第5話 試射
正午過ぎ。
パソコンの電源を落として一息ついた。
手元には印刷したばかりの資料がある。
猟銃の使い方を記したものだ。
ネットを探して見つけてきたのである。
内容は記憶済みだった。
よほど慌てていない限り、操作全般で困ることはなさそう。
猟銃は二連式だ。
弾は散弾が二十四発あった。
決して無駄遣いできない数だが、心強いのは確かだろう。
とは言え、散弾でも素人では命中率も低い。
基本的には近距離や中距離で当てることになるはずだ。
血で汚れたスーツを着直すと、猟銃を手に自宅を出て階段を下りていく。
今のうちに試し撃ちをしておこうと思ったのだ。
無駄遣いは良くないが、温存しすぎて使い心地を知らないのも問題である。
せめて一発か二発くらいは撃ってみるべきだと思った。
猟銃の他にも、包丁をポケットに仕舞っていた。
咄嗟の時に引き抜けることも確認した。
もし敵わないようなモンスターに遭遇した時は逃げ出せばいい。
そういった考えで地上に降り立つ。
中腰で移動していくと、マンションの駐車場の陰に一体のゴブリンを発見した。
ゴブリンはビニール袋を漁って菓子パンを齧っている。
買い物客を襲って強奪したのだろうか。
何にしても隙だらけだった。
膝立ちで猟銃を構えて、ゴブリンの背後から発砲する。
突き飛ばすような衝撃と、鼓膜を破るそうな銃声に顔を顰める。
散弾はゴブリンのうなじから後頭部にかけて炸裂した。
鮮血が飛び散ってアスファルトを汚す。
前のつんのめって倒れたゴブリンは痙攣していた。
しばらく待っているうちに動かなくなった。
今の一発で死んだようだ。
死体に近付いて状態を確認する。
頭部が砕けて脳が露出していた。
吐き気を催す光景だが、昼食を食べていなかったのが幸いして気分を害するだけで済んだ。
これで猟銃の使い勝手はだいたい分かった。
発砲の瞬間は少し驚いたものの、威力は抜群である。
先制して撃つことができれば負けない。
試射はもう十分だろう。
あとは自宅内で各種動作がスムーズにできるように練習しようと思う。
その時、背後で物音がした。
すぐさま振り向くと、自動車の脇からオークが現れる。
手には血みどろの鉄パイプを握っていた。
あの時、落下したゴブリンを持ち帰った個体だ。
まだこの付近にいたらしい。
きっと銃声に反応して戻ってきたのだ。
オークが雄叫びを上げて突進してくる。
咄嗟に二発目を発砲すると、散弾はオークの右肩辺りに命中した。
しかし僅かによろめかせただけで、突進の勢いが止まることはない。
勢い付いたオークが鉄パイプで突きを放つ。
その一撃はこちらの腹部にめり込み、身体を大きく吹き飛ばした。