表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界ファンタジー

エルフの村焼失祭

作者: 平之和移


オークが集まっていた。エルフを襲うために。


夕方、森の深部。オーク達は下卑な口を開けていた。彼らの目指す先はエルフの村。彼らは美しき森の外れ、人工物でできた住居の住人達である。傍から見れば人間の村と変わらない。


オークはエルフを憎んでいる。理由はない。ただ、彼らが美男美女であるため、としかワケは見つからない。


一番大きなオーク、その側近が揉み手で問う。


「へへっ、兄貴、エルフ共はもうすぐ寝静まりまっせ。あいつら、どうしてくれやしょう」


大きなオーク、兄貴と呼ばれた彼はあごに手を当てた。賢しげに見せる。


「まず、燃やす。畑も、奴らの信仰する森も、男も女も全部だ。いや、女だけは残すか?」


「男も絶品でしょう!」


オーク達は笑った。下品かつ、低劣の極み。


彼らは森より出発し。おぞましき牙を出す。現れし月が、忌まわしき彼らを覗く。


歩いている内に、異変を知った。鼻を動かして臭いを嗅ぐ。火の臭い。木々が焼け、灰を醸す。さては山火事か。森を焼かれたはこちらも危険。オーク達は死の恐怖を肌に刺され進む。


だが、火の香りは濃くなるばかりだった。流石に大きなオークも不安に思う。配下のオークも、不安を情けなく顔に表した。


側近が見てくる。大きなオークは鬨の声をあげた。配下は呼び声で答えた。士気を上げ、恐怖を除き、駆け出した。


森の外へ。火が家を焼いていた。エルフの村が焼かれていた。


だがそれだけならばオークの侵攻を止められない。彼らの足を地面に留めたのは、エルフの姿だった。お祭り衣装で、晴れの日を祝っていた。ならば家を燃やされさぞ不幸だろう。……とは思えないほど、彼らは狂喜乱舞。まるで、家を燃やして喜んでいるようだ。


「いやーいい焼けっぷりだ。マル、お前何を使ったんだ?」


「王道の油さ。牛からいっぱい搾り取った」


「テメー、マル。最高だなおい。次はオレの家だぜ。テメーには絶対負けないわ。見てろよ」


まるで、ではなく本当に喜んでいた。オークの側近は恐る恐る、兄貴とやらに聞く。


「兄貴、もう燃えてますぜ。しかも、エルフの連中自分で焼いている」


「一体どういうことだ?」


呆然と立ち尽くす彼らに誰かが近付く。エルフの美女二人。オークはいきり立った。けれど彼女らの手に持っているものを見て、彼らの主砲は冷却される。二人は火炎放射器を持っていたのだ。


