が止まってしまった。その肩は僅かに震えていて、不安でいっぱいなのだと思った俺は、そっと彼女の腰に腕を回した。


 今度はソフィアが驚いたように顔を見上げてきた。


 ソフィアの視線は甘やかで、『好きだ』と言われているように錯覚する。そしてその度に、都合のいい考えをするなともう一人の俺が脳内で警鐘を鳴らす。



 少しは俺を男として意識してくれているのだろうか。


 二人の時間を重ねるごとに、ソフィアへの気持ちは募るばかりだ。



 あまりにソフィアの表情が、声が、醸し出す雰囲気が甘やか過ぎて、もっと彼女に触れたい気持ちが芽生える。このままだと、近い将来彼女への渇望を抑えきれなくなりそうだ。



 それならば、ソフィアと時間を重ねた今ならば――この燃えるような想いを伝えても、いいのではないか?そんな思いが脳裏をよぎる。



 ちょうど来週には休みが取れそうだ。

 以前少し考えていたが、二人で街へ出掛けて、王都を背にし、夕陽を見ながら俺の気持ちを伝えよう。


 ソフィアに休みのことを話し、王都の街に誘ってみた。


 彼女は大いに喜び、花が綻ぶように笑顔を咲かせてくれた。

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