第3話 銃
ゴブリンの死を目撃した後、すぐに自室へ戻った。
玄関に包丁をゴルフクラブを捨てて、汚れたスーツを脱ぎ捨てて浴室に向かう。
全身をよく洗い流した後、部屋着姿になってソファに座った。
リモコンでテレビを点ける。
臨時ニュースは飽きたので、適当にチャンネルを変えていく。
そのうちアニメの再放送を見つけた。
音量をいつもより大きくしてからリモコンを置く。
タイトルだけ聞いたことがあるが、内容は知らない。
確か子供向けながら奥が深いと話題になっていたと思う。
この状況でも放送されているのが、なんともミスマッチな雰囲気だった。
正直、あまり興味はないが、無害で陽気なアニメを観ていると気分も落ち着いた。
自分の心理状態はよく分かっている。
初めての殺し合いは、それなりのストレスだったのだ。
敵意を向けられて武器で攻撃されかけた。
相手に致命傷を与えて血を浴びた。
一歩でも間違えれば死んでいた。
いずれの出来事も心的負担としては十分だろう。
こうして生還できたのは幸いだが、やはり想像より疲れる。
嘔吐するほどの不快感はないものの、己の何かが削れたような気分がした。
ただ、心の奥底で燻る昂揚感は悪くなかった。
血生臭い勝利に酔っているのだろうか。
スリルが快感にすり替わったのかもしれない。
ある種の逃避行動に近い可能性もあるが、好都合なことである。
この変貌した世界で、殺しを忌避しては生きていけない。
興味のないアニメを垂れ流しにしながら休憩すること暫し。
唐突に銃声が聞こえてきた。
起床後、何度か外で響いているのは知っていたが、今回は妙に位置が近い。
おそらくは同じマンション内の誰かが発砲したのだろう。
モンスターに襲われて攻撃に使ったのかもしれない。
同じ場所に住む人間としては見逃せなかった。
銃は強力な武器だ。
それを扱える人間がいるのなら手を組むべきではないか。
ゴブリンやオークが相手でも、銃なら対抗もしやすいはずだ。
銃を持つ人間の素性が分からないので危険もあるが、後ろ向きに考えてばかりでは行動できなくなる。
多少のリスクも呑んで進むしかない。
部屋着からジャージに着替えた後、包丁とゴルフクラブを持って自宅を出る。
銃声はおそらく上階から聞こえた。
部屋番号までは不明なので、地道に調べていくしかないだろう。