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 その日は大雨だった。

 一人の女子高生が制服のまま傘もささずにしゃがみ込んでいる。


 これは助けなければならないと二十六歳社畜の夏井優馬は思った。


 「大丈夫ですか?」


 雨はザーザーと鳴り響く。


 俺の声なんて彼女には届いていないのかも知れない。


 それでもビクンッと反応した。

 生きてはいる。それだけで安心した。


 その女子高生はすっと立ち上がった。


 すらっとしたまるでモデルのような色気と可愛らしいルックスを兼ね備えた、まさに美少女であった。


 家に連れて帰るとまずはベッドに寝かせた。


 風邪も引くだろう。まずはふかふかの布団で一晩寝かせることにした。


 仕事の疲れもあるのか俺も気づけば床で寝ていた。


 チュン、チュン。


 「……朝か……モニュ」


 目を覚ますと小鳥の泣き声ですぐに朝が来たことはわかった。


 でもおかしい。目の前が真っ暗なんだ。


 顔にまるで大きなマッシュマロでも、乗っかっているような感触がした。


 「あ、やっと起きた!」


 え? は? えっー!?


 「おっぱ、おぱ、おっ……」


 「あはは、お兄さん動揺しすぎ!」


 何と俺の顔面に乗っかっていたマシュマロの正体は昨日拾った女子高生だった。


 「……やっ、やめろ!」


 「ほら、こうやって上下に擦るともっといいですよ?」


 女子高生は何を考えているのか、ますます問題になりそうなことをしてきた。


 「や・め・ろと言ってるだろー!!」


 「きゃー!」


 余りにしつこいため俺はその女子高生を押し倒してしまった。


 が、その反動で俺も飛んじゃった。

 俺と女子高生は今にもキスできそうなくらいな距離に来てしまい、ますます問題じみたことになってしまった。


 「……あっ、いや、すまん……」


 「兄さんのへんたーい! キスする?」


 「……誰がするか!」


 女子高生の誘惑には負けずに俺は体を起こした。


 偉いぞ俺!


 「あの時、助けてくれてありがとね」

 「……男として当然のことをしたまでだ」


 女子高生は突然、改まってお礼をしだした。


 「それでね、何か頼みとかない?」


 「……ふぇ?」


 いきなりの言葉に思わず変な声が出てしまった。


 頼みか……。


 嫌な上司を抹消してほしいのと給料を増やしてほしいのと一生遊んで暮らしたい。


 そのぐらいか……。


 だが、こんなもの高校生がどうにかできる問題じゃない。


 それ以外の頼みは今のところは。


 「……特にないな」


 「えー、嘘でしょ!? 最近溜まってるでしょ?」


 「はいー!?」


 「溜まってないの? 手伝ってあげるよ」


 「ストレスがな!!」


 全く、どんな教育を施したらこんな女子高生が生まれるんだ!


 もうちょっと女子高生は謙虚であるべきだ!


 積極性? いらん!

 スカートは短い方がいい? それは少し……いらんわ!


 「ねぇ、兄さん……我慢できないよ?」


 またこいつは!!


 「お前は恥を知れ! あと俺にはちゃんと優馬って名前があんだ! 夏井優馬って名前がな!」


 「へー、優馬って言うんだね!」


 いきなり呼び捨てかよ……。


 「そう言えばお前の名前聞いてなかったな」


 「私? 紗奈、夜ノ葉紗奈だよ」


 紗奈っていうのか……。


 「お前親とかいないのか? あんなとこにしゃがんで」


 「……それは聞かないで……」


 「へ?」


 何故だか分からないけど、紗奈は少し泣きそうな顔をしていた。


 「……ごめんね」


 「まー、よく分かんねーけどさ。男だけは弄ぶのはもうやめろよ」


 「……違うよ」


 「は?」


 「……それは優馬だったからしただけで」


 俺だったから?


 それよりもやばい……。


 いい大人が女子高生泣かせちまったじゃねーか!


 どうしよう……。なんて声をかけたら……。


 「……まぁ、泣くな。俺はお前の味方だ」


 「……ふぇぇぇ?」


 咄嗟に俺は紗奈の頭を撫でていた。


 これが初めての紗奈との出会いだった。

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