第32話 夜間調査
夕食を終えて家屋を出発する。
反省点を活かして装備は整えた。
まず左右の手には拳銃と包丁を持っている。
これは変わらない。
敵との距離に合わせて使うことになるだろう。
コートのポケットにはカッターナイフとハサミを忍ばせてみた。
両手の武器が無くなった時の予備だ。
素早く取り出せることも確認してある。
太腿にはビニール紐で包丁をくくりつけておいた。
これも予備の武器だ。
体勢的にポケットが触れない場合を想定したものである。
腰には引き続き拳銃を吊るしていた。
状況次第で使い分ける形にしたいと思う。
リュックサックには他にも数種の武器や道具があるが、戦闘中に持ち帰る余裕はない。
だからこれらは念のための備えだ。
どうしても武器が補充できない場合に手を出すことになる。
全体的に刃物を上手く使うための装備になったのは、モンスターに有効な戦法が分かった証拠だ。
オーガの変容を得たことで、さらに膂力が上がったことだろう。
下手に銃を撃つより強力な肉弾戦が可能になったはずである。
ゴブリンくらいの手軽なモンスターで検証してみたい。
そう考えて付近を探索するも、なかなかモンスターに遭遇しない。
どこか遠くから咆哮や悲鳴が聞こえるが、おそらく距離がある。
大雑把な方角しか分からず、現場に駆け付けられるか微妙だった。
今は自宅からあまり遠くへ行きたくなかった。
夜間の探索は短時間で切り上げるつもりだ。
あと一度か二度の戦闘を終えたら、さっさと自宅で眠りたい。
周囲の気配を意識しながら移動すること数分。
前方にコンビニを発見した。
地方限定のマイナーな店舗だ。
自宅の最寄りというわけではないが、通りかかった際に何度か利用したことがある。
文明の象徴とも言えるコンビニも、現在は何がいるか分かったものではない。
無防備に近付かず、とりあえず近くの物陰から観察した。
深夜でも堂々と明かりを焚くコンビニは、道路に面するガラスが割れていた。
そこに車両を並べて駐車することで即席のバリケードにしてある。
駐車場には血痕と死体があった。
人間とモンスターらしき残骸が散らばっている。
滅茶苦茶に損壊しており、正確な数が分からない。
それらが腐敗して異臭を漂わせていた。
店内には複数の人影が見える。
目を凝らすと容姿が確認できた。
武装した一般人がコンビニを占拠しているようだ。
ヘルメットとマスクで顔を隠す彼らは、手製らしき盾を持って店内を徘徊していた。
バットや包丁が主な武器で、クロスボウを所持する者もいる。
全部で何人いるかは不明だ。
見える範囲では五人程度だが、姿が確認できないだけで店の奥にいる可能性もあった。
ここで一つの決断を迫られる。
他の生存者の拠点を発見したが、一体どう動くべきか。
物陰から動かず、少し考えてみることにした。