「あー」一人の女エルフが上品に言う。「貴方達。オークね。私達の祭りを見に来たのかしら」


ロングの金髪に見とれて、言葉も出ない。隣にいる、お団子にまとめたエルフも会話に参入。


「あんた達!見たところ燃やせる物持ってないじゃん。あたしらの使う? 火炎瓶だけど」


「あ、いやあの」側近はたまらず口を開く。「何してるんですか。あと、その背中や手に持っているものは?」敬語になってしまう。


「あんた達知らないのね。あたし達は自分の村を燃やしてるの。より激しく燃やした人が評価されるわ。最高の祭りじゃない?」


祭りとはいえ家を焼くとは。正気ではない。お団子エルフは続ける。


「あと、火炎放射器見たことないの? これはM1火炎放射器よ。アメリカ製で、信頼できるわ」


「かえんほうしゃき?」


ここは中性ヨーロッパ風トールキン的異世界。科学兵器なんてない。けれどもそのような物を持てば、内容を知らずとも無知故の恐れで萎縮させられる。


エルフは唇を挑発的に舐め、天に向けて火炎を放射した。ドラゴンのブレスの如く吹き出し、オーク達を腰抜けにした。彼女、ロングのエルフは言う。


「どうかしら。これで家を焼くのよ。楽しいから、オークもどう?」


「いやいや」大きなオークは困惑のため冷や汗を流す。「オレ達はあんたの村を燃やそうと思って」


「ねぇ聞いたモチちゃん!」たまらず、といった様子のロングのエルフ。「この人達も私達と一緒よ!」


「最高の同士ね!」モチと呼ばれた団子のエルフ。「あんた達も祭りに参加すべきよ。家を焼くナパームの香りは最高よ!」


オーク共の表情といえば、戦々恐々。よく知らないが近代兵器を多数所持している。そんな連中を襲おうとしたのだ。もし村が燃えていなかったら。想像するだけでも肌がチリチリ。


オーク達は渋々祭りに参加する。大きなオークと側近は二人で行動した。どの道、近代兵器に数では勝てない。


村まで入ると、大惨事が喜びとして広まっていた。自身の家を燃やす幼い少女が、片手に焼夷手榴弾を持つ。観客のエルフ達は酒を飲む。中には酒を火に注ぐ者も。またはフライパンを持ち出し、肉を焼く者も。魔法を使おうなんて露も思っていない。


大きなオークは怖じ恐れながらも、男のエルフが音頭をとっているのを見た。男エルフはまだ火を知らぬ家の前に立っている。これからの狙いはオークであろうと不思議ではない。


「さぁさぁ皆さん。これからボクの家を燃やそうと思います。みんなに負けないぐらい燃えますよ!」


エルフの注目が集まる。喚きたて、炎を煽るエルフ達。男エルフは片手にポリタンクを持っている。中身は液体。何であるか察したエルフ達は離れ始める。オークも空気を読み下がる。


男エルフは家に入り液体を撒き散らす。独特の臭いが鼻につく。家を破り、壁にさえ晒す。木製の家が水浸しになる。


男エルフが家から出た。弓を取り、矢の先端に火をつけ、放つ。矢の火は液体に当たり、瞬間、大地を割る轟音と特大の火が夜空を照らした。オーク達は知らないが、あれはガソリンだった。木っ端微塵の家を鑑賞し、エルフ達は拍手喝采を送った。


だがこれで終わりではなかった。吹き飛んだ家の瓦礫が、空中でさらに爆発。花火が舞った。花火の火、一つ一つが焼夷弾だったため、地上に落ちて炎上する。男エルフは満足そうに笑っていた。


美女エルフ二人は恋をしたように頬を赤らめた。ガソリンはいい。先程のタンカーを突っ込ませての爆発炎上もよかったが、これも乙なもの。


次に名乗りを挙げたのは、優しそうな老女エルフだ。オークは彼女の相貌を見て安堵。いくらこのエルフ集団でも、あの老女ならば派手なことは無理だろう。せいぜい松明ぐらいだ。


だが彼女はどこかへ消えたかと思うと、空にステルス爆撃機が現れた。天空から焼夷爆弾を落とし、邸宅を地獄へ変えた。老女は賞賛を受けた。


盛り上がったのか、調子のよさそうな少年が進み出た。


「オレだってやる!」


彼は松明を家に投げた。ガスバーナーで家を炙る。


辺りがシンと静まり返った。興醒め。エルフの表情に嫌悪が混入。オークは空気だけで失禁した。


「お前、これで家を燃やしたと言うのか」


「最低ね。お前が燃えるべきだわ」


少年エルフはあれよあれよと取り囲まれ、理不尽なまでに殴られる。可愛げのある顔は赤く膨れ、足を引きづられ火の中に入れられた。さらに硫酸入の水鉄砲により撃たれる。高い悲鳴が中から木霊する。しばらくして、悲鳴はなくなった。


