第10話 変容の始まり
何のきっかけもなく目が覚めた。
身体の痛みや疲れは感じない。
実に良い睡眠だった。
そこで気付く。
あまりにも痛みが無さすぎる。
オークとの戦いで数カ所を骨折し、内臓破裂の疑いもあった。
最低限にも満たない応急処置を施した程度で治るはずもない。
だからおかしいのだ。
ひとまず横になっていたソファから立ち上がる。
問題なく立ち上がることができた。
足腰はしっかりとしており、このまま走り回ることもできそうだった。
いや、他の部位も同様だ。
スーツはボロボロで汚れているが、肉体は絶好調である。
傷も疲労が跡形もなく消え去っている。
全治数カ月は下らない怪我が、元から存在しなかったように治癒していた。
不気味すぎる現象だ。
もっとも、世界各地を跋扈するモンスターに比べれば些細なことかもしれない。
自分にとって悪いことでもないし、考えたところで原因が分かるはずもなかった。
寝起きで推察を深めるのも面倒だったので、とりあえず食事をとることにした。
やたらと空腹で倒れそうなのだ。
お湯を沸かす間にシャワーを浴びて私服に着替える。
安物のシャツにジーパンだ。
スーツはもう着れたものではない。
近所に販売店があるので、いずれ見に行こうと思う。
その後、カップ麺をすすりながらパソコンで情報を集めた。
驚くことに、オークとの戦闘から四日が経過していた。
体感的には半日くらいだったが、思った以上に眠り込んでいたようである。
それだけ消耗していたということだろう。
死ななかった自分のしぶとさに感心してしまう。
いくつかのサイトを見て回るうちに、気になる情報を得た。
それは真偽不明という立ち位置にありながら、無視できない内容だった。
心当たりと思しき現象を知ったばかりだからである。
――モンスターを殺した人間は強くなれる。
曰く、身体能力が高まる。
曰く、五感が研ぎ澄まされる。
曰く、若返った。
曰く、目が見えるようになった。
曰く、空を飛べた。
荒唐無稽な話が大半だが、共通してモンスターの殺害がきっかけだという。
殺害数に比例して力も上がる傾向にあるらしい。
モンスターの種類によって得られる力が変わるそうだ。
誰が作成したのか知らないが、図説した画像がネット上に出回っていた。
普段ならガセだと断ずるだろう。
しかし、現在の私はこの身で味わっている。
たった四日で怪我が治ったのは、オークを殺して強くなったからではないか。
自然治癒の範疇を超えているのだ。
原因と言えばこれしか思い当たるものがなかった。




