第4話
「そっか」
きっと困らせるだろうと思ったのに、彩華はあっさりと頷いて微笑んだ。
優しく。
「じゃあアタシがいいとこに連れてってあげる」
それは我が儘な弟を呆れながらも受け入れる姉のような笑みだ。
温かくて、安心する。
彩華は猛を連れて繁華街を離れ、住宅街の中をずんずん進んだ。
「空を飛べたら一瞬なんだけどねー」
許可なく飛行すると神様がうるさいらしい。世知辛いのには人間の世界も神様の世界も関係がないようである。
猛の家からもそう遠くはない住宅街を抜けると、山を削り取ってつくられた団地群が現れた。
彩華はその中を迷いのない足取りでなおも進んでいく。たくさん歩いたので血が巡り、寒さの事はすぐに忘れた。
「どこに行くの?」
控えめに訊ねると、彩華はにやりと笑って見せた。
「アタシのお気に入りの場所」
そんな表情もとびきり可愛いのだから、美人というのは狡い。
「でも、ついて来れるかなー?」
からかうように言って彼女が指し示したのは、途方もなく長い階段だった。
かつてあった山の傾斜の名残をそのまま留めているような、長い階段が団地群の中を走っているのだった。
「これ、まさか上まで行くの」
「無理? 出来ない?」
「…っ!馬鹿にするなよ」
単純な挑発にのって、猛はその名に恥じぬ力強さで猛然と階段を駆け上がった。