一人のエルフが火中に入り、少年エルフの死体を持ってきた。「よく焼けてるぜ」と言い、服を剥いでナイフで肉を抉りとって……オーク達はその後を見ていない。


銀髪のエルフが肉を持ってきた。


「食べる?」


「いや、いい。どうかそれをオレに見せないでくれ」


大きなオークのことがエルフを不満にさせつつ、最高に新鮮な子羊の肉を食べた。


村長のような威厳を持つ老エルフが、オーク達のもとにきた。


「いやぁいい祭りでしょう」朗らか声。「どうです? 一つ貸しますから、貴方も焼きます?」


オーク達は震え上がった。見咎めるエルフの目。整然たる直立により恐れの露出を防ぐ。けれども、足の震えは収まらなかった。


大きなオークの側近に救援要請の目をくれた。彼はわずかに首を振った。もし、断ったら。まず殺される。参加したとして、低い評価を受けたら。まず殺される。参加して、高い評価を受けなければまず生き残れない。エルフ達は近代兵器を所有しているのだ。オークの筋力だろうと燃料になるだけだ。


「や、やります」


死地への覚悟を持って答える。相手のエルフは笑って、家を指した。


田舎町によくある藁葺き屋根の家。


「どうぞあれを燃やしてください。貴方なら、立派に燃やせるでしょう」


「いや! いや! お待ちください」側近が止める。興味が集まる。「折角ですので、燃やすのは私達の家にしましょう。そう、私達の森を!」


拍手の合唱。オーク達は唾を飲み込み、発想の妥当性を知る。家を焼くより森を焼くほうが幾らか派手だ。評価を稼ぐならこれしかない。


早速人々は移動。森に入り、オークが動くのを待つ。側近が耳打ちした。


「兄貴、部下を殺すのはどうです?」


「そんなことできるかよ。何をするつもりだ」


「部下に火をつけて草木に追い込み、森を燃やすのです。少しの犠牲で我々は生き残れます」


「さて、そろそろよろしいですかな?」


威圧ある咳払い。大きなオークは牙を舐め、苦渋ながら決断する。


近くにいた部下のオークを引っ張る。エルフかれ油を引ったくり、部下へかけた。そし松明で彼らを燃やした。火をつけられたオークは悲鳴をあげ泣いて苦しむ。誰も火を消そうとしない。


「木に走れ! 擦り付けば消えるぞ!」


腐ってもボスの言うことだ。オーク達は木々に走り、密着し、だが炎上した。木も炎に焦がされ、枝葉が煌々と煌めく。隣接した木にも広がり、あっという間に火事となった。動物たちは逃げ惑う。虫は声なく死ぬ。鳥の悲鳴が耳を打つ。エルフの狂声が響き渡る。


エルフ達は実にた楽しそうだ。大きなオークは部下殺しの罪に苛まれたが、同時に生存の感動に胸を揺らした。


「ねぇ」ポニーテールの女エルフが嬉々として話しかけてくる。「もっとやってよ。あれが見たい」


「いや、流石にもう……」


側近が断る。片眉を上げ、睨んでくる。


「これじゃ足りないよ。次はあんたらだ」


油をかけられ、火をつけられ、蹴り飛ばされ、側近は森の中へ消えた。あの油は水に浸かった程度では消えない火を作る。彼は死んだ。


「もっとやろうぜ!」


エルフ達は生き残りのオークに火をつけた。彼が熱に苦しむ姿が滑稽で、下品に手を叩き笑い転げた。大きなオークは抵抗したが、デイビークロケットを向けられたので腰を抜かした。当然焼死。


オークがみんな死んでしまった。まだ楽しんでいたエルフ達は互いを見た。言った。


「自分達を燃やそう!」


彼らは油に飛び込み、火をつけ、燃える仲間を目にして、溶けた口で笑いあった。


エルフ達は全滅した。




後日、旅人が来た。焦げてなくなった村と森を目にした。焼死体の腐臭が鼻につく。彼は言った。


「エルフの村を襲ったのはオークに違いない。やはりオークはクソだな。仇を取らないと」


オークはこれ以降個体数が激減した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