プロローグ
『閉鎖された集落』…という訳ではないが、ククル王国では禁足地と揶揄される場所がある。
十五年前の冬、ククルは甚大な自然災害に襲われた。地震や暴風雨が重なり、山崩れも頻発した。
その原因が『閉鎖された集落』にあるとされている。真偽は定かではない上に、噂話の出どころも不明だ。だが、根も葉もない噂話をククルの民は忠実に守り続けている。
「王子、そのお考えは正気ですか?」
「もちろんだ。失礼な奴だな。疑問を残したまま王になるのはいけないとお前も常々言っているだろう。王位継承者として、この国を知り尽くさねばならない。分かるだろう?」
足を組み、テーブルに置かれた紅茶を啜る。
眠そうな双眸で召使に話しかけている、どことなく偉そうな態度の男は、ククル王国の王子であるエアデール・テリアだ。
四月も中旬に入り、花達が豊かに咲き誇る庭で、エアデール王子は悠長にアフタヌーンティーを楽しんでいる。
「申し訳ございません。それは良いことです。しかし、誰が調べるのでしょうか?」
「ちょうどいい奴らがいるじゃないか。暖かくなってきたことだし、今すぐ向かわせろ。」
「今すぐ、でございますか?準備などはいかがいたしましょうか。せめて明日の朝にされては」
「今すぐだ。王に知られれば止められてしまうだろう。王もかなりの年だし、集落についてはいくら聞いても頑なに教えてくれないし…。崩御される前に知っておくべきことだろう。早く出発させろ。」
召使の話に聞く耳も持たず、カラフルなマカロンに手を伸ばした。春の風が二人の間を裂くように通り抜ける。
「…承知いたしました。」
初老の男性が深々と頭を下げた。その瞬間から伝言ゲームのように王子の命令が城内を駆け巡った。
当時作成された資料によると、『閉鎖された集落』はククル中心街から徒歩で南へ三十キロメートル程の、アジュール山の裏手にあるらしい。馬も通れぬ狭い道もある、と記されている。そう遠くはないはずだが、六時間は歩かなければいけないらしい。
エアデール王子は双眼鏡でアジュール山を見つめ、こう言い放ったらしい。
『そのような場所に本当に集落があるのか、調べてこい』
若き王子の無邪気な言葉により、不運な十名の見習い兵が問題の山へ派遣された。
ククルでは十六歳になると、男女問わず二年間王城での業務に勤めなければならない。
その中で優秀である人物がククル王城を守る衛兵やメイド、召使などに昇進する。成績の低い者や、病気等の理由により勤められない者は家に戻ることが許される。王城で働きたくない者はわざと成績を落とし、何事もなく庶民として生きることができるのだ。
事実、一般人として城下町で暮らしている大人は、その試験のようなものからふるい落とされている者ばかりだ。特段ククル城下で生き辛さを感じることはない。
そして、ここに召集されたのは兵として四月から見習いに入った者達だ。それも、最も成績の低い者から順番に今回の雑務に寄せ集められている。無論、チーム内の不和も仕方のないことだった。
初めまして
マキナと申します。
仕事が少なくなったので、家でできる趣味を探し小説にたどり着きました。
個人の妄想を書いてみようと思います。
非常に稚拙な作品ですが、よろしくお願いします。
(´Д`)